第二十話=その名は、絶望
「目標の沈黙に成功しました、続きの指示を。」
真っ先に耳に入ってしまったのは、それでした。目標の沈黙、そしてこの場所……周りの惨況から推測すれば、その目標は恐らく……
「すみません、通らせてください!」
「ッ!待て待て!お前は誰だ!ここは部外者立ち入り禁止だぞ!」
「私は……!」
姫様の……なんですか?姫様に目を奪われた者で名乗ってもいい?……いや、そんなこと、出来るはずもない。
「私は、姫様の付き添いだ!」
「姫様?誰のこと?」
しかし、我慢できずにそう叫んだ。
「この前に居る人族だ!彼女こそがエリハイア王国の王女、『プリスティン=エリハイア』だぞ!」
「なんだ、そういうことか。」
肩から手を引っ込めて、理解してくれたのかと思いきや……突然訪れる腹の激痛。
「ならば、お前を生かして逃すわけには行かないな。」
憲兵に、腹を強く殴られた。
「グハッ!」
激痛と共に口から血を吐き出した。意識も朦朧になってきた。
(クソ!どうして私はこんなにも弱いんだ!)
姫様はあれだけの敵を薙ぎ払ったのに。どうして私は、こんなにも弱いんだ!
(力、力が欲しい……!)
苦しい思いをしながらも静かに目を閉じて、捕まるのを待つ。
しかし、何分か過ぎたが意識は途切れずにだけでなく、体も自由に動かせる。そう感じた私は、また静かに目を開いた。
「貴方は……?」
目の前には、金髪の男性が一人立っている。周りに居る憲兵、市民はそのまま動かずに……まるで、時が止まったように。
「お前、ゆうしゃ、だよな。」
その静寂の中で、男性が口を開いた。
「はい、そうですけど……貴方は?」
「ふん。」
しかし答えずに、後へ振り向いた。
「ゆうしゃであろうものが、こんなにも弱くて情けないと思えないの?」
「くっ!」
「弱くて弱くて、今にも死にそうになって。お前、本当にゆうしゃか?」
「うるさい!私だって、私だって好き好んでこんなに弱いわけじゃないんだぞ!」
「そうだろうそうだろう!ならば……」
男性は一瞬にして消え、次の瞬間、彼は私の後ろに移動した。
「お前の力を、解放したくないか?」
「私の、力……?」
彼は、何を言っているのだ?私の力?
(まさか、あの時のやつか!?)
思い出した。前、師匠と稽古をしていたとき、急に「殺せ」と言われて出したあの力!……彼は、その力を示しているの?
「お前は勇者だ、ゆうしゃなんかじゃない。だろ?」
「そう、だと信じたい……」
「なーに弱気になってんの。まったく。」
後からまた姿を消し、再び前に出てきた。
「しばらくの間だけ、お前の元の力を解放してやるから。」
「ほ、本当か!」
「あぁそうだとも。では、いってらっしゃい。」
男性の手から一粒の水のようなものが出てきて、私に飛ばしてきた。
そしてそのとき、彼の口から驚くことを告げられた。
「スカイランドで、お前が私の首を取るのを待っているからな。」
「えっ、お前、もしかして……!」
「あぁ、その通り。」
声が聞こえなくなり、周りが動き出しそうになった。しかし、彼の姿は相変わらず見える。その口から彼の名前を吐き出された。
「私が、『アマドリ=スー』だ。」
(ッッッ!!!)
