第二十五話=彼女こそが、堕落せし魔王
宿を出たすぐ、私達はギャングたちに囲まれました。
「どういうつもりだ、貴様ら……」
「ちょっと落ち着いてよ、お姉さん……どうしましたの、お兄さん達。」
「へっ、お兄さん、ねぇ……」
集いの中の一人が、へらへらと笑い始めた。
「オイラたちのことは、ぜひ、ギャング君と呼んでくださいよ、ラルフ様?ぎゃはは!」
「ははははは!!」
周りに居るギャングたちは、彼の笑い声に誘われ、同じく笑い始めた。そして、そんなギャング達を搔き分けるように、一人の女性が歩いてきた。
目の前に出てきた女性は、真っ赤の、烈火のような髪を持つ女性。彼女のあちこちに傷があり、どう見ても歴戦の勇士にしか見えない。
「よお、久しいじゃん、ラルフ。アタイの弟よ。」
彼女は、いきなりその一言を言い放した。アタイの弟、つまり、彼女は……ラルフの姉!?てことは、王族ですよね?なのにどうして、こんなところに、ここに居る人たちと……?
「ちぇ、チェレス姉さん!?」
そして驚くラルフ。さすがのラルフも突然のことにびっくりしたのでしょう。
「こ、この方たちは?」
周りに居るギャングたちのことを、彼の姉であるチェレスと呼ばれる女性に聞いた。
「あん?舎弟だけど、アタイの。」
「しゃ、舎弟!?姉さん消えたのかと思ったら、こんなところに居たのですか?」
「おいおい、こんなところとは失礼だな。」
「そ、それは……ごめんなさい。」
「いいってことよ。アタイもしょっちゅこんなとこって言うってるし、ぎゃはは!」
「そ、そうですか……」
談笑している時に、姫様が二人の間に入った。
「アンタ誰よ。」
急に投げ飛ばされた質問に、チェレスさんは答えなかった。
「お!こっちはこっちでもっと久しいじゃん!!プリスティン!!」
代わりに彼女は、急に姫様を抱きついた。姫様のことを知っているの?それも久しいって……どういうこと?
「ちょ、や、やめろ!くっつくな!」
「いいじゃんいいじゃん!アタイらの仲でしょ?ぐししし……」
そしてさらに頬を擦り付けて、全身全霊で姫様を感じている。ちょっとだけ、いや、かなりうらやましい。
「アンタ誰だって聞いてんだろうが、さっさと話せよ!」
そんな状況を、姫様はちょっとだけの苦労をしてやっと抜け出した。そして、いつも通りに剣を構えて相手に話を持ち込んだ。
「うん?アタイのことを忘れたのか?ったくよぅ……」
面倒くさそうに、後頭部を掻き毟り。やっと話してくれた。
「アタイはチェレス。チェレス=ティーア。元の名前は、チェレス=ハーモス。」
「は、ハーモス!?」
それを聞いたものの中、私だけ驚いた。しかしどうしてだ?姫様はまるで「やはりか」って顔をしていて、師匠にいたっては最初から知っていたかのように……どういうことだ?
しかし、まだ彼女はラルフの姉であることに半信半疑だったのに、急にそんな事を言われたら……さすがに信じざるを得ない。
「てかさ、後にもう一人居ない?」
「チェレスさんお久しぶりです。」
姫様の後ろからひょこっと出てきて、挨拶をしたのは、師匠だった。
「クリア!懐かしいなぁおい。どうだ、この後少し手合わせしてくれねぇか?」
「ええ、ぜひ、そうしたいですね。」
いつになく上品な師匠、こんな師匠は初めて見たかも知れない。いや、完全に初めてだ。
「なんだよなんだよ、懐かしいメンツばっかりじゃねぇか。どうしたの、ラルフ。」
「ええ、そ、それがですね……って、先に姉さんが消えた理由を教えてくださいよ!父上に聞いても知らんって返されまして、完全に行方不明になっておりましたよ。」
「そうか、父様が……いや、ダーリクの野郎が。」
後へ振り向く、そして手招きをした。
「こいよ、アタイたちのアジトに。真実を教えてやる。」
彼女達のアジトに、招かされた。
………………
…………
……
それは遠い昔のことでした。
魔王の娘である、チェレス=ハーモスは自分の父に刃を向けた。
それもまた遠い昔のことでした。
父である、ダーリク=ハーモスは自分の娘に追放命令を出した。
