第三十七話=本当のニセモノ
炎が風に吹かれて、やがて完全に消えていった。残されたのは、跪きながら、真っ黒に焦がれてしまったニセモノ(オレ)と気高く、勝ち誇るように上から見下ろすホンモノ(アイツ)でした。
「け、至天なる(ケルサス)の、力……?俺は、そんな力を……!」
「あらあら、まだ自分がホンモノだと錯覚しておりますの。」
「グハッ!」
足を頭に乗せられ、思いっきり埃を吸い込んだ。
「ホンモノは、このアタイ……いいえ、ワタクシ『プリスティン=ハーモス』ですわ。」
「は、ハーモス……?俺は、ハーモス王家の者だった?」
「ですから……!」
力を入れられ、思いっきり頭を踏まれた。
「貴女はそもそもワタクシの一部では無ければ、そもそも……」
足を下ろし、しゃがんで俺の隣に来た。耳元で彼女が囁いた。
「貴女は、この世界に属しませんよ。」
「……どういうこと?」
「あーら、勘の悪いですこと。」
背を向けて、彼女は距離を取った。
「貴女は……いいえ、まだ早いですね。」
「何のことだ、さっさと話せ!」
「口の利き方がなってませんわ。」
剣を持ち、体を支えながら立った。しかし立ったあともすぐに倒れてしまった。それだけ、さっきのあの炎でダメージを負ってしまった。
「あらら、立つこともままならない貴女が、どうしてそんなに口が悪いのですか。」
「いい、から!早く、言え!でないと……!」
「でないと?」
また近づいてきた。応戦のために剣に力を入れても、残された力は極わずかで、戦うことなんて到底不可能にすぎない。
「ボロボロになっている貴女が、ワタクシをどうにかできると思いまして?」
「あぁ、できるさ!」
剣を突きさした。
「――!?」
「これなら、どうだ?」
「ば、バカなのですか、貴女は!」
それも、ホンモノ(アイツ)にではなく、ニセモノ(オレ)に。
「今、ここで俺が死んだらアンタもただじゃすまねぇだろうな。」
「それはどういうことですの?」
「さぁな。」
不敵な笑顔を出しながら、あいつを見つめた。
「直感が、そう言っているんでね。」
「――!!」
馬鹿馬鹿しい、アホらしい。なんと言われようが、とにかくそんな気がするんだ。今ここで俺が死んだら、こいつもただじゃすまないはずだ。理由?それと論理?どういうわけ?んなもん俺に聞いても知らんわ!
「呆れましたわ、本当に。」
「ほう、やっと話せる気にッーー」
「死にたいのであれば、どうぞご自由に。貴女が無くなれば、ワタクシはまた表舞台へ戻るだけですもの。」
「チッ!」
なんだよ、俺の直感はダメだったのかよ!
「ええ、貴女がここで亡くなってしまったらワタクシは困りますよ。」
「ならーー!」
「だって、今戻ったらどうやってチェレス姉さんに説明しますの?」
「説明、だと?」
「おやおや、外の様子が分かりませんの?」
パチン!と、音を立ったら周りの景色が変わった。元々の暗闇と全く違って、今、俺がいるところは……
「なんだこれは!」
廃墟の町、でしょうか。おかしい、さっきまでは草原の上に立っていたはず。そしてカルカッサ軍と戦っていたはず!それなのに、これは?
「まさか……カルカッサ軍が!?」
「はぁ……」
しかし、俺の疑問をバカバカしいと思わんばかりに、アイツがでかい溜息をこぼした。
「これは、貴女がやったことでございますよ。」
「……え?どういう、こと?」
この状況を作り出したのは、俺であり、アイツである……?
「わかりませんの?」
圧倒的上から目線で俺を見下す。
「貴女がワタクシの力を制御できなかったせいですの。そして、ワタクシも貴女から体を奪う……いいえ、取り返すことができないせいで、力が暴走してしまいましたの。」
「力が、暴走?」
「そうですわ。貴女もうすうす気づいたはずでしょ?最近は力の制御ができないでいる、と……」
「――!」
こいつは……さすがはホンモノというべきか、ちゃんとわかっているようだ。
「ここ、アリアはワタクシの故郷なの。それは貴女自身もわかっていることでしょ?」
「は?俺は……」
「じゃあどこで産まれましたの?」
そして、耳打ちであいつは言い続けた。
「エリハイアに居る記憶ですらも曖昧なくせに。」
――!!
心を響き渡るその言葉に、心が持ちこたえなくなりそうになった。
「貴女の生まれ、そして育ち。ワタクシは誰よりもわかっていますってよ。」
「……」
俯せる。痛いところを突かれてしまった。
俺には、生まれてからの記憶がない。それどころか自分の生みの親の顔ですら覚えておらず。
「いい加減に、体をーー!?」
大きな振動が、空間を揺るがす。
「なんだ!?」
(……!!)
しかし、響く。空間の中で、声が響いた。
「化け物だ!殺せ!」
「ば、化け物、ですって!?」
空間に響く声に、ホンモノ(アイツ)が大声で怒鳴り返す。だが、俺の心の中に響いたのは、別の声だった。
(お姉さん!お姉さんでしょ!)
か弱い声、かすかに聞き取れる。それは間違いなく、ラルフの声だ。
「ひ、ひぇ!や、やめろ!来るな、くるなああ!!」
「あはははは!ざまぁありませんわ!」
相変わらず空間に響く声にだけ反応する。アイツにはこの声が聞こえないのか?
(戻ってきてよ!お姉さん!)
「ちっ。」
その声を聞いて、自然に舌打ちをした。なんとも腹立つ声、なんとも……
(どうしちゃったのよ、お姉さん!)
心強い声だろう。
「おい、アンタ。」
「なんですの?今、すごく不愉快なの。」
「アイツの声が聞こえないのか。」
「アイツですって?誰よ、どこのどいつよ!」
「……やはりか。」
立ち上がり、そして自分の体を見つめる。体の傷が癒えて、力も徐々に回復している。
「どいつ、か……そうだな。」
そして、剣を持ち上げて、アイツに突き指す。
「俺の所有物、だ。」
「な、なんですと……!?」
体が強い光が放ち、空間を覆い被った。しかし、空間に響く声……外の世界の声にいまだに囚われているようで、アイツは怒り散らす。
「じゃあな、ホンモノ。」
「貴女、どこへ……!?」
「そうだな。」
背を向けた。
「俺の居場所へ。」
声が響く。空間に響く声がすでに兵士の声ではなくなり、ラルフの声になっていた。しかし、やはりホンモノ(アイツ)には聞こえないようだ。
歩く。そして光がだんだん強くなっている。背後に大声で怒鳴るホンモノの声も徐々に聞こえなくなる。
………………
…………
……
そして、気が付くと俺は廃墟の町に居た。
「手が、とま、った?」
兵士たちに一瞥をしたあと、俺を助けたやつを探すため目をきょろきょろした。
「お姉さん!」
そして、俺を迎えたのは……
「……心配かけたな。」
所有物からの熱い歓迎であり、頭突きであった。
(つづく)
意識の底に、ホンモノとニセモノが戦っている。そして、戦って勝ったのは......?
ホンモノとは?ニセモノとは?




