第十七話=その方たちは、レジスタンス
「では、紹介してくれ。貴女の名前を。」
「ふん。」
レジスタンスのアジトで、私達は多くの魔族たちに値踏みされながら、自己紹介をさせられている。
「俺はプリスティンだ。」
その中には少なくない人族たちも混ざっている。
「ただ、それだけだ。」
「苗字は?」
「苗字はねぇ、ただのプリスティンだ。」
姫様らしくない、と言ったららしくない。姫様なら普通にエリハイアも出すはずだったからだ。では、何故?いや、でも逆に今はこれでよかったのだろう。
「次、お前だ。」
「はっ、はい!」
次は私の番になった。姫様がもし、ここで苗字を名乗ってしまったら、きっと大混乱になること間違いないだろう。
隣国の姫様が、まさか自国の反乱を手伝うとは思わないだろう。
「ゆうしゃ、です。ゆうしゃ=クリスティア。」
「見た感じ弱そうだけど、ちゃんとレジスタンスやれんの?」
グササっと、何本の槍に貫かれそうになっている。自分でもちゃんと理解できているけれど、こうもあっさりと弱そうと言われたら、さすがに凹む。
「彼は、アタシの弟子だから。実力はアタシが保証しよう。」
そして庇ってくれたのが、他の誰でもなく師匠であった。
「アンタは……ま、まさか、『麗しき剣鬼』の異名を持つ、クリア?」
「はい、その通りです。」
後から師匠がひょっこりと頭を出して、私を抜けて前へ出た。
「アタシがクリア=ブリエンティです。」
(がやがや……)
レジスタンスの方たちはすぐに騒ぎ始めた。無理もない、私が言うのもなんだけれど、師匠は名前を全大陸に知れ渡させるほどの実力を持っているから。
そんな師匠がレジスタンスに力を貸すとなると、さぞかし力強いだろう。しかし、ここで名乗っていいの?外国の勢力が入っていると知られてしまったら……もっとも、姫様が力を加えている時点でアウトだと思うけど。
「し、しかし、お前はエリハイアの人間ではないか!アンタが俺たちに力を貸したら国際問題だぞ!」
「あら、気使ってくれているの?でも、ご安心を。」
ちょっとした笑みを浮かべて、師匠はさらに言い続けた。
「カルカッサ軍にエリハイアを攻め入らせる理由を作ってしまうけど、勝ってしまえばいいのでは?」
「そ、それはそうだけど!お、お前は今の情勢を分かってんの!?」
それは一体、どういうこと?
………………
…………
……
司令官室にて、二人のハーモスは話し合っている。
「まさかリームお兄様がレジスタンスをやってらっしゃるとは、思いもしませんでしたよ。しかし、カルカッサ兄上が権力を握ってからまだ間もないはずなのに、どうしてこんなに早くレジスタンスを作り上げられましたの?」
「それはだな、ラルフ。」
そこで、リクリームは暴いた。自分がしたかったことを、レジスタンスを結成させた理由を。
「そ、そんな……リームお兄様は、ぼ、ボクの命を狙っていました……?」
「そうだ。父上が何故、お前のような子に王位を伝承したのかは分からないが、第一王位継承者である俺が王位を奪わないわけがなかろう。だから、一時はお前を憎んで憎んで憎み倒した。」
「そ、そんな……」
それを聞いたラルフは、がらりと椅子から落ちそうになった。しかし、彼は耐えた。失望に打ち勝ち、さらにリクリームに質問を投げかけた。
「じゃ、じゃあ、もしかしてグランさんが……?」
「そうだ、魔将軍だったグランバールが俺らをここまで追い込んでしまったのだ。しかし、王位を諦めるわけには行かない。」
静かに拳を握りつぶして、リクリームは言い続けた。
「散ってしまった仲間の無念を晴らすために、俺らは戦わなければならない。戦う相手が変わっても、目標は同じだ。」
「リームお兄様……」
少しションボリとした顔で、ラルフは言った。
「ぼ、ボクに出来ることは、ありますか?」
「ない。」
早すぎた返答に、ラルフは少しでも驚くことを隠せなかった。
「え、ど、どうして?」
「お前はすでに指名手配になっている。それはお前だけでなく、俺もそうだが……」
ここでラルフは更なる絶望に陥ってしまった。自分の命を、前は一番好きな兄リクリームに狙われていたのに、今は一番信頼していたカルカッサに狙われている。そのことがラルフを深い絶望に陥れてしまった。
「お前に戦う力を持っているなら戦力に加えてやらなくもないが、お前にはない。だから、俺はレジスタンスに居てよくて、お前は無理だ。」
「り、リームお兄様……」
「悪いことは言わない、今すぐこの国から立ち去れ。」
更なる追い撃ちをしたリーム。
「お前の仲間たちは俺たちが徴収する。彼女達はレジスタンスの助力になるだろう。」
立ち上がって、窓の外を覗くリクリーム。
「それは戦いだけではない、夜の助力にもなるだろう。……エリハイア王には申し訳ないけど、仕方のないことだ。」
ガタッと、ラルフも立ち上がり、椅子は倒れた。
リクリームが発した言葉に、ラルフは驚きながらも、それを背ける事はしなかった。出来なかった。
ラルフは心の中で悔んだ。無力な自分を、無情な現実を。そして何よりも……無残な兄を。
「ら、ラルフ……?くっ!」
剣に貫かれた自分の体を見て、リクリームは驚いた。自分がいつも見下している弟が、自分に刃を向けるとは。
「誰も、お姉ちゃんに害を加えさせない……それはリームお兄様、貴方であっても。」
「くっ!こ、こいつ……!け、剣を……!」
「させないよ?」
「ぐわああ!」
バサッと、ラルフは目にも留まらぬ速さでリクリームの腕を切り刻み両腕を完全に廃れた。
「お、お前……!いつものは、演技、だったのか……!」
「あぁ、狂いだしそうだ。」
さらに何回かを切り刻み、やがてラルフは呟いた。呟いてしまった。
「すべては、神の仰せのままに。」
………………
…………
……
リクリームは声を発することも出来ずに、ラルフに切り刻まれてしまった。それは外に居る警備員にも分からずに。
いや、分かっていたのかもしれない。門外の警備員である、二人の小さな少女も小声で呟いたのだ。「すべては、神様の仰せのままに。」と。
そして、その惨劇を目に、笑ってしまったものが居る。
「やはり、魔族はこうでなくてはな、くっくっく……」
その日の夜、プリスティン達一行はまた逃げ出してしまった。今度、彼女達を目の敵にしているのはもうカルカッサたち魔王軍だけでなくなり、レジスタンスも血眼になって彼女達を探し始めた。




