第三十一話=見えた夢の終わり
カン!カン!と、剣と拳がぶつかるたび、響き渡るは金属音。
キン!キン!と、攻撃を受けるたびに、剣が悲鳴を上げる。それゆえに時々、錯乱してしまう。
(こいつは……本当に拳で戦ってんの?)
拳にしては重さが半端なく、しかし剣にしては少し軽すぎ。拳に力を入れれば多少は金属に近づけるが、ここまで?まるで本物の金属みたいだぞ?
「どうしたどうした!この程度か!?」
振りかざすは、右からのストレート。だっと思ったが、それはフェイントで本当は左手のアッパーが狙いだった。動きも一瞬で始まり、また一瞬で終わる。神速の拳、剛力の神拳、そして他にもいろいろな呼び名を有している……紛れもない、実力者だ。
「クソが……!」
エリハイアの姫である俺が、こんなやつに負けてはいけない。俺が負けてしまったらエリハイアに……母さんの顔に泥を塗ってしまう……!
怒りに身を任せ、力をさらに剣に注ぎ込む。炎が燃え盛る剣……これならばいかなる鋼も熔かせる……だから、こいつで、あいつの拳を……!
「――!」
しかし、逆に俺の手が持たないかもしれん。熱い。柄が熱い。そして何よりも、体から燃え上がる怒りの炎に逆に体が焦がれてしまいそうだ。
「ほう、そんなに力に身を任せるのか。」
「……知る為なら、これくらい……!」
「どうってこと、ない?ふん、いつまで強がっていけるのかね。」
強がる?俺は、強がっている?そうかもしれない。だが、こいつを倒したら、俺は……!知れるんだ、自分は一体何なのかを!
「くっ!」
しかし、先ほどの威勢はなく、体が少しずつ蝕まれているのを実感できる。体の中が、熱い。汗も流している……いや、逃げ出している。体の中の水が、逃げたい、逃げ出したいと強く訴えている。このままだと、体の中の水が先に全部蒸発して、俺が……!
「クタば……れえええ!!」
だが、これしきのことで引くわけには行かない。死んでもいい、むしろ死んだほうがいい。死んだらこのわけのわからない状況から抜け出せる。だから……!
「……いい加減にしろ。」
しかし、俺の剣を避けたアマドリは反撃をしてこなかった。その代わりに……
「――!な、何だこれ!」
俺は、閉じこまれた。見えない壁に閉じこまれた。しかも同時に力が発揮できなくなった。
「ここで死なれては困るんでね、しばらく大人しくしてもらうよ。」
「は!?俺はさっきまでお前を殺そうとしていたんだぞ!敵に情けをかけるな!」
「敵、か……」
しかし、ここでアイツは神妙な顔をした。見えない壁を越して、俺の目を直視している。
「なぁ、プリちゃん。私のこと、覚えてないの?」
「あぁん!?夢の中のことならまだはっきり覚えているぜ。」
「違う違う、昔、会わなかった?覚えてないの?」
昔のこと?俺はそれを知りたくて、ここに来れば教えてくれるって、お前が言ってたんだぞ?それなのに俺にそんなこと聞く?バカじゃねぇの?しかし……思い返せば、少し、面影が浮いてきた。
「……覚えてねぇな。」
「コラ、嘘はよくないぞ?」
「知れたこと……!アンタのことなんか見たこともねぇし、会ったこともねぇよ!」
「そう?」
後ろに回って、そしてまた俺に正面を向く。今度は呪文を唱えた。
「我が望むことを。我が知ろうとすることを。我が……支配することを。」
目を大きく開き、俺に凝視した。体の中に、何かが入ってきたのを、感知できる。これは。こいつの力、か?
「くっ!」
そして、俺は知っている。この力は、俺のすべてを奪った力ということ。そして、俺のことをすべて知っているということ。
「ほら、やっぱり覚えてんじゃん。」
「うるせぇ!いい加減にしろ!それで知ろうと思っていたなら、最初からそうしろ!」
「へへーんだ、私は、プリちゃんの口から聞きたかったからね。」
クソ……こいつ……!
こんな力を持っていること自体は、最初から知らなかった。いや、思い出していなかっただけだった。
こいつは……この狂神は、小さいときにずっとそばに居た。それを、さっきの闘いを通じて思い出した。
だからこそ闘いの中でヤケになって、自分の身を滅ぼそうとした。すでにわかっていた、どんだけ力を出しても勝てそうにないって。
「ねぇ、思い出せないの?小さい時の記憶。」
「思い出せないね、アンタなら、何とかできそうだとは思うんだけど。」
「残念ながら……」
こいつにも出来ないとなると、俺の小さい時の記憶は一体どこへ飛んでしまったんだ?
