嘘つきじゃなかった
丸山希依にあった太ももの傷を見て、虐待のような証ではなかったが悪い気のようなものを感じ取った。
「また、何か事件でもあったんですか?あの、予告状というのは。」
「・・・ええそうなんです。」
「嘘・・・。」
机を囲む五人の視線から外れたところにあったテレビが、ポンといきなり点いたことで全員の視線を集めた。リモコンが机の母親の側にあって、捜査をしていないことは全員が把握している。その気味の悪さに気を取られるかと思いきや、映される画面のことで頭がいっぱいであった。
「先ほど松山警察署で大きな爆発がありました。現場の三上さん。」
「はいこちら、警察署から離れた安全な場所からお伝えしております。あそこの方に火が見えると思いますが、5分ほど前に大きな爆発がありまして、現在消火活動中です。」
その光景に、丸山親子と三人とでは温度差があった。唖然として言葉を失う成人の大人を目にすると、その事態の痛ましさや非日常さが伝わってくる。それまで経験したことの無い状況ゆえに、誰も声を発することができず膝が固まってしまった。
「加藤さん、行きましょう。」
「ああ、お邪魔しました。自分たちはこれで。」
対応が疎かになっても、この状況では誰もが理解できるだろう。急いで家を出て、道すがら林が何度も電話をかけるが
「繋がりません。」
出てくる言葉は無情にも命の音さえない。車内にある赤色灯を付けて、けたたましい音を鳴らしながら現場に走行していく。いくら人生を諦めたと馬鹿にしていた警察組織と言えど、加藤の頭にはいくつも顔が思い浮かんで仕方がない。皆落ち着きがなく、今にも体が動き出してしまいそうで抑えられない。
そうして現場に直行するけれど、内線でのコミュニケーションに齟齬があった。話がかみ合わない状態で、全くの別人と話しているようであった。
「こちら加藤。応答願います。」
「何ですか?声が聞こえないんで分かりません。」
「なぜ私が話したと分かるんだ。それも分からないはずだろう。」
「・・・・・・・。」
「もしもし。」
その不気味な現象には、恐怖よりも犯人の手の上で踊らされているのを感じて、これまで安心という名の劇薬を服用していただけに過ぎなかった。いざ死の可能性を吟味する立場になれば、間違いでも起こして自動車事故を起こして死んでしまうのではないかと考え始めた。領域が不明瞭で霞んでいた死との地平線が揺れ、それが自らの手でも実行できてしまう不安と戦わなければならない。
「もう近くのはずなのに・・・。」
人通りは穏やかで、テレビ局の前にも喧騒という文字はない。車が道を譲って、警察車両のためにお膳立てしてくれるけれど、その必要がないほど静かである。加藤が赤色灯を外して戻し、松山警察署を前にした時にはうすうす感じていた違和感の答え合わせをした。
「どういうことだ。」
朝見たそのままの姿で、私たちの帰還を待っていた。爆発も炎もどこにもない。ならば、丸山宅で見たテレビの映像や内戦での不可解なやりとりは、全て幻だったというのか。この時ばかりは、いくら坂田と言えども震えていた。それは子供のような瞳のままで。




