第三十四話=始まりの叛逆
戦場にて、魔将軍のヴィスコンティが信じられない場面に当たってしまった。
「貴女は誰ですか?我らの邪魔をするのは魔王『カルカッサ=ハーモス』様が、許しませんよ。」
「へっ、知ったことか。」
シーンと、剣を抜き出し、ヴィスコンティに指した。
「アタイも、元とはいえハーモス家の者なんでねぇ……」
(元ハーモス王家の者?)
ヴィスコンティが思うのは、はるか昔に放逐されたハーモス王家の者なのでは?と。それも、一代二代ではなく、それよりも昔に放逐されてしまった者ではないかと。
「おいてめぇら!アタイらギャングの力を見せたれ!」
大声で叫ぶチェレス。
「皆の者、かかれ!我らの恐ろしさを思い知らせろ!」
それ同等な大きな声で叫ぶヴィスコンティ。しかし、彼の心の中でひとつの疑問が生じてしまった。
目の前の女性は、なぜ自分らに反旗を翻す。彼女は知っているはず、自分の軍では勝てそうにもないことを。それでも彼女は立ち向かう、そして彼女の兵……ギャングたちも同じく。
彼女は、何のために戦う?そして、元ハーモスとは一体……?
………………
…………
……
目が、冴えきっている。走るスピードも、いつも以上に速い。
「ま、待ってくださいよ、ゆうしゃお兄さん!」
「早くしないとチュバルが大変でしょ!」
永劫なる(エターナル)レベルのラルフにも簡単に追い抜かれずに居る。これは一体どういうこと?
この力……私の体の中に秘めている力は、一体どのレベルに属している?
「見えた!」
遠いところに、煙が見える。そして音も大きくなっている。間違いなく、敵はすぐそこに居る。
「――!」
敵がこちらに反応をした。声に出して見えた!を叫ぶせいでしょう。
「何者だ、貴様ら!」
「私は……!」
剣に手を取り、引き抜き。
「勇者だ!」
カルカッサ軍に、一閃を見舞った。
……と、思っていた。
(な、なんでだ!)
握りに手を強く握りしめている。引き抜こうとしてはいるものの、なぜか力が入らない。引き抜くことに、抵抗をしている……?
「な、何の真似だ、貴様!」
異変に気付き、急いで足を止めた。敵の前で、私は足を止めていた。これはどういうことか、私は知っている。
「ち、違うんです!ち、力が、入り、ません!」
強く、強く抜こうとしているけれど、抜けれない。握りしめることは可能だが、剣を引き抜けない。
「あのさ……ここは子供の遊び場じゃないんだぞ。こっちは戦争ごっこでやっているわけじゃねぇんだぞ!」
そして飛び出すのは、カルカッサ軍の怒りの罵声。
彼もまた、剣を握っている。しかし、私は剣を抜け出せないでいる……このままだと、おそらく私は死んでしまう。ラルフのやつは……私の後ろで丸まっている。ひどい怯えているようだ。
「ラルフ、頼む!私にお前の力を分けてくれ!」
「ふ、ふえ!?ぼ、ボクの力、ですか?」
「あ?ラルフ?どこにいやがるってんだ、あぁ!?」
カルカッサ軍の人は、さらに怒り出した。どうやらラルフの名前は彼を刺激してしまったようだ。
「頼む、早く!」
手が、拒絶している。剣を抜くことを、それとも戦うことを?一体、どっち?