「私には出来ますね。」
「そうだよな、できな……はっ?」
「うん、出来ますよ?やってあげようか?」
「出来るならさっさとやれ!俺の記憶を……!」
「ふーん。」
しかし、ここでアイツはまた、躊躇った。というより、これは俺を弄んでいるようにしか見えない。
「やーだね。」
「てめぇ……!!」
ドン!ドン!と、怒りに身を任せ、壁を叩いた。力こそ使えないものの、これくらいのことなら力を使わずとも出来る。
「旅をしているんだろ?」
「旅?」
ここで手が止まった。旅?旅をしているって?ラルフのやつを玉座に戻した後、俺もただエリハイアに戻るだけ。それ以外の目的はない。
「え?してなかったの?」
「してねぇよ。」
「なら、して?」
「しねぇよ、ボケ。」
「まぁ、記憶を取り戻したければ、旅をするんだな。出来ればラルフと、あとあのゆうしゃ?ってやつと一緒にね。」
「はぁ!?何で俺がんなことしなきゃいけねぇんだよ!?」
「それは教えられないね。じゃあ、私はここで。」
「おい、待て!」
風が吹き始めた。見えない壁があるはずなのに、それでも風を感じられる。
こいつは、逃げるつもりだ。何も言わないまま、逃げるつもりだ。そんなこと許すわけねぇだろ!だから……!
「おい!行くな!」
「んじゃ、またーー」
「かわいい女の子を紹介してやるからちょっと待って!」
こうすれば、こいつは話を聞くはずだ。だから……!
「かわいい女の子?」
そして、風は止んだ。今すぐにでもここを去ろうとしたアマドリも、また俺に面を向けた。
「残念だが忙しいのでな……かわいい女の子は、また今度な。」
「お、おい!!」
そして、手を伸ばす。壁は消え、やつの姿も消えた。草原の上で、俺だけ残されてしまった。ここで、さっきやつが言っていたことを振り返った。
やつは、俺に旅を出ろといった。だが、そのメンバーは……俺、ラルフ、そしてクソ雑魚……クリアは?やつも知っているはず、クリアもここに来ていることを。それなのに、こいつはクリアに俺と旅をしてほしくない……?どういうことだ?
………………
…………
……
「あぁ、どうした。」
「主様主様、例の人、見つかりましたよ。」
「そうか……ありがとう、荒間。」
「へへへ……撫で撫で、ありがと。」
「じゃ、行きますか。数多くのドールが犠牲になっているって聞いたので。」
「うん、いきましょ!」
「こ、これは……ずいぶん暴れてくれたな。」
「ぬ、主様!?い、行けません!ここは!」
「うるせぇんだよタコ!アンタが、こいつらの主ってやつか。」
「ほう……私の愛おしいドールたちを、タコ呼ばわりするとは……」
「知るか!!アンタのせいで、俺は、俺はグランを……!ぶっ殺す、ぜってぇーに、ぶっ殺してやる!」
「みな、下がって。こいつは、私に任せてくれ。」
(私の力を征服し、自分のものにしたみたいだ……これは、逸材ですね。)
………………
…………
……
会議は結局結果が出せずに終わり、そのあとチェレスさんに聞かれたこともなんだかもやもやした感じで終わってしまった。おかげで今、心の中がすごく混乱している。あの子はプリスティンっていっていた、そして、あの子こそがチェレスさんの妹だと……亡くなった原因はなんにせよ、私には関係のない話ではあるが……なぜか、すごく大事だと思った。なぜか、完全に他人事と割り切れない。
「あーもう!モヤモヤする!」
そう言った後、扉を開いて外へ出た。こんなときこそ、安らぎを求めて街へ行くべきだと思う。
……まぁ、行くのは、スラム街だけれども。
少し歩いて、スラム街に着いた。しかし、なにやら異様な雰囲気のようだ。
「どけっ!このスラムどもが!」
そこに居るのは、兵士だった。どうやらカルカッサ軍の兵士みたい。鎧の上にはハーモスの紋章があるけれど、時期から見れば……やはりそうだろうか。
急いで物陰に隠れて、静かに様子を窺った。
「クソが、ここはなんなんだ?スラム街とか聞いたことねぇぞ?」
一人で大通りを闊歩し、ぶつぶつと愚痴っているみたいだ。
持っているのは槍と……何かの巻物。それに、何かを探しているようだ。
「あーもう!この地図マジで使えねぇな!」
ぱっ!と、持っている巻物を思いっきり地面に叩き付けた。後を追う途中で、ついでに拾おうか。
その後も、彼はぶつぶつと小言を喋り続いている。
「まったく、部隊から離れるんじゃなかった!」
部隊から、離れた?もしかして……迷い込んでスラム街へ来てしまった?
