第二十二話=罪悪の種
目の前に居る少女らしきものは、体のいたるところに腫瘍が出来ていて、中には腐っているものもある。その腫瘍から膿が噴出されていて、体の周りに変なオーラらしきものまで出来ている。
そして、さらにおかしいのは……
「こ、この子、生きていますよね……?おじさん。」
「なっ!何を変な事をおっしゃいますか!まったく。」
皮膚は明らかに人でも魔族の色をしていない。角はあるし、体越しに若干見える翼もある。分類上、彼女は魔族に分類されるでしょう。しかし、皮膚の色は全然違う。
黒くて、緑色。まるでファンタジー世界にしか出現しないゾンビみたいだ。
「こ、この子は一体……」
「あら?どなたでしょうか。目が良く見えませんのでよくわかりませんわ。けほっけほっ。」
「え?」
距離は恐らく2メートルしかないにも拘らず、彼女は私たちの姿が……?
「あっ、だ、大丈夫だよ、システィ。彼らはお父さんが連れてきたお医者さんたちだから、ね?」
「あら、そうでしたか。これはしっ、けほっけほっ。失礼しましたわ。」
未だに上品な振る舞いをしているけど、この子……見ているだけで吐き気がする。これは決して人身攻撃ではなく、ごく普通な考えだ。今でも、腫瘍から膿が噴出していて、室内を充満するこの臭いの正体は、やはりその膿でしょうか。
「さ、早く、お上がりになってください、ラルフ様。」
「は……はい、分かりました。」
心優しいラルフでも、さすがに引いたのだろうか、言葉に澱みが出来ている。
「ね、ねぇ、ゆうしゃお兄さん。これ、どう思いますか?」
上がる前に、ラルフが私に耳打ちしに来た。
「どうって、私に聞かれても分からないよ!こんなの、はじめて見たし!」
「で、ですよね……ははは……」
笑ってはいるけど、これは苦笑いだろう。恐らくラルフも、この病を見たことはなく、ただ自分の力で浄化できるかどうかを試したいだけだろう。
中へ招かれた私達は、この悪臭を耐えながら、システィと呼ばれる少女の治療を始めようとした。
「そ、それで、どうやって癒してやってくださるのですか?ラルフ様。」
「う、うん……どうやってって聞かれても、力を使って癒すことしか考えておりませんでした……ごめんなさい……」
「なっ!と、とんでもございません!娘を助けてやれたらそれで大丈夫です!ささ、システィ?早く横になりなさい。」
「そ、それは構いませんが……本当に、大丈夫でしょうか。」
疑問を抱きながらも、システィは横になった。おじさんに急かされながら、ラルフは前へ行った。手を、システィの上辺に置き、静かに唱えた。
「感知。」
なるほど、先ずは病の源を探して、そこから潰していくのか。……しかし、上手くいくか?そんなに簡単に。
見た感じ、全身の浸食が激しく、どこが源なのかも分からなくなっている気がする。
「……」
手を引いて、目が泳いでいる。やはりそう簡単にいかないでしょうか。
「こ、この子、いつからこの病に掛かったのですか?」
「へっ?あっそうですね、確か三週間前からだった気がします。」
「三週間前……ですか。なるほど。」
(うん?何か分かったのか?)