その同時に、力が体中を蔓延した。
「な、なんだ!?」
「おい、こいつを何とかするのを手伝ってくれ!」
「はい!今参ります!」
周りに居る人たちが動き出した。力を受け取った私を止めるために。
この力は光明魔王に解き放たれたもの。正直言って使いたくはないが、これも姫様を助けるため。しばらくの間だけって彼は言った。そのしばらくの間はどれくらい短いのかは分からないが、恐らく姫様を助けるまでは持つでしょ……持ってくれ。
「私はゆうしゃだ!姫様を助けるため、決して恨まないでくれ!」
剣を抜け出し、構えて、憲兵達に戦いを挑んだ。体の奥から湧き出るこの力は、光明魔王に与えられたものではなく、元からあるべき力。私の中に、これだけの力を秘められていたのか……われながら恐ろしいものだ。
………………
…………
……
「ねぇねぇ、主様。どうして彼を助けたのですか?」
「は?助けた?何を言うの?」
「えっ。だって、彼の力を解放したのでしょ?」
「そうだけど、本当の目的は彼を助けるんじゃないのよ。」
「え?ああ!あの子を助けるのね?」
「まったく、このバカは……」
(デコピーン)
「あいたたた、な、何するんですか主様!」
「あいつらがちゃんと動かないと、私の計画が台無しだろうが。まったく……」
「あ、それもそうですね!」
「そうだよ。私がすることすべてが……私自身のためだ。」
………………
…………
……
「どうした、この程度か!」
剣を振るたび、撒き散らされるのは敵の血。
剣を振るうたび、断ち切られるのは敵の命。鎧をつけられているが、目が冴えて繋ぎの部分に剣を当てられる。私の元あるべき力は、こんなに強いのか。
しかし……
「おらおら!どうしたどうした!」
頭の中に、声が響いている。殺せ、殺せと。私に絶えずに囁いている。
(あぁ、殺しているよ。だから大丈夫。)
その殺戮衝動を解き放ちながら、私は私で居られるとは、最初は思わなかった。だけど、現実こうして私は私のままで相手を切り刻められている。
「こいつ、なんなんだよ!」
「はー!」
シャーキン!鎧に剣を当てられてしまった。
「おら!」
バッシャー!けど、すぐに力を使って修正した。風の力で流れるように繋ぎの部分に剣で斬り、相手に攻撃を与えた。
「姫様、まだ生きておられますか!?」
「くっ……!アンタなんかに聞かれたくねぇがな!」
やっと憲兵の群れを払い、囲まれていた姫様に手を伸ばせるようになった。
「姫様、どうか、手を。」
「ちっ!」
手を伸ばしたが……
パン!と、手を、叩かれた。
「えっ、姫様……?」
「アンタなんかの助けは要らん!一人で立てる!」
必死に足を伸ばして、立とうとした姫様。強情な姫様だけど、改めて認識した。私はやはり、彼女のことが好きだ。このように誰よりも気高い姫様のことが、好きだ。大好きだ。
(殺せ!)
「ッ!!」
そのとき、脳内に響いた声が私の体を奪おうとした。アレは、姫様を殺したいようだ。
「どうした?早く行かんのか。」
(ダメだ、体が……!)
剣を、姫様に向けて構えた。
「アンタ、どういうつもりだ?」
「姫様、早く、お逃げください。師匠たちは南方の草原で待っているはずです。」
「おうおうおう、それを教えてくれるのはありがたいが、どういうつもりで俺に……」
姫様は話を止めて、私の目に視線を集中した。
「……そうか、お前も狂神に目をつけられてんのか。」
(狂神?それは誰?アマドリの奴のこと?だけど、奴は魔王なのでは?)
「歯ぁ食いしばれよ!」
「ッ!!」
シュー!カッキン!
「まだまだ!」
「ッ!くっ!!」
シャー!キン!キン!
姫様がなぜか急に私に剣を振り始めた。ご自身の力も残りわずかなのに、体中傷だらけなのに、どうして!?
「早く、お逃げください!でないと、私は……!」
シャーン!キン!キン!
