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姫様!魔王様!  作者: 煌黒星
アリア王位奪纂
37/68

第三十三話=進むのは、反逆の道

「うっ!」

「ぎゃああ!」

「くわああ!」

 魔族の悲鳴が聞こえる。そしてその同時に、血の噴出音も聞こえてくる。その二種類の音が俺の心を癒してくれている。返り血を浴びて、体中が赤く染められていて、血腥いにおいもするし、べとべともする。

「あぁ……堪らない。」

 しかし、それらの不快感よりも、ただひたすらに戦闘に没頭する。戦いの愉悦に酔いしれている。

 たびたび、(俺ってこんなやつだったっけ)と、自分に問い聞かせても、体がひたすらに愉悦を求めているせいで、話を聞いてくれない状態に居る。

「次は……お前だ。」

「ひっ!」

 我ながら恥ずかしいことに、俺は、その快楽に打ち勝とうとする欲望はない。むしろ出来れば、このまま敵を切りまくりたいまで思っている。自ら制御をあきらめている。

「クタバレ……」

 ズドン!と、腹から刺し、剣を抜いて屍を地面に倒した。いつの間にか、力がまた俺の言うことを聞くようになった。それとも、実は今は……逆に俺がこの力に操られているとも考えられる。

 もし、そうだとしたら……

「もうそれ以上は、やめさせてもらうよ。」

「ほう、それはもしかして、俺に向かって言う言葉か。」

 後ろから男性の声がする。振り向くと、魔族の鎧の上には何枚ものの勲章がある。さては功名を結構挙げている兵士でしょうか。一、二、三……五枚か、さすがだな。

「言うまでもございませんでしょう。」

「ならば……」

 力を剣の先端に集中させ、剣が真っ赤に燃え上がる。

「力で、押し通してみるだけだな。」

 力の炎が燃え盛る。体中が殺しの衝動に駆られている。俺は……どうなるのだろうか。


………………

…………

……

「これで、一通り避難が終わったのでしょうか。」

 周りを見渡せば、相変わらず汚らしい街中。その中には誰も居なく、おそらく全員避難に向かったのでしょうか。中にはチュバルへ走っていった方もいたけど、無事を祈るしか……ないのだろう。

「では……」

 剣を抜き、鏡の代わりに使って自分の顔を見つめた。ひどい有様だ。

 今思い返したら、家を出てから大分経ったな。母さんは今頃元気でいるのだろうか。何をしているのだろうか。父さんが亡くなってからもう三年も経ったか。本当の事を言うと、私が母さんの隣に居ないといけないのはわかっている。けど……

「どうせ、私が居なくても……」

 家には二人の兄が居る。長兄は金融をやっていて、金融業界ではそれなりに名を馳せている。次兄は父が亡くなってからは実家の家業、農家をやっている。しかし、元が研究者であるため、たびたび研究所にも顔を出しているそうだ。

 家には、私の居場所なんてなかった。

 私だけ、力も普通な(ジ)レベルだし、才識も人並み以下。こんな私に、何が出来るのだろうか。

「考えていても仕方ない。」

 とにかく、今やるべきことは……ただひとつ。チュバルを救うこと。

 そう思った私は、急ぎ足でチェレス軍のアジトへ向かった。


 アジトに戻ると、出迎えが一人しか居ませんでした。

「あ、あれ?ゆうしゃお兄さん、どうしたの?」

「ら、ラルフ、か……皆は、どこへ?」

 息切れ気味で聞いた。アジトにはラルフが出迎えてくれた。本来なら衛兵の人が来るはずなのに、ラルフだった。もうすでに、全軍出発した?

「皆さんを連れて、チュバルへ行くと……チェレス姉さんがおっしゃいました。」

 ここで、若干残念そうな顔をした。私ではなく、彼が。

「ボクだけ……仲間はずれにされている……」

 ポンっと、肩に手を乗せた。

「……チェレスさんはきっと、何かしらの戦略があるのでしょう。信じてあげなさい、実の姉でしょ。」

「う、うん……わかりました……」

 しかし、それでも残念そうな顔を、彼はしている。よほど悔しかったんでしょう。自分だけ力になれないと……だが、逆だ。

 チェレスさんがあえてラルフをここに残したのは、きっと、彼にアジトを守らせることを選択したのでしょう。

 ラルフならば、実の弟である彼ならば、きっと……チェレスさんたちが全員地に着いてしまっても、生き延びて行くでしょう。

 正直言って、チェレス軍では到底太刀打ちできそうな相手ではないのは明白だ。相手の兵は見渡す限りでは全部視野に入れることは出来なかった。だが、チェレス軍は?