「では、少し痛いかもしれませんが、これより病毒の浄化に取り組みます。我慢してください。」
「はい……分かりました。」
そして横で見ている父親は、涙をこぼしながら見ている。
「では……」
再び手を上辺に乗せて、ラルフは詠唱を始めた。
「貴女に聖なる光の導きを……」
気のせいか、空気の澱みがちょっとだけ晴れた気がする。
「貴女に聖なる神の祝福を……」
またもや気のせいか、暗い室内が、ちょっとだけ光に充満し始めた気がする。……いや、気のせいではない。その光は、ラルフの手からあふれている。
「貴女に光に満ちた命を……」
今度は、システィの体が若干光り輝き出してきた。
「貴女に、癒しを。永劫なる聖光!」
そして一瞬にして、室内が光にあふれた。その同時に、聞こえたのは……
「イヤアアアアアア!!!!」
響き渡るシスティの悲鳴。これを聞いたおじさんは、一瞬にしてラルフを止めようとした。
「おいやめろ!!システィから離れろ!」
さっきまでと全然違う怒鳴りに、ラルフはびっくりともしない。
「静かに!」
止めたのは、ラルフではなく私でした。彼のことは嫌いだが、ここは彼を信じることしか出来ない。
「貴様!」
「動くな!」
ラルフを阻止するかのように立ち上がったが、私に押さえつけられた。ラルフは優しい、だからこそ救いたいでしょう。たとえ……
「お、おとう……さん……!!」
システィが嫌がっても、痛がっても、彼は救い続けるでしょう。それが、心優しき魔族の王であるかのごとく。
「クソ……!!」
「だから……!!」
おじさんは私の束縛から解放されたいでしょう。彼はスラムでありながら予想以上の力を発揮して私に逆らおうとした。私の押さえつけから脱出しようとしている。しかし、やはり普段の食事や、運動力の差があるか、彼はなかなか脱出出来ないでいる。
「イ……!!痛いいたいイタイ……!!やめて、やめてえええええ!!」
引き続き叫ぶシスティと、悔しがるおじさん。
「システィ……あぁシスティ……!!」
「さっきは我慢しろって言ったのに、ずいぶんな変わりようだな。」
……いや、それこそが親って者でしょう。
親は誰よりも一番、子供のことを大事にする。だから彼女ガ痛がる中、親である彼はそれを止めようとする。ですが、それは本当に彼女のためになるのだろうか。こんな彼女を癒せるのは恐らくラルフだけでしょう。なのにラルフを止めるとか……本当に、良くわからない。
「タスケ……テ……おとう、さん!」
「もういいだろ!これ以上システィを痛めつけないでくれ、頼む!」
「……」
しかし、無情にも相変わらずラルフからは返事が無い。未だに治療に専念している。しかし、私から見てもこれは治療じゃなくて、単に痛めつけているとしか思えない……
「ラルフ……」
だが彼は、真剣だ。
破壊された腫瘍から吐き出される膿を浴びても、彼はびくっともしない。これは本当に治療をしている。であればどうして、彼女はこんな悲鳴を上げるのでしょう……?謎だ。
そういえば、どうしてこんなに痛がっても、苦しがっても彼女は自ら動こうとしないでしょうか。やはり、ラルフに束縛の魔法でも施されたのでしょうか。
「……ふう。」
しばらく過ぎたら、ラルフは手を止め、汗を拭いた。
「うわっ、いつの間に。」
その手にはたくさんの膿が残っている。彼は気づかなかったのか、あれだけ噴出されていた膿を。
「あぁ、システィ、システィ……!」
それを見た私はようやくおじさんを解放して、彼は急いで前へ行ってシスティを抱きしめた。
「もう痛くない?」
「う……ん、もう、痛くありません。」
「そうかそうか、良かった、良かった!」
「……」
安心しきった二人を横目に、ラルフはまだ安心できないよって言いたそうに見ている。
「おじさん、まだ安心できませんよ。」
「へっ?そりゃあどういう……?」
「これで浄化できるほど、『罪悪の種』は生ぬるくありません。」
「罪悪の、種?なんですか、それ。」
罪悪の種?初めて聞いたものなんですけど……それに関しては、おじさんも同じのようだ。
「彼女がこうなったのは、三週間前からですよね。」
「ええ、そうですけど……」
「三週間前、貴方たちは、何をしましたのですか?」
「「ッ!」」
なぜか二人同時にびっくりした。
「な、何も、しておりませんわ。」
「そ、そうだ!おいら達は何もしてねぇ!」
「そうですか……まぁ、もうしなければ、その罪悪の種は二度と芽吹かないでしょう。」
「だからおいら達は……!!」
ここに来て、激昂したおじさん。何かを隠している?果たしてそれは一体……それに、いきなり冷たくなるラルフ、一体何が彼をそんなにしたのでしょうか。
「いいですか、二人とも。」
「もういい!出てけ!アンタなんかに任せるなんかしなければ良かったのによぉ!」
「……そうですか、分かりました。ゆうしゃお兄さん?」
「あっ、はい。行きましょうか。」
体を起こして、出ようとしたラルフと私。後には退室を急かすおじさんとシスティ。あの二人は、何を隠しているのは明らかだが、それはなにかを、二人は教えてくれそうも無い。
ならば、ラルフに聞いてみようか。
退室した私とラルフは、裏通りに立ち止った。
「あの二人、何をやってたの?」
「そう、ですね……ゆうしゃお兄さんに教える必要があると思います。」
心の整理をして深呼吸した後、ラルフはようやく教えてくれた。
「あの二人は、交わっていたよ。」
「交わる?それって……!」
まさかと思うが、親子で?親子でそういう関係になってしまったの!?