「民を護れない王族なんて、王に成れんだろうが!」
再び剣と剣が交わり、火花が飛び散った。姫様の剣にも、私の剣にも魔族の血を浴びていた。たくさんの魔族を切ってきた。だからその上には油もあった。そのせいか、いつもより多くの火花が飛び散っている。
しかし、我ながら恥ずかしいことだ。相手はすでに力尽きかけている姫様にも関わらず、まったく打ち返せない。いや、やはりまだ制御できているのでは?まだ完全に、殺戮衝動に身を委ねていない証拠でしょうか。
「おるぁあ!!」
キーーン!!ガタンガタン。
少しだけ剣を交わって、やっと姫様に打ち破られた。
「さぁ、目を覚めさせてやるから、動くなよ。」
「ひ、姫様……!」
しかし、姫様は今でも剣を構えている。まるで私を殺そうとしているようだ。視線は刃に集中し、冷や汗が何滴か流れてきた。やはり、怖い。
「封印。」
目を閉じて、静かに姫様の動きを待った。しばらくして、さっき光明魔王に力を解放されたような感覚になり、けれど今回は逆。今回は逆に力が押さえつけられているような感覚になった。
「……これで大丈夫か。さ、早く行くぞ。憲兵の増援や、逃げたレジスタンスが戻る前に。」
「はい、分かりました!」
力が封印された。元々少しの間しか使えなかった力だが、姫様にその期間を早められた。これでいいのだ、でなければまた姫様に切り刻みこんだでしょう。想像するだけでゾッとする。
憲兵の大半は倒れて、レジスタンスもまだ戻ってきていない。ならば、今こそ絶好のチャンスじゃない?そう思い、私は走ろうとしたが、姫様が……
「くっ!やはり、ちょっとキツイか。」
「どうかしましたか、姫様。」
「なんともねぇよ。早く走れ。」
「そうは参りません!姫様を置いて一人で逃げるなんて!」
「元はといえばアンタが襲い掛かってきただろうが!まったく。」
「ははは……申し訳ございません……」
どうやら姫様の足はまだ走れるようにはなっていないようだ。どうすればいいのやら……あっ、そうだ。
「姫様、失礼いたします。」
「えっ?おい、何を……!」
姫様を、抱き上げた。左手に背を、右手に膝の裏を。そう抱き上げた。
「やめろ!恥ずかしいじゃねぇか!」
「しかし、姫様は走れないご様子でしたので。どうか、ご安心ください。」
「あ、アンタ……!!この野郎、クリアちゃんたちと合流したら、ただじゃ済ませねぇからな。」
「ははっ、肝に銘じておきます。」
「アンタな……!」
姫様は拳骨を飛ばして来ようとしたが、当たる前に手を引っ込めてくれた。やはりなんだかんだ言って、姫様は優しいです。しかし、こう頬を真っ赤に染める姫様は、なんか女の子の感じがしていて、すごくいいと思います。
姫様を抱えながら走って数十分、やっと師匠たちと合流出来た。その夜、師匠とラルフは姫様の治療に専念して、私が護衛をしていた。ちょっと残念なのが、傷を治した姫様は私のことを責めずに、褒めずにも居たこと。
野宿で一夜経過して、私達は次の場所を目指した。今のところ、カルカッサのことをまだ何も分かっていないし、手掛かりを持ってそうなレジスタンス達にも敵とみなされた。この先、どうなるのかが不安だ。
夕食を楽しんでいた時に、何度かラルフにリクリームのことを聞き出そうとしたが、結局なにも教えてくれなかった。やはり、ラルフには酷だったのだろうか。
………………
…………
……
「目標を発見した。どうされますか?」
「え?まだ動くな?どういうことですか、カルカッサ様。」
「そう、ですか……分かりました。そうさせていただきます。通信、切ります。」
「ラルフ、頼むから早くこの国から去ってくれ。貴方の兄達はすでに狂った。だから……レイチェル姉との約束を、忘れないでくれ。」
真っ赤な月の下で、一人の魔族が遠方にある自分の弟に向けて、一滴の涙を流した。
(つづく)
皆様、初めて私の作品を読んでくださって者も居れば、多分前からご覧になっていただいた人も居るでしょう。改めまして、こんにちは、はじめまして。
今回の更新日にちょっと疑問を持った人が居るかもしれないから、ちょっとだけご説明させていただきます。
明日(1/26(日))はおばあちゃんの家へ行きますので、明日は更新できかねますので、今日に遷らせていただきました。ただそれだけです。
さてと、そろそろ本題に移りましょうか。
今回の最後に出てきた、レイチェルというキャラクターは、隠していないので皆分かったでしょう。そうです、彼女こそがラルフの姉であり、アリア王位継承人のうちの一人であり。その名も=レイチェル=ハーモス。いろいろあったけど、彼女は今カルカッサ軍に下っております。それは何のためかは、今後明らかになります。
ではでは、今後ともよろしくお願いします。煌黒星でした。




