第二十九話=覚めぬ悪夢
目が覚めると、外はまだ暗いままだった。日付は……3月25日。これは恐らくアリア帝国の日付でしょうか。しかし、日付は変わったけれど、時間はどうやら1時半くらいでしょうか。暗すぎて時計が良く見えない。周りには眠っているラルフが居るのは、何故だかすごく安心する。
「……」
また少し横になった何とか寝付こうと思ったが、出来なかった。しばらくしたら、私は身を起こした。外に出よう、夜風に浴びたら少しは眠くなるだろう。
ギャング達はこのスラム街を司るものではあるが、所詮スラムだ、大した屋敷には住んでいないし、うちと比べても大分劣る。だから、庭園こそないものの、郊外に立てられた建物であるから、自由に夜風を浴びられる。
「……こんな夜中に、誰だ?」
どうやら先客が居るようだ。草原には、一人の女性が立っていた。誰でしょうかと近づき、問いかけた。
「こんばんは、寝付けないのですか?」
「……」
しかし、女性は何も発さなかった。静かに私に振り向いた。
その女性は、その金髪の女の子は、真っ赤な眼をしていて、まるで人形みたいに可愛いらしい顔をしている。
「可愛い……」
と、不意につぶやいてしまった。
「ッ!す、すみません!いきなりこんな事を言ってしまって……」
「……」
しかし、相変わらず女性からの返事は聞こえない。だが、どうしてか、この女性からは微かな懐かしい感じを感じた。
「貴女は、誰ですか?どうしてここにおりますか。」
「……」
「ど、どうしたんですか!?」
突然なことだ。彼女は、涙を流し始めた。
「わ、私がな、何か気に障るようなことを言いましたか!?」
「やっと、会えたわ。」
そして、やっと聞こえた彼女の声。少し姫様の声に似ている気がする。
「ワタクシの、勇者様。」
その言葉に、思わず胸がキュンッ!ってなった。
私が、勇者様……?人違いなのでは?
「ワタクシの名前は、プリスティン。プリスティンーー」
そして、彼女の苗字は、とてつもなく意外であった。それと、私は確信を持った。この子は、姫様ではないことを。この子は、チェレスさんの妹だった、プリスティンだってことを。
………………
…………
……
その後、彼女は急に幻のように消えて、草原を探し回っていたが結局見つけられなかった。
彼女は何者なのかは、詳しいことは分からなかったけれど。何故だか、私もこの国、アリアを助けることを決めた。外国人である私がどうこうするべきことじゃないのは分かっている。けれど、あの子は私の前に現れたのはきっと何かの理由があるはずだ。
そして、あの子の苗字は……ハーモスだってこと。それを知ってもなお尽力をつくそうとしないのであれば、私は勇者失格だ。
「……なにみっとんだ。」
「い、いいえ、何でも、ございません。」
朝食のとき、私は姫様の顔を見ていたことに姫様はひどく気に入らなかったようだ。
「次、またじろじろ見やがったら、その目……すり潰すぞ。」
「は、はい!分かっております!」
じろじろ見ることはしなかったと、姫様に訴えようと思ったけど、結局私には出来なかった。
さすがに、それほどの勇気を私は持ち合わせていない。
朝食を終えて、私達は次の段階へ入った。作戦会議のなかで、チェレスさんはいきなり話題を変えた。
「そういえば、最近リクリームの野郎のあれ……なんだっけ?」
「レジスタンスのことですか、チェレス姉さん。」
「あーそうそう!レジスタンス!アレって、なんか最近見かけないね、何してんだろう。」
レジスタンス……最近見かけないって、それは……リクリームが、殺されたって、チェレスさんは知らないのか。
「それは……」
ここで、私は姫様に言葉を遮られた。
「リクリームお兄様は……」
周りに居る私たち三人に見られている中で、ラルフが声を発した。
「……ボクに、殺された。」
「――!!」
驚いた。
あの時、なんとしても聞きだそうとしたが、結局何も教えてくれなかったのに、今回はこうもあっさりと話したのはびっくりした。
それだけではなく、リクリームは、ラルフに殺されたことにもびっくりした。だから、レジスタンスの人たちは血眼になって私達を捜していたのか……なるほど。
しかし、どういう心境の変わりでしょうか。前はあれほど頑なに教えてくれなかったというのに……やっと、自分と向き合おうと決めたのか。
「そうか、よく言った。やっとアンタの口から聴けたな。」
ど、どういうこと?チェレスさんは、知らなかったのでは?でなければ聞かなかったはずだと思うが、どうして?
