第三十話=星が黒く輝く頃に
「……つまり、アンタは昨日の夜に、自称『プリスティン=ハーモス』の子と……」
チェレスさんに部屋に招かれ、昨日の夜に見たものを言わせられた。
「はい……」
「ふん。」
なぜ、彼女は私がそのとき、外に居たのを知っているのか。そして、誰かと話しているのも知っているのだろうか。答えが聞きたくても、勇気がなくて聞きにいけないままで居る。
こんな勇気のない私って、本当に、あの子の言っていたように、勇者様なのでしょうか。
「その子は、アンタのことを……勇者様と、言ったな。」
「その通り、で、ございます……」
しかし、なぜ彼女は私のことを勇者様と呼ぶのだろうか……一体、何があって彼女は確信を持って私のことを……
もちろん、勇者と呼ばれるのはうれしいことで、大変喜ばしいが、私にはその呼び名にふさわしい力を持ち合わせていなく、心の強さもそこまで強くないし……それに、あの子は……
「しかも、最後はいきなり消えた、か……」
最後は体が風に吹かれて、散り散りになって消えてしまった……まるで、幻だった。
「……で、そういやーさっき、見た目の話してねぇな。」
「――!」
見た目……それは……言いたくない。姫様と本当に似ていて、まるで姫様の小さい頃のようだった。しかし、彼女の口調からすると、あの子は姫様ではない。
ならば、私は言うべきなのか?あの子の外見が姫様とそっくりだってことを。それは問題になりかねないのでは?そんな話をしたら、姫様が魔族で、魔王ダーリクの娘……になりかねないのでは?
「見た目は、その……」
「何だ?」
「申し訳ございません、よく、覚えておりません。」
緊張している。ヒヤヒヤしている。気がづけば、床には何滴かの汗がポツリポツリと、床をぬらしていた。
「……嘘をつくな。」
「う、嘘は、つ、ついておりま……!」
「……まぁ、いっか。どうせどんな見た目をしているのは、知っているし。」
「そう、ですか……」
ならば、どうして聞いたんでしょう……いや、待て。
「どんな見た目をしているのは、知っていると、おっしゃいましたが。それは……?」
「あん?アタイの妹だし、知っとるに決まっとるちゅうねん。」
「な、なるほど……」
そして、いつの間にか口調が元通りになっているチェレスさん。
「プリスティン……なにやっとんねんなぁ。」
「と、ところで、お妹さんは、どうしたのでしょうか。」
「知らんかったのか?死んだよ、とっくに。」
「えっ!?」
「昔ね、王位継承のせいで殺されとったよ。」
そう軽い口調で言っているけれど、チェレスさんの目には絶望しかなく、決して軽くない気持ちで話している。
「王位継承のせいで……殺された!?」
「まぁ。」
ここで、チェレスさんは移動した。窓の枠に手を乗っかって、外を見ながら話してくださいました。
私が見たのは、おそらくその殺されたプリスティンの亡霊で、何かを訴えかけようとしたのかは知らないらしい。そして、その殺されたプリスティンとは……昔、ラルフと王位継承を争ったせいで、闘いの中で命を落としてしまった。
(……うん?)
ここで、私はある矛盾に気づいた。
ラルフの話しによると、王位継承の件は、ダーリクが勝手に決めたとこで、誰にもその決定を覆させないでいた。それなのに、王位継承を争った?
「何が起こったのはしっとらんが、目覚めたら急にプリスティンのやつが消えてしもうてな。ダーリクのやつに聞いても『知らん』としか答えられんかった。」
「そうです、か……」
夢から覚めたら、急に家族が消えてしまうなんて、想像したくもない……とはいえ、私は長い間家族とは話しもしてなく、通信魔法も使ってないな。母さん、今頃何をしているんだろう。
「グランバールのやつに聞いても『プリスティン……?どなたでしょうか、姫様。』ってしか返ってこんかった。まるでプリちゃんはアタイにしか見えん友たちみたいになっとんねん。」
ここで、チェレスさんの口調が荒れ始めた。
「プリちゃんはアタイの妹ちゅうねん。アタイの大好きな妹ちゅうねん!アタイからプリちゃんを奪った奴が誰か知らんが、見つけだしてしばいたるわ!必ず、必ずな!!」
そう声を発するチェレスさん。周りの空気は凍りつけたように、身震いをしている。恐ろしい。魔王継承者であるチェレスさんが恐ろしい。そして、こんな存在とともに立っている私の存在の価値が、改めて小さいと思った。
「……っと、すまん、驚かせたか。」
「い、いえ。だ、大丈夫、です。」
「……はぁ、大丈夫じゃねぇやん。」
「まぁ、もう行っていいよ。アタイはただ、プリちゃんがまた姿を現すのは、何のためなのかって知りたかっただけや。」
「そう、ですか……では、失礼します。」
チェレスさんの部屋を後に、部屋から出ようとしたら、急に小さな声でチェレスさんがポツリと、こぼした。
「アタイですら……『あなたは、違うわ』って言われとったのに……」
その声に、また、背筋が震え上がった。
………………
…………
……
「くそっ!何なんだ!何なんだよ!!」
郊外へ出た俺は、一人で鬱憤を晴らしている。
ここへ来てから変なことがいつも起きている状態だ。何なんだ、あのチェレスって言う女!俺のことを妹だと思ってんの?ふざけるな!俺は人族だぞ、てめぇらのようなクソまみれな魔族じゃねぇぞ!