 このアジトいっぱい詰まっていても、所詮その程度の人数だ。数では圧倒的に不利にある。

「ゆうしゃお兄さんは?チュバルへ、行きますか?行くなら……」

「いや、私は行かないよ。」

「え?どうして?」

「……君を、守らないといけないからね。」

「うう……ありがとうございます。」

 嘘を、ついてしまった。

 私はただ、臆病で、情けないだけでした。どうせ自分が行っても、戦力にはなれそうにない。姫様や師匠のように強くないし、兵士たちとは連携も取れそうになく、戦場へ行ってしまったら……ただの足手まといでしかない。

 私は、弱い。

 私は、情けない。

 ただ、あのときの力さえ、使えれば……

 あの時、姫様を救い出せたあの力さえあれば、私でも力になれるはず。けれど……


 (力を、欲するか。)

 心の中で、謎の声が響く。

 (欲しい、欲しいに決まっている!姫様たちの助けになりたい、チェレスさんたちの国を救いたい!)

 その声に、思わず返事をした。しかし、内心のその声に返事をしていても意味はないのだろう。と、そう思った瞬間。

 (どんな力を、欲するか。)

 ――!!心の中に響いた。

 周りを見渡した。すると、なぜか風は止み、空気の流れが、時間の流れさえも、止まっているように感じてしまった。

 あの時と、同じだ。だが、今度は目の前にはあの男……光明魔王が居ない。だとしたら……今度、私と「対話」をしているのは、もしかして……私の元の力?

 (神をも滅する力か。)

 (魔をも創造する力か。)

 (人をも調和する力か。)

 三方面から声が響いてきた。この中で、私は……どれを選ぼうと考えるときに、真正面から四つ目の声が響いてきた。

 (それとも、すべてを支配する力か。)

 頭を横に振る。違うんだ、私が欲しいのは……

「皆を、守れる力を……!皆を守れる力が欲しい!」

 目を大きく開いて、真正面へ見つめた。


 気がつくと、私は倒れていた。どうやらラルフにアジト内の休憩室に運ばれたようだ。だとしたら、さっきのアレは一体……?まさか、ただの夢だったのですか?

 だとしたら、私はなぜ、倒れてしまったの?一体、いつからが幻で、いつまでが現実で……?

「こ、ここは……?」

「やっと目を覚ましたのですね!よかった……!急に倒れたから心配しましたよ。」

「お、おう……それはすまなかった。」

 自分の手を見つめる。この体は、本当に私の体だろうか。体が軽い、体中を巡り回る力の清流が、いつもより何倍も強く感じる。少し力を凝縮するだけで、力の流れで体が爆発しそうになる。

「どうかしたのですか?やっぱり、まだ調子が悪いのですか?」

「……」

 頭を横に振る。

「ラルフ、私はチュバルへ行く。」

「えっ、ぼ、ボクを守るんじゃないのですか?」

「……君も、一緒に来てくれないか。私には……君のサポートが必要になるかもしれない。」

 君のサポートが必要になるかもしれない。彼なら、私のことを守れると思う。永劫なる聖光(エターナルディバイン)の使い手である彼ならば。

「えっ、い、いいのですか!?ぜひ、ご一緒させてください!」

 ベッドから降りて、剣を手に取った。再び、鏡の代わりに自分の顔を見つめた。相変わらず泥だらけの顔だけれど、先ほど見たときと大きく違っている。

 目が、青色になっている。


………………

…………

……

「あらあら、ゆうしゃ君が……大丈夫ですかね、スー。」

「知るか。あんなごみ当然なやつのことなど。」

「ダメよ?同じく『勇者』の名前を持っている人だから。」

「ちっ。アイツは勇者じゃねぇだろ?ゆうしゃ、だろ?」

「うーん、それもそうか。まぁ、また来ないかなぁ、ゆうしゃ君。」

「そんなに来て欲しいわけ?」

「ううん。ただ……」

「ただ?」

「なんだか、放っておけないなぁと思っただけ。」

「フン。」


(つづく)

ゆうしゃは、目覚めを迎えようとしている。しかし、彼はその目覚めを受け入れられるのだろうか。

臆病で、弱気な彼は......受け入れられるのだろうか。

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