第三十三話=進むのは、反逆の道
「うっ!」
「ぎゃああ!」
「くわああ!」
魔族の悲鳴が聞こえる。そしてその同時に、血の噴出音も聞こえてくる。その二種類の音が俺の心を癒してくれている。返り血を浴びて、体中が赤く染められていて、血腥いにおいもするし、べとべともする。
「あぁ……堪らない。」
しかし、それらの不快感よりも、ただひたすらに戦闘に没頭する。戦いの愉悦に酔いしれている。
たびたび、(俺ってこんなやつだったっけ)と、自分に問い聞かせても、体がひたすらに愉悦を求めているせいで、話を聞いてくれない状態に居る。
「次は……お前だ。」
「ひっ!」
我ながら恥ずかしいことに、俺は、その快楽に打ち勝とうとする欲望はない。むしろ出来れば、このまま敵を切りまくりたいまで思っている。自ら制御をあきらめている。
「クタバレ……」
ズドン!と、腹から刺し、剣を抜いて屍を地面に倒した。いつの間にか、力がまた俺の言うことを聞くようになった。それとも、実は今は……逆に俺がこの力に操られているとも考えられる。
もし、そうだとしたら……
「もうそれ以上は、やめさせてもらうよ。」
「ほう、それはもしかして、俺に向かって言う言葉か。」
後ろから男性の声がする。振り向くと、魔族の鎧の上には何枚ものの勲章がある。さては功名を結構挙げている兵士でしょうか。一、二、三……五枚か、さすがだな。
「言うまでもございませんでしょう。」
「ならば……」
力を剣の先端に集中させ、剣が真っ赤に燃え上がる。
「力で、押し通してみるだけだな。」
力の炎が燃え盛る。体中が殺しの衝動に駆られている。俺は……どうなるのだろうか。
………………
…………
……
「これで、一通り避難が終わったのでしょうか。」
周りを見渡せば、相変わらず汚らしい街中。その中には誰も居なく、おそらく全員避難に向かったのでしょうか。中にはチュバルへ走っていった方もいたけど、無事を祈るしか……ないのだろう。
「では……」
剣を抜き、鏡の代わりに使って自分の顔を見つめた。ひどい有様だ。
今思い返したら、家を出てから大分経ったな。母さんは今頃元気でいるのだろうか。何をしているのだろうか。父さんが亡くなってからもう三年も経ったか。本当の事を言うと、私が母さんの隣に居ないといけないのはわかっている。けど……
「どうせ、私が居なくても……」
家には二人の兄が居る。長兄は金融をやっていて、金融業界ではそれなりに名を馳せている。次兄は父が亡くなってからは実家の家業、農家をやっている。しかし、元が研究者であるため、たびたび研究所にも顔を出しているそうだ。
家には、私の居場所なんてなかった。
私だけ、力も普通な(ジ)レベルだし、才識も人並み以下。こんな私に、何が出来るのだろうか。
「考えていても仕方ない。」
とにかく、今やるべきことは……ただひとつ。チュバルを救うこと。
そう思った私は、急ぎ足でチェレス軍のアジトへ向かった。
アジトに戻ると、出迎えが一人しか居ませんでした。
「あ、あれ?ゆうしゃお兄さん、どうしたの?」
「ら、ラルフ、か……皆は、どこへ?」
息切れ気味で聞いた。アジトにはラルフが出迎えてくれた。本来なら衛兵の人が来るはずなのに、ラルフだった。もうすでに、全軍出発した?
「皆さんを連れて、チュバルへ行くと……チェレス姉さんがおっしゃいました。」
ここで、若干残念そうな顔をした。私ではなく、彼が。
「ボクだけ……仲間はずれにされている……」
ポンっと、肩に手を乗せた。
「……チェレスさんはきっと、何かしらの戦略があるのでしょう。信じてあげなさい、実の姉でしょ。」
「う、うん……わかりました……」
しかし、それでも残念そうな顔を、彼はしている。よほど悔しかったんでしょう。自分だけ力になれないと……だが、逆だ。
チェレスさんがあえてラルフをここに残したのは、きっと、彼にアジトを守らせることを選択したのでしょう。
ラルフならば、実の弟である彼ならば、きっと……チェレスさんたちが全員地に着いてしまっても、生き延びて行くでしょう。
正直言って、チェレス軍では到底太刀打ちできそうな相手ではないのは明白だ。相手の兵は見渡す限りでは全部視野に入れることは出来なかった。だが、チェレス軍は?