しかし、それだけでは足りなかった。故に、ダーリクは刺客を出した。もし民に姫であるチェレスを魔王が殺そうとしたことを知ってしまったら、その時点でハーモス家の王朝は終わる。だから、あえて闇社会のものを刺客として出した。
これで大丈夫だと思いきや、まさかチェレスは保護された。いいえ、彼女には元から自分の軍隊を持っていた。恐らく彼女は昔からずっと企んでいたのだろう、父への謀反を。
しかし、彼女が反乱を起こす前に、ダーリクは居なくなり、この世から消えてさっさとラルフに座を譲った。彼女は驚いた、いくらでも早すぎた。
そして、いざとなったら、彼女は果たして自分の弟であるラルフを倒せるのだろうかと、自分に問い詰めた。答は否だった。
彼女は兄弟の中で一番の仲良しが、ラルフだった。だから、いくらカルカッサが彼に従い、ラルフを倒そうと誘っても。リクリームがいくらレジスタンスに誘っても、彼女は決して屈しなかった。
彼女はすでに王位なんて目に無く、今の生活を楽しんでいた。
もちろん、ここにはグランバールも来ていた。彼はチェレスに王族に戻るように働きかけたが、彼女は従わなかった。今の生活で、十分だと。そのことを、あえて王であったラルフに伝えなかったのは、ラルフを痛めつけないためでした。
若きラルフは知らなかった、自分の腹違いの姉が追放されたことを。ただひたすらに父の「どこかへ行ってしまったが帰って来ようとしない」という嘘を信じ続けていた。
そして急に、チェレスさんはここで話を切り替わった。
「つーかさ、プリちゃんアタイのことなんでわすれとったんだい?」
「プリちゃんって、俺のこと?あんまり馴れ馴れしくするな。」
「別にええじゃんか、アタイらの仲なのに。」
「アンタのこと知らないんだが?」
「じゃあ聞かせてくれ、その口調は、誰に習ったんだい?」
「誰でもねぇよ、生まれつきだ。」
「ぎゃはは!そりゃあねぇわ……」
少し笑い飛ばした後、チェレスさんは言い続けた。
「そろそろ気づいたんだろ?アンタは、アタイの妹だって。」
「何をばかげたことを……バカバカしい。俺はプリスティン=エリハイア、エリハイア王族の娘だぞ。」
「え?マジ?人違い?にしちゃあ似過ぎじゃない?本当か、ラルフ。」
急に弱気を見せた。確かに、自分の妹だと思い込んでいたものが実は隣国の王族だと知ったら、さすがに驚くよね。
「うん、間違いありません。プリスティンお姉さんはエリハイアの姫です。」
「かーー!」
パーと、仰天をしたチェレスさん。
「はずかしかー!まさかの人違いだったなんで、かああああ!ほっぺから火が吹きそうやわ。」
そして、ラルフの証言を聞いて信じたチェレスさん。自分の弟の言うことを信じないほうがおかしいと思うけど、なんで本人を信じずに他人の証言を信じるのだろうか。いや、それが普通か?
「いやーホンマにすまん!すまんかったわ。」
しかし、少し思い出し。姫様はそもそも最初から王族ではなかった。彼女はエリハイアの最強なる女勇者である「エリス=ユーテスティン」の娘で、父は未だに誰なのかがはっきりされておらず。聞いた話によると、彼女は急に姫様を連れてエリハイアに戻り、王様にプリスティンの世話を頼んでから消えた。
ならば、実は彼女は魔王ダーリクの娘である可能性も……いや、無いか。というより、あってはならない。
「まぁ、いいけど。」
そっぽを向く姫様。内心はどう思うのかは分からないけど、きっと、傷ついたのでしょう。国内だけでも散々魔族の娘だなんていわれていたから、きっとそれをすごく気にしているはず。
「おおきに、許してくれて。」
そして、頭下げて礼を言った。
しばらくの談笑が終わり、やっと本題へ入るところ。
「ところで、ラルフは元魔王って、きいとったんけど。どうした?」
「そ、それは……ボクにもわかりません。なんともカルカッサ兄上がクーデターを起こしたらしくて……」
「……そうか、そいつは残念だったね。」
静かに体を起こして、チェレスは部下のギャングに何かを話したらしい。
「どうしたのですか、姉さん。」
「いや?なんともねぇけど?」
「さっきギャングのお兄さんと何を話したのですか、チェレスちゃん?」