「うん、多分ゆうしゃお兄さんの想像している関係ですよ。あの二人は……親子にも関わらず、交わってしまった。」
「で、それで、罪悪の種って?」
「それは昔、お父様が作ったもので、血のつながりを持つもの同士が交わったら植え付けられるもの。摘んでも、摘んでも、もしまた交われば再び植えつけられるもの。」
「なんと、恐ろしいもの……」
これが、魔族か。これこそが魔族なのか。
いや、もちろん親子同士でやるのはダメなのは分かるけど、何もそんなものを植えつけなくてもいいのでは?見た感じ、すごく苦しんでいたし、見た目も……すごく、気持ち悪かった。
「うん、恐ろしいよ。でも、いくら法律を作っても交わるものは交わるし、隠蔽するから。仕方なくお父様がそれを生み出して、植えつけたの。それだけ、交わって欲しくないです。」
「そうか……」
気持ちは分からなくも無いが、自由に恋できない世の中は、些か悲しいと思った。
私から見れば、親子だって、兄弟だって、好きになったものはしょうがないと思う。しかし社会的にはそれを認められない。そんな世の中は、なんか悲しいと思った。
「しかし、植えつけようとしても、今はダーリク様がいないのでしょ?なのにどうやって……?」
「ううん、その罪悪の種はあくまでも術式で、アリア国民であればそれを植え付けられるの。」
「なるほどね。」
術式になって、法律と同等に国民を縛るのか。やはり魔族は恐ろしいものだ。
その後、私達は無事姫様たちと合流出来た。途中で何度かスラムに絡まれたが、何とか凌いだ。だがラルフは相変わらず、自分のものを差し出そうとした。それを止める責任は、私にはあったから止めた。
姫様たちと合流したあと、また目的も無くふらふらしていた。やがて日が沈み、夜を迎えた。さすがにここではいい宿も取れないので、諦めて適当な宿を取った。そして何故だが、四人部屋があるにも関わらず、姫様は前と同じく二人部屋と一人部屋それぞれ一つを取った。
言うまでも無いが、私が一人部屋で、他の三人は二人部屋。そしてその夜は、また前と同じく私は枕を抱えながら、隣部屋の三人の歓笑を聞きながら枕を濡らした。
………………
…………
……
「し、システィ……あぁおいらの可愛いシスティ……」
「お、お父さん……また、出来ますね。」
「あぁシスティ……!!」
その夜、罪悪の種を再び植え付けられ、それを見た二人は大きな悲鳴を上げた。
………………
…………
……
「へぇ、あの罪悪の種を摘まれたのか。一体誰でしょう……」
「噂によると、元魔王らしき者が……」
「噂?んな根拠のない情報を信じていいって、誰が言った?」
「はい!し、しかし……!」
「……まぁいい。元魔王らしき者?もしや、ラルフか?」
欠けた月に手を伸ばし、掴んだ。女性は一人でつぶやく。
「やっと、また会える。ラルフ。」
(つづく)
これをご覧になっている皆様、本日も黒き星の導くままに!
今回はちょっとだけ暗い一話になりましたが、いかがでしょうか。気に入っていただけば幸いです。大学の開学式がまた先延ばされて、三月二日になりました。これでもっと書けます!同時に夏休みが縮まれたけどね、トホホ......
では、また次回、お楽しみに!




