第二十三話=堕落せし王族
三人部屋で、元魔王は夢を見る。
それは、遠い昔の夢。
そして同時に、未来を示す夢。
「どうしてですか、父上!」
「どうしてもなにもない!貴女たちに継ぐ権利がないだけだ!」
女性王族が叫ぶ。それは父への反逆で、自分への忠義。
「そうです!どうして一番下の弟である、ラルフに座を譲るのです!」
「何度も言わせるな、息子よ。貴方たちに、継ぐ権利がないだけだ!」
男性王族も叫ぶ。それは国への謀反であり、民への奉仕。
「父よ!何ゆえ俺たちに継ぐ権利がないとおっしゃられる!」
「それはお前らが弱いからだ!」
もう一人の男性王族も叫ぶ。彼は誰よりも父を信頼し、最も信頼されない息子。
「……」
言い争いを横目で見るのは、一人の女性。残酷ながらも、彼女は反論する気力はない。
「王位を譲らなければ、アンタの存在意味はなんだよ!」
横目で見る女性は、静かに言い放した。
言い争いは続く。夜深くまで続く。まるで終わりが見えないようにひたすら続いた。
いつからか、横目で見ていた女性がナイフを手に取り、魔王ダーリクへと歩く。
「父の言うことが聞けないのか、お前達は……!」
あきれる父の後ろで、静かな影が近づく。
「――!」
「父上!」「父さん!」「……!」
それを見た三人の魔族は驚いた。
「お、お前、チェレス!」
「……アンタが悪いんだよ、父様。」
ナイフに刺さられもなお、魔王は気魄を無くさず立っている。
「死ねぇ!」
ダーリクはそれで倒れなかった。それしきのことで倒れるような魔王ではないとチェレスは知っている。だから抜いて、再び突き刺さろうとした。抜く時に血が溢れ、チェレスの服が返り血を浴びた。
「お前ら、止めないか!」
ダーリクは避ける。ひたすら避けるだけだった。彼は自分の娘を叩くことはしない。彼は、魔王である前に一人の父親、自分の子供を叩くことはしないことに徹している。
「「「……」」」
救援を求めても、三人は動こうともしない。残酷ながらも、彼らも恐らくダーリクの死を望んでいるのでしょうか、彼らの目にはいっぱいの怒りだけだった。
「チッ!当たらなかった!この、ド畜生が!」
「やめなさい、チェレス!やめなさい!!」
「死ね、死ね、死ねええ!!」
サッ!サッ!サッ!いくら突き刺そうとも、彼女の攻撃は絶対に当たらない。何かがおかしい。彼はまるで、見えない壁に護られているかのようだ。
何を思ったが、三人はようやく口を開いた。
「助けてやったら、王位をくれますか、父上。」
一番早く口を開いたのは長男であるリクリームだった。
「ッ!何をバカなことを、リクリーム!」
「兄さんじゃなくて、俺に譲ってくれたら助けてやら無くもないよ、父さん。」
「お、お前まで、カルカッサ!」
ダーリクは驚いた。まさか自分の子供たちは父の命より王位を優先するとは……彼は恐らく、考えたことも無かったでしょう。考えたくも無かったでしょう。
あれほど仲良かった兄弟は、一番下の弟に王位が継げられることをこれほど嫌がるとは。
「父よ、考え直すなら、今のうちですよ。」
「どうしてお前も……!レイチェル!」
話し合う中でも、チェレスは刺さり続いている。
「おらおらおら!」
「……!」
何度も、何度も刺さり続いているチェレス、そして悉く避けるダーリク。
「さぁ、どうする?父上。」
「俺にくれよ、父さん!」
「……悪く思うな。」
三人を横目に、ダーリクは何を思うのだろう。
何分か過ぎたころ、やっと疲れたかチェレスの動きに乱れを感じたダーリクはようやく手を出した。
「いい加減にしろ!」
「――!」
パッ!ガタンガタン……叩き落とされたナイフが響く。王宮内を響き渡る音に、ラルフも驚いた。
「何の、音でしょう……?」
幼いラルフがベッドから降りて、音の出すところへと、足を運んだ。途中で何度か罵声を聞き、何度か怒鳴り声を耳に、何度も……何度も父を罵られる罵声を聞かされた。