それなのになんなんだ、あの目は。まるで俺を本当の妹だと思っているみてぇじゃねぇか!ふざけるな!
「あーもう!イライラする!!イライラする!!!」
剣を引き抜いて、力を剣先に集め、思いっきり振り下ろした。すると、草地は燃え始め、慌てて足で小さな火種をすり潰した。
「本当、マジでクソだ!」
このように、力の制御も出来なくなっている。普通ならこぼれないはずなのに、少ないけれど漏れてしまったのは事実だ。俺は、力の制御が出来なくなっている?ありえんだろ!この力は、俺の力だぞ!
「クソが、あーもう!!マジでクソったれだ!この世界も、こいつら全員も!」
頭をくしゃくしゃにして、掻き毟った。頭の中がこんがらかになっている。「プリスティン、お姉さん?」
後ろからラルフの声がする。
「あん?なんか用か、ラルフ。」
「用ってほどじゃないけど……」
「用がないならさっさと消えろ!俺は今、機嫌が悪いんだよ!」
「そう、ですか……ごめんなさい……」
まったく、持ち物のくせに、主の心配のひとつすらできやしないのかよ!本当、こいつもただのクソだな!
「……まぁ、俺に何を言いたい。」
「そ、その……たいしたことじゃ、ないけど……」
イライラ。まったくこいつは!
「はっきりしろ!俺ははっきりしない男が一番嫌いだ!」
「えっと、それじゃあ……」
そして、やっとあいつから話が聞けた。
「王位を奪い返したら、その座を……?」
「うん。チェレス姉さんに、譲りたい、です。」
「んなこと、チェレスのやつが許すと思ってんのか?」
「そ、それでも、だよ……ボクは、王にはなれません。王に相応しくありません。」
「知ってるわ。アンタのような弱気なのが王だったら、部下には迷惑だし。」
「は、はい……その通りです。ボクのようなのが王様だったら、きっと皆様にも迷惑かけてしまうはず。だから……」
「――だが。」
ここで、俺はラルフの言葉を遮った。
「王になれるのは、アンタしかいない。」
それを聞いたラルフは、すかさずに口答えをした。
「ボクしか居ないなんてない!ボクよりも、チェレス姉さんのほうが強いし、リーダーシップもあります!だから!」
「いいか、よく聞け。」
頭をぶつけて、間近でラルフの目を見つめ、釘を刺した。
「チェレスのやつも言っていたように、アンタにはその……なんだ?狂神?てやつと戦える力がある。」
「もし、ボクは持っているなら、チェレス姉さんならきっと……!」
「それがねぇからアンタに頼むんだろ?あいつがいつまたここへ戻ってきてしまうのかは誰もわかりゃあしねぇ。だったら、アンタがずっと、ここを守って行くしかねぇだろ。」
「そ、そんな……!」
「いい加減にしなよ、アンタは王だ。アンタは王になるしかねぇんだよ。」
「……!」
それを言い終えて、俺は少し距離を取った。これくらい強く釘を刺せば、きっとこいつも腹をくくるだろう。
「じゃあ、俺はもう行くから。」
「ど、どこへ、ですか?」
「……アンタは知らなくていい。」
それだけ言い残して、俺は行った。
目的地に着いた。そこには、アレが居た。
「ちゃんと着てくれるんだね、プリちゃん。」
「てめぇにプリちゃんって呼ばれる筋合いはねぇ……」
「いいじゃねぇか、別に減るもんねぇし。じゃ、どうします?」
「俺は……誰なのか教えてくれ。」
「うん?変だな、お前は『プリスティン=エリハイア』でしょ?」
「違う、俺は、違う……!だから、教えろ!」
「……ふーん、面白い。ならば。」
剣を抜いた。そして相手は拳を構えた。
「この光明魔王『アマドリ=スー』に言ってもらいたいなら、その実力を示せ!」
「望む、ところだ!」
昨日の夜、夢に出てきたのは本当だった。
夢の中で、こいつは俺に話しかけた。俺が知りたいことを何でも教えてくれるって言っていた。夢の中の出来事だったから、半信半疑に来てみたが、まさか本当だったとは思いもしなかった。
キーーン!と、金属音が鳴り響く。今、こいつと対峙しているのは、なぜか力を制御できなくなっている俺と。勝てるのだろうか……この、光明魔王に……!!
(つづく)
星が黒く輝く頃に......というのは、この日の前の夜のときの話です。星が黒く輝くことは、本来ならば不可能だが、前の夜の星は、黒く輝いた......その意味を知っているものは、おそらく......