「わ、わかりました!」
私から離れて、両手を重ねて私に向き、詠唱を始めた。
「あ、貴方は!元魔王の、ラルフ!?」
ここで、兵士はラルフの姿を確認できた。そして、彼の目は真っ赤に染められた。怒りで血が眼を充満した。
「聖光の導きを!聖光の輝きを!永劫なる聖光!」
兵士は棒立ちしている。目の前の現象に驚いているのでしょうか。
ラルフの力が体の中を巡り巡って、私自身の力を中和した。どうやら、ここへ来る途中で立てた仮設が、当たったようだ。
私は……勇者ではない。それどころか、この力は悪の類。だからこそ、光系統の力を借りて中和する必要があった。
「さぁ、戦おう。」
手が、言うことを聞いてくれた。剣を、上手く抜けた。
「元魔王、そしてその連れ添い……アンタ、指名手配になっているぞ。」
「えぇ、知っております。だからこそ……」
剣を彼に指し、続けて言う。
「反逆を、しないといけません。」
カーン!と、兜を割る音がした。
………………
…………
……
「ねぇ、主様。こんなところで何をされているのですか。」
「え?あぁ、なんでもないよ。」
「うわー綺麗だね、そのお花!」
「あぁ、綺麗だろ?この子達にはそれぞれ花言葉があるよ。」
「ほうほう、具体的に?」
「この子は……忠節、そしてこの子は、清き。そして清廉、崇高……」
「ははは!おもしろーい!主様って、やっぱり博識ですね!」
「いや、そんなことはないぞ。」
「ふーん、まぁいっか。ところで、こんなところで、何をされているの?」
「なんでもないよ、ただ……」
「ただ?」
「この散ってしまった命たちに、謝りに来ただけだよ。」
「へぇーでも……許してくれるのかな。ほら、あの人かなり怒ってるよ。」
「あぁ、大丈夫だ。寧ろ、許してくれないほうがいい。」
「ほえ?」
「私のわがままのせいで、命を散ってしまった英霊たちよ。私を恨め、私を憎め。」
「主様……」
「私を、許さないでくれ。」
………………
…………
……
(この力は、間違いなく神様の物だ。)
草原にて、一人の少女が立っている。元々はプリスティンを探していたのだけれど、途中でここに懐かしい力を感じ、探ってきた。
その力の残渣は、まぎれもなく光明魔王の力だった。ここで、アレは何かをやっていた。何をやっていたのかは、少女にはわからなかった。分かる術がなかった。
「……」
遠い彼方を、彼女は見ている。見つめる視線の先にて、煙が立っている。チュバル侵攻作戦の印であると、彼女はわかっている。
「チェレスちゃん……」
自分の胸に手を当てて、悔しがる涙がこぼれた。
(お前は来るな。)
その言葉に、彼女は酷く傷付いた。
彼女の友たちである、チェレス=ティーアは、彼女の参戦に異を唱えた。彼女は、戦いたかった。
己を助けたチェレスのために何かをしたい、しかし彼女は拒絶された。理由は言われなかった。しかし、勘の良い少女は知っている。
自分がもし、参戦してしまったらいよいよ本当に、元に戻れなくなってしまう。
「アタシは……」
ドーン!と、遠いところから爆発音がした。彼女は怯えた。そのせいで少し、泣き虫になりそうになった。
彼女は呪われている。神に、呪われている。その身に付いている呪いのせいで、彼女は急に性格を変えられてしまう。
………………
…………
……
あぁ、堪らない……
「はぁはぁ……」
血の淵、亡骸の山。周りにあるものすべてが、恐怖をもたらしている。それなのに俺は、寧ろ喜んでいる。この悲惨な状況を、楽しんでいる。
「ああああ!!!」
頭を狂ったように掻き毟る。血の匂いが俺を狂わせているのか?それとも、この状況から生じる恐怖が?あるいは……ただ単に、殺しに酔いしれているだけなのか?
「ひ、ひぃ!!ば、化け物!!」
援軍らしい魔族が来た。しかし俺を見ると真っ先に飛び出すのはその暴言。俺は化け物じゃねぇ、俺は……人だ。人族だ。俺は化け物じゃねぇんだよ!
「おいアンタら。」
目の前に怯える魔族たちが視線に入った。
(俺を化け物呼ばわりとは何様だ!)
「俺をさっさと殺してくれ!」
気のせいか、思ったことということが、逆のようだった。
………………
…………
……
時間が経ち、兵力の差によって、チェレス軍は壊滅的だった。チェレス軍を率いるチェレスは、地面に膝をつけ、魔将軍ヴィスコンティに負けを食らった。
「貴女は……何のために反旗を翻すのですか。」
敗戦の将へ、ヴィスコンティは剣を突き指して質問を投げた。
「へっ、言うまでもねぇよ。」
戦勝の将へ、チェレスは頭を上げて答えをした。
「国のためだ。」
「――!」
彼は驚いた。国のために、反旗を翻したと彼女が発した言葉に。そして、彼女の正体にも。
「貴女は……チェレス、様……!」
目の前の少女に驚愕しながら、彼女を支えた。
「あ?ひょっとして、ククさんか?」
「はい……私は、貴女様の……魔将軍である、ククレス=ヴィスコンティでございます……」
彼女を強く抱きしめ、涙をこぼした。
多少気難しそうだが、チェレスは軽くヴィスコンティの手に触れた。戦いに傷つけられて血が流れ、その同時に涙も流れ落ちてしまった。
(つづく)
ゆうしゃではなく、勇者。それとも勇者ではなくてゆうしゃ?
彼は戦う、誰のためか、何のためかを知らぬままに......
ククレス=ヴィスコンティもまた戦う。これからは、魔王のために戦う。