っと、そのとき、彼はとある店に入っていった。どうやら酒場のようだ。こんなところに酒場があることに驚いた。急いで後を追い、店の中へ入った。
「酒だ!酒をよこせ!」
「お、お客様!こ、こまりまっ……!」
「酒を寄越さねぇと……わかるよな?」
そして槍をマスターの首に突き刺そうとする。
「は、はい!い、今すぐ!」
それを聞いて、兵士は槍を納めて、席に着いた。隣に居るスラムたちが、ざわつき始めた。
「だ、大丈夫か?」
「しかし、何で兵士がここに?」
「怖いねぇ、武装して入ってくるとは。」
「やれやれ……」
と、いろんな声が聞こえる。
しかし、どうして昼間の酒場にこれほどの人が集まるのでしょうか。それに……なんだか、皆からはスラムのような感じがしない。外見もそうだけど、中身もなんとなく……スラムよりもずっと、貴族的。
「おい、おっさん。ここって、チュバル、だよな。」
「チュバル?それは隣の町の名前だけど?はい、ご注文のものです。」
「あぁ!?ここってチュバルじゃねぇのかよ!?」
それを聞いて、さっき拾った地図を広げた。どうやらここの隣にはチュバルという名前の町があるらしい。そして、そここそは私たちがこの前、行こうとした街。方角に間違いがなければ……ここか。
「ちっ、確かにチュバルは貴族の町だって聞いたし、ここはチュバルなわけねぇか。」
そう言って、出された酒を飲み始めた。
「うっ……ひっく。」
少ししか口にしていないのに、もう酔った!?いくらなんでも早すぎないか!?
「ますたぁ……ぼく、かるかっささまの直属に……ひっく!なりたかったのにぃ!」
「えっ?はやすぎ……」
「あん!?なにか文句でもあんのか!?うっ!」
酔っているだからこそ、危険がある。彼はマスターが驚きの声をあげると同時に、槍に手を伸ばした。今の彼なら……やりかねない。
「いいえ、何も。」
「なりたかったのによぉ……!なれなくて、おかんをなかしてしまったのよ……」
「はぁ……それは大変ですね。」
「おまけに妻にも失望されて、息子を連れて実家へかえられてしまったのぉ……」
「はぁ……」
しかし、こう聞くと……カルカッサのやつは、ラルフがまだ王であるときに、すでに私兵を抱えているということ?しかも、それをグランバールが許した……?最初はてっきりグランバールが連れ出した兵以外に、残された兵を自分の命令に聞かせただけだと思っていたが、まさか……いや、よくよく考えたら、クーデターを計画していたし、それくらいしないといけないか。
「今回のチュバル侵攻作戦も、上手く行くと思ってそこらへんをぶらぶらしていたら……」
「「「「!!??」」」」
この言葉を聴いたほかの人たちが、同時に驚き机をがたがたした。
「チュバル……侵攻作戦?き、聞き間違いでは、ございませんか?」
「あん!?おれぇは、栄えある魔王軍の一人、ウソはつかぁねぇよ!」
「おい、アンタ!」
周りに居る一人が、声を上げて兵士をにらみつけた。
「ひゃ!?なん、なんだ!?」
そして、兵士はその人に掴まれ、ひどく動揺している。
「チュバル侵攻……間違いないですね。」
「あ!?も、もんくあんのかごるぁ!!」
そして、兵士は槍を取って、その人を脅かした。
ここまで聞いて、私は外へ逃げた。急いで、ギャングのアジトに戻らないと。
「このことを、皆さんに知らせないと!」
(つづく)
チュバル、それはスラム街の隣に座している貴族の住む街。だからこそ、意味がある。しかし、カルカッサは、考えたこともないでしょう......飼い犬にかまれることを。