「お父様……?」
恐る恐ると彼は一家が使う洋室の扉を開く。そこには……
「チェレス姉さん!」
「ッ!ラルフ!?」
扉を開く同時に聞こえたのはピンタの音。そして目に見えたのは叩かれた姉、そして叩いた父。なんて非道なことをと、幼い彼は思った。
「お父様、どうしてチェレス姉さんを!」
「お前は知らなくていい、いい子だから早く寝なさい。」
「いいえ、そうは参りません!お父様がどうしてチェレス姉さんを叩いたのかを聞きたいのです!」
「ワガママ言わない、ラルフ!」
「お父様!」
このままだと埒が明かないと思った三人は、大声で彼に伝えた。彼がどう思うか、彼がどうなるかをまったく気にもしない。
「レイチェルは父上を……」
「リクリーム!やめなさい!」
すかさずに止めに入ったダーリク、彼の口を塞いでも、また別の人がいる。だから、今度はカルカッサが口を開いた。
「父さんを殺そうとしたんだよ!」
「カルカッ!」
「お父様を、殺そうと……?」
それを聞いたラルフは理解できなかった。何故姉は父を殺そうとしたのを、何が姉を追い込んだのを。
「……全部貴方が悪いわ、ラルフ。」
「レイチェル……!!お前ら、さっさと自分の部屋に戻れ!これ以上のことは言うんじゃない!」
しかし、父への強い不信感によって他の四人は全然聞こうとしなかった。無情に、残酷に言い続けた。
「父さんは王位をアンタに譲るつもりだから殺そうとしたのよ、アタイは!」
「チェッレス、姉さん……!!」
驚く真実にラルフは声を発せなかった。
彼は思った。自分のせいで親愛なる父は同じく親愛な姉に殺されそうになった。
彼は思う。自分のせいで家族が反目したと。
そして強く思った。自分さえ居なければ、自分さえ居なければ、家族は平穏で過ごせたのかもしれないと。
「ぼ、ボクのせいで……?」
「ラルフ!彼らの言うことを真に受けるな!アレは嘘だ!」
「ボクさえ、ボクさえ……!」
「おい、ラルフ!父の言うことを聞かないか!」
自分の大好きな家族を、誰がめちゃくちゃにした?それはボクだ。
自分の素敵な家族を、誰が壊そうとした?それもボクだ。
自分の優しい家族を、誰が狂わせたの?それもまた、ボクだ。
「うっ、うわあああああ!!」
「ら、ラルフ!!」
真夜中で、彼は走り出した。今すぐにでも逃げたくて走った。
真夜中で、彼は城を出た。そんな彼を止めようとして、一人の魔族の男性が前を立ち塞いだ。
「どこへいらっしゃいますか、ラルフ様。」
「ぐ、グランさん……!」
立ち塞いだのはグランバール、ハーモス家に仕える将軍、ラルフの教育係り。
「……少し、一人にしてください……」
「……何かありましたか?」
グランバールは優しく声を掛けた。しかし、少しでも力になろうとするグランバールを、彼は受け入れようとしなかった。
「とにかく一人にして!」
「らっ、ラルフ様!」
グランバールという壁を横切り、ラルフは外へ出た。そんなラルフを、グランバールは静かに見守った。横切る時に見せた涙は、一体どういうことだったのだろう。
ラルフは外へ出た。一人で、静かな中庭で立ち止った。
「おや、おやおや、これはこれは、ラルフ様ではないか。」
「貴方は……?」
一人で啜ろうと思ったが、思わぬ先客が居た。
「おや、私のことをお忘れになったのか。」
男は辞儀をし、改めて自己紹介をしようとした。
「私の名前は……」
その男は、金髪をして、白いローブを纏っている。
(つづく)
ご覧になっている皆様、本日も黒き星の導くままに。
ラルフは幼い時にアマドリとの接触はあった。それはここに始まることではない。アレの言っていることをちゃんと耳にして?私のことをお忘れになったのか。と......それとラルフは一体どれほど前から接触があったのかは、まだ、明かされていない。
ではでは、読んでくださって、誠にありがとうございます。また次回、お楽しみに!