そしてここにいきなり話を割った師匠。思い返せば、師匠はほとんど発言をしなかった。
「うふふ……知りてぇか?」
「……うん。」
「なら、言うよ。」
少し深呼吸をして、チェレスさんは彼女のやりたいことを話した。
「カルカッサの野郎をぶちのめして、王位をラルフに返す。」
「「「「!!??」」」」
同時に、私たち四人が驚いた。
「ちょっとちょっと、チェレスちゃんさっき言ってなかった?家族で争いたくないって。」
「あん?あの野郎とは家族でもなんでもねぇけど?」
「いやいや、兄上は兄上ですよ?なんで家族じゃないんですか!?」
ラルフの反論を聞いたら、急にラルフの肩に手を乗せた。
「あのクソ野郎はアンタを王の座位からずれ落とした。なのにアンタはあいつをかばうのか?」
「……」
少しだけ迫れたが、彼は勇気を出して言い続けた。
「それでも、兄上は兄上です!兄上が王位を欲するなら、喜んで差し出します!」
「ははっ!ご立派なことだ!」
手を戻し、ぐるりと回って両手を掲げた。これ以上アタイには何もいえないとか、言いそうな気がした。
「それでも、アタイはヤル。」
そしてもう一回ぐるりと回って、私たちに面を向いて。彼女の目からは殺気を感じる。恐怖を感じた。
真っ赤な髪に、真っ赤な眼。彼女はやる、彼女はカルカッサを殺す。そう確信した。
「姉さん、やめて!ボクなんかのためにしないで!これ以上、これ以上……!」
しかし、ラルフはそんな彼女を恐れなかった。拳を強く握り締めて、涙ポツリ。精一杯の勇気を搾り出し、なんとしてでも彼女を止めようとした。
「これ以上、家族がばらばらになるのは、もう嫌なんだ!」
「――!」
そんな彼に打たされたのかもしれない、チェレスさんの目からの殺気が、若干下がったような気がする。
「……自惚れんなよ、ラルフ。」
しかし、それも少しだけの話でした。彼女の目から、いきなり更なる殺気を、邪気を感じるようになった。
「あいつはアタイの大好きな国を、めちゃくちゃにしたんだぞ。アンタだけのためなんかじゃない。この国のためだ。」
少しだけの間をおいて、彼女は更なる剣幕でラルフを圧迫した。
「アンタはただアタイに言い訳を提供しただけだ。それ以上でも以下でもない。」
「チェレス、姉さん……」
そんな事を言われて、さすがのラルフも引かざるを得なかった。
「うんじゃ、決まりだな。」
後へ向き、チェレスさんは歩き出しながら指令も出した。
「アンタらはどう動くかは、アタイは責めねぇ。好きにしな。」
「……」
ラルフは、未だに俯いたまま、何も話さずに。
彼は、再び目の前で家族が亡くなるのを目の当たりにしないといけないのだろうか。一体、どうすれば……この家族の悲劇を回避できるのでしょうか。
「ラルフ……」
そしてポンッと手を置いたのは、姫様でした。
「止めよう。」
次に手を置くのは、師匠であった。
「……うん、止めよう。」
最後に手を乗せたのは、私でした。正直に言うとまだ、迷っている。
ラルフに手を貸すべきか。それは内政干渉にならないのか?
手を貸さないべきか。それは仲間としてやることなのか?
だから、迷った。最終的に私は、手を貸すことを決めた。
「皆……!」
そして私たちに向けたのは、相変わらず優しい目でした。
………………
…………
……
「チェレスと、ラルフたちが接触をした。」
「そうです、チェレスがまだ生きておりました。私も驚きました。」
「……実の妹ではりますが、手は、抜きません。」
「はい、喜んで成し遂げて見せましょう。」
真っ赤な月の下で、一人の魔族が泣いていた。彼女は、実の妹であるチェレスを、そして実の弟であるラルフを、両方始末する指令を下された。
(つづく)
チェレス=ティーア。彼女は元王族で、ラルフの姉。
彼女はラルフを助けることを決めた。だが彼女はあえて、逆のことをラルフに伝えた。彼女の行動はラルフのためではなく国のためだと。
真っ赤の月の下で泣く魔族は、今夜、アジトへ侵入する。目的は、ラルフの始末と、チェレスの抹殺。
実の妹、そして実の弟。彼女は、手を出せるのでしょうか。