「ラルフ、どうして!?リクリームさんは貴方の兄だったのでは?」
「……理由は簡単です、ゆうしゃお兄さん。リクリームお兄様は……」
「やつは俺とクリアを、レジスタンスの慰み者にしようとしたんだよ。」
「「っ!?」」
リクリームさんは、姫様と師匠のことを……!それを知っていたらさすがにラルフじゃなくても、私も手を下したんだろう。
「リクリームの野郎……まっ、よくやったラルフ。」
「あ、ありがとう、チェレス姉さん……」
ラルフの頭をわしゃわしゃと撫でるチェレスさん。よくやった、で、いいのか?一応実の兄ですよね?実の兄を手にかけるのは、ほめられるようなことじゃないような気がするけれど……
「師匠と姫様は、いつからそれを?」
そこで、私は気になっていることを聞いた。
「あぁ、カリスクールから抜け出した日の夜に、ラルフに言ってもらったんだ。」
「えっ、わ、私があれほど聞きだそうとも、口を硬くと閉じていたラルフを、どうやって?」
「……」
しかし、姫様からは返事が来ない。しかし、変わりに師匠が少しだけ、剣を鞘に出してそのギラリと光る刃を見せてきた。
な、なるほど。実に姫様らしい……
「だからレジスタンスは最近動きが止まったのか。」
「止まった?それはどういう……?」
いくらリーダーがいなくなったからって、新しいリーダーを立てばいいのでは?
「リクリームは、まぁ言いたくはねぇけど、あれはあれですごい魔族なんでね。リーダーシップに関しては家族の中でも随一だったぜ。」
「そういうこと、ですか……」
つまり、リーダーを変えたところで、レジスタンスは元々リクリームのリーダーシップに惹かれて結成した組織だから、話を聞かなくなるのは当たり前、でしょうか。
「しかし、だとすれば……カルカッサを倒すのは、さらに厳しくなるな。」
「レジスタンスが消えたところで、別にどーってことねぇだろ。どうせ最初から味方じゃねぇし。」
「それはそうだけど、戦いの中で敵に他の敵と戦わせて気力を削ることも重要だよ、プリスちゃん。」
「そんなもんか?あいつらがカルカッサの野郎と結託して、俺らを倒すことも考えられるのだが。」
「片方はリーダーの仇、片方は数多く仲間の仇……レジスタンスはどっちを先に倒そうと思うのだろうねぇ。」
そんな話を、長々と続いた。いきなり話題を変えたのは、ラルフでした。
「……」
気が付くと、ラルフはすでに何分間も黙っているままであった。
「ラルフ、大丈夫?」
「大、大丈夫、だよ?どうしたの?」
「いえ、すでに何分間も黙っているままだったから。体調が崩れたのかなと思って。」
「そう、ですね……黙り込んでいて、すみません。やっと、決心がついたところなので。」
「決心?」
何をするの?何の決心がついた?と聞こうとしたら、ラルフは急に立ち上がった。
「チェレス姉さん、お願いが……」
「ダメよ、それは決定事項なの。いまさら覆せるようなことじゃない。」
「なっ!ま、まだ何も言っておりませんよ!?」
何のことだ?ラルフは、また何かをやろうとしたの?そしてそれをチェレスさんは知っている?一体なんのことだろう。
「カルカッサを倒すことは、すでにアタイらギャング……もとい、元王位継承者と元王族の共通意識。いまさら話しをすればわかるとか、甘ったれたことを抜かすな!」
「なっ!」
元、王族?ここにいるギャングたちは、全員、元王族ってこと!?あ、ありえない!そんなことありえない!
「……さてと、そろそろ決まったところだし。おい、お前。」
「わ、私、ですか?」
まだ何も決まってはいないように見えたのだけど、そろそろ決まったって?
「お前、昨日の夜……外で何を見たのかを、教えてくれ。」
「――!!」
昨日の夜、外で何を見た?あのプリスティンのこと?でも、どうして彼女は知っているんだ!?周りに誰もいなかったというのに!?
「話は以上だ。話すつもりがあれば、後でアタイの部屋に来い。」
「ま、待ってくださいチェレス姉さん!」
「またねぇよ。んじゃ、アタイは行く。この後来ていいのは……」
周りに一目を配り、最終的に私に視線が集中した。
「お前だけだ、『勇者様』よぉ……」
そして、チェレスさんは席を離れた。
その言葉を聴いた私は、背筋がゾクゾクしてしまった。冷え込んでしまった。
彼女は一体何を知っているんだ。どこまで知っているんだ……!?
(つづく)
眠れない夜に、ゆうしゃは外へ出て風に当てた。しかし、彼が目の当たりにした人物は......プリスティン=ハーモス、その通りです、チェレス=ティアの妹である、元王位継承者の一人。名前こそプリスティン=エリハイアと同じだけれど、同一人物ではないと、ゆうしゃは確信を持っている......さて、どうでしょうね。




