第十八話=闇に紛れし物
カリスクール街はずれにある、一つの洋館。外はまだまだ明るいにも関わらずに、なぜか鴉が鳴いている。騒いでいる。洋館内の司令官室内で、一人の魔族が横たわり。その体は剣に刻まれていて、すでに命を絶った。その横にはもう一人の魔族が居る。彼はその倒れている魔族を見て、叫んだ。
「リームお兄様ああああああ!!!」
大声で、叫んだ。叫んでしまった。
「な、何事だ!」
ドパン!と、すぐさまに警備員が門を破り、中へ入った。その二人の警備員は少し混乱をした。
「り、リクリーム様!ど、どうしたのですか?リクリーム様!」
その屍を揺らし、生死を確かめるも、無駄だった。もう一人の警備員はすぐさまに槍をラルフに突きつけ、質問を投げかけた。
「お前!何をした!何故リクリーム様を殺した!」
「ぼ、ぼぼ……」
しかし、彼もまた、混乱をしている。
目の前に倒れているのは自分の兄。それだけでなく、昔は自分にいろいろと良くしてくれていた。なのに、今はただの屍になってしまい、二度と話すことが出来なくなった。
それはなぜか。
そして、どうしてか。
なぜ彼は死ななきゃいけなかった?どうして自分が殺した?この二つの疑問にラルフは混乱した。
「ボクじゃない!ボクじゃない!!」
「お前以外にありえるか!おい、お前!さっさと縛りあげろ!」
「はい!」
手に持ったのは縄ではなく、別のものだった。それは鎖、決して壊されることのない鎖。そして決して彼を放さない鎖。
「ッッ!!」
しかし遅かった。彼は逃げ出してしまった。
「追え!追え!!」
警備員が増援を呼び、そして……
「食堂に居る奴らも逃がすな、奴らは全員……」
皆殺しだ。
………………
…………
……
「お、おい!どうしたんだよ!」
「ちょ、ちょっと!どういうつもりですか!?」
「姫様、師匠!く、クソ!!お前ら、どういうつもりだ!」
目の前に、いきなり数名のレジスタンスが姫様と師匠を取り囲み、縄に縛りついた。これを見た私も、さすがに声を高くして叫んだ。
「お前らと一緒だった坊主、やつが……!」
「奴が俺らのリーダー、リクリーム様を殺しやがったんだ!てめぇら生きて帰れると思ってんじゃねぇぞ!」
「「「なっ!」」」
さすがに私だけでなく、師匠と姫様のびっくりして声を上げた。
ラルフが、殺しを?しかもレジスタンスのリーダーを?嘘に決まっている!あの子はそんな事をするような子じゃない!そもそも出来ないでしょ、あんな優しい魔族には!
「待って、これはきっと誤解だ!」
「誤解な訳あるかボケが!俺らは見たんだぞ、リクリーム様の屍を!あぁ、リクリーム様!」
う、うそでしょ?ラルフの奴が、本当にやってしまったの?あの子はどうしてそんな事をしてしまったの?何か理由があるのでは?あるに決まっている!し、しかし、この状況じゃあ……聞けそうにない。
「おい、貴様らが縛いているのは誰と分かってんのかごら!」
「知ったことか!てめぇらは誰であろうと、俺らのリーダーを殺す罪は重いぞ!」
「そうか、知らないのか……ならば……!」
「ッ!?な、なにこれ!?」
どうやら姫様の体から力が流出しているようだ。空気がどんどん熱くなっている。
レジスタンスは驚きを隠せなく、動揺し始めた。
「あ、熱い!どうしてこんなに熱くなるのよ!何が起きているんだ!」
「良いか、アンタら!」
その中で、姫様はさらに大声で言い始めた。
「せっかく俺が力を貸そうと思ったのに、この俺を裏切ったのはアンタらだぞ!」
徐々に姫様の体が赤くなり、周りにぼやが出てきているような気もする。
「この俺を、プリスティン=エリハイアを裏切った罪は、ただ死ぬだけで済ませると思ってんじゃねぇぞ!!」
さらに大声を上げて、気温も上がり、レジスタンス達はさらに混乱をした。まぁ、無理もない。まさか彼女こそが、プリスティン姫様とは誰も思わなかったのでしょう。
「空間炸裂!」
そして、やがて食堂が爆発された。今回はラルフのバリアがないものの、距離がちょっと遠いし、自分の力を駆使してちょっとした防御をしたから、それほどのダメージは受けなかった。
「ゆうしゃ君、大丈夫?」
瓦礫に埋もれている私を、師匠が助けてくれた。師匠の手を掴んで、私は脱出した。
「さてと、ラルフの野郎に話を聞きに行かねぇと。」
「そうだね、あの子がそんな事をするとは思わないし、何があったんだろう……」
「……」
その中で、私だけが沈黙を保った。
「ゆうしゃ君?」
「どうしたのですか?師匠。」
「なんか、難しいお顔をしていましたので……」
「あ、あぁ、大丈夫、大丈夫だ。」
「そう?なら良かった。ささ、早く探知の魔法を使って、ラルフ君を探そう?」
「はい、分かりました。」
力を空気に流出させて、私は彼の居場所を探し始めた。
………………
…………
……
「して、首尾は?」
「うん、まぁまぁだったよ、主様。」
「そう、ならよかった。」
「ねぇねぇ、主様。いつもの、早く?」
「はいはい、えらいね、良くやったね、凄いね。」
(わさわさ)
「うへへ、主様のお手手大きい。」
「むふふ……主様の手、暖かい……」
「さてと、ラルフ君?君の次の一手は、どうする?」
………………
…………
……
カリスクール街内の一つ小さな裏通りにて、少年が一人倒れている。
彼は、休憩をしているのだ。
周りは人の気配がなく、吼える犬しか居ない。彼らの縄張りに侵入した少年に吼えているのだ。
ポツリ、ポツリと。何滴かの液体が少年の額から流れ、地に落ちた。それも一粒や二粒だけではなく。
彼はレジスタンに追われ、傷つけられた。少年の名前はラルフ。ラルフ=ハーモス。「元」魔王である。
(ボクは、どうして……?)
兄二人に裏切られ、そのうちの一人を手刃してしまった。彼は覚えている、内なる謎の力に操られているときのことを。そしてその力に身を任してしまったことを。さらに……
(あれが、殺戮、か?)
殺戮に対しての心の高ぶり。
(やはりボクも、ただの魔族だったんだ。)
ドタッ、ドタッと。足音が近づいている。
(逃げなきゃ、逃げなきゃ!)
そう思いながら、彼の足は言うことを聞かずに俯いたまま。そして、まるで神のキセキのように、彼は救われた。
「クソ!ここにも居なかった!」
「早く探せ!奴らに見つかるまで、早く捕らえろ!人質にして奴らに降伏させるんだ!」
「はっ!」
ドタッ、ドタッと。また足音。しかし今回は近づくのではなく、離れている。安心して、彼は少しだけの眠りに付いた。
(お姉ちゃん、ごめんね。巻き込んでしまって。)
そう思いながら、彼は眠りについた。冷たい地面の上で、目を閉じた。
(つづく)