このアジトいっぱい詰まっていても、所詮その程度の人数だ。数では圧倒的に不利にある。
「ゆうしゃお兄さんは?チュバルへ、行きますか?行くなら……」
「いや、私は行かないよ。」
「え?どうして?」
「……君を、守らないといけないからね。」
「うう……ありがとうございます。」
嘘を、ついてしまった。
私はただ、臆病で、情けないだけでした。どうせ自分が行っても、戦力にはなれそうにない。姫様や師匠のように強くないし、兵士たちとは連携も取れそうになく、戦場へ行ってしまったら……ただの足手まといでしかない。
私は、弱い。
私は、情けない。
ただ、あのときの力さえ、使えれば……
あの時、姫様を救い出せたあの力さえあれば、私でも力になれるはず。けれど……
(力を、欲するか。)
心の中で、謎の声が響く。
(欲しい、欲しいに決まっている!姫様たちの助けになりたい、チェレスさんたちの国を救いたい!)
その声に、思わず返事をした。しかし、内心のその声に返事をしていても意味はないのだろう。と、そう思った瞬間。
(どんな力を、欲するか。)
――!!心の中に響いた。
周りを見渡した。すると、なぜか風は止み、空気の流れが、時間の流れさえも、止まっているように感じてしまった。
あの時と、同じだ。だが、今度は目の前にはあの男……光明魔王が居ない。だとしたら……今度、私と「対話」をしているのは、もしかして……私の元の力?
(神をも滅する力か。)
(魔をも創造する力か。)
(人をも調和する力か。)
三方面から声が響いてきた。この中で、私は……どれを選ぼうと考えるときに、真正面から四つ目の声が響いてきた。
(それとも、すべてを支配する力か。)
頭を横に振る。違うんだ、私が欲しいのは……
「皆を、守れる力を……!皆を守れる力が欲しい!」
目を大きく開いて、真正面へ見つめた。
気がつくと、私は倒れていた。どうやらラルフにアジト内の休憩室に運ばれたようだ。だとしたら、さっきのアレは一体……?まさか、ただの夢だったのですか?
だとしたら、私はなぜ、倒れてしまったの?一体、いつからが幻で、いつまでが現実で……?
「こ、ここは……?」
「やっと目を覚ましたのですね!よかった……!急に倒れたから心配しましたよ。」
「お、おう……それはすまなかった。」
自分の手を見つめる。この体は、本当に私の体だろうか。体が軽い、体中を巡り回る力の清流が、いつもより何倍も強く感じる。少し力を凝縮するだけで、力の流れで体が爆発しそうになる。
「どうかしたのですか?やっぱり、まだ調子が悪いのですか?」
「……」
頭を横に振る。
「ラルフ、私はチュバルへ行く。」
「えっ、ぼ、ボクを守るんじゃないのですか?」
「……君も、一緒に来てくれないか。私には……君のサポートが必要になるかもしれない。」
君のサポートが必要になるかもしれない。彼なら、私のことを守れると思う。永劫なる聖光の使い手である彼ならば。
「えっ、い、いいのですか!?ぜひ、ご一緒させてください!」
ベッドから降りて、剣を手に取った。再び、鏡の代わりに自分の顔を見つめた。相変わらず泥だらけの顔だけれど、先ほど見たときと大きく違っている。
目が、青色になっている。
………………
…………
……
「あらあら、ゆうしゃ君が……大丈夫ですかね、スー。」
「知るか。あんなごみ当然なやつのことなど。」
「ダメよ?同じく『勇者』の名前を持っている人だから。」
「ちっ。アイツは勇者じゃねぇだろ?ゆうしゃ、だろ?」
「うーん、それもそうか。まぁ、また来ないかなぁ、ゆうしゃ君。」
「そんなに来て欲しいわけ?」
「ううん。ただ……」
「ただ?」
「なんだか、放っておけないなぁと思っただけ。」
「フン。」
(つづく)
ゆうしゃは、目覚めを迎えようとしている。しかし、彼はその目覚めを受け入れられるのだろうか。
臆病で、弱気な彼は......受け入れられるのだろうか。




