丸山希依
手帳の内容に関しては、以下のとおりである。見城刑事は、とある幼児誘拐事件を担当していた。記述通りであれば、1998年の6月6日。丸山希依という3歳の女の子が、保育園に母親が送ってから消息が不明になった。女の子の友達である二人の少女から保育士に相談があって発覚した。捜査を進めていくと、同じ保育園に勤める保育士による身代金目当ての誘拐であり、縛られた状態で車のトランクから発見され、病院に運ばれ意識を取り戻し回復した。
その少女からの聞き取り調査において
「ママがおいで、おいでって呼ぶの。」
という奇妙な証言を得た。同時刻において、母親は勤務先で仕事をしていたことは確認できており、誘拐のさいにレコーダーを用いた行為はやっていないと犯人も供述しており、持ち物検査や家宅捜査の際にも出てこなかった。さらには
「パパもおばあちゃんも。」
と証言したが、父親と祖母は一度も訪れたことがない。希依ちゃんの首元にあった痕について容疑者は否定しており、縄の索状痕とも一致しなかった。
この内容を読んで、坂田は信じたくない可能性を見出してしまった。それは身の汚れを綺麗に落とし、今日一日の出来事を整理してもなお強烈な異臭を放つ。
「蛇だ・・・。」
詳しく明記されてはいないが、この首の索状痕は蛇によるものに違いない。オカルトマニアであれば、エデンの園での出来事が脳裏に浮かぶだろう。エデンの園に侵入し蛇に化けたルシファーが、イブを唆して知恵の実を食べさせた。蛇が心を許した家族の声を真似て、希依ちゃんを唆したにちがいない。そして、目的は身代金ではなく食うためだ。この容疑者は蛇に操られて、蛇に捧げる供物を集めさせられたのだと。
しかし、このような想像は決して受け入れられないだろうし、逆説的に自分の立場や印象を最悪なものにするだろう。しかし、神隠しは存在すると書かれたところでもあった、湊君の首にあった索状痕もこれと同様のものであっただろう。この神隠し事件並びに一連の事件の中心には、蛇が関わっているに違いない。そう考えるのも当然なように、坂田の中では点と点が線になっていく。彼が適任である理由はそれなのだ。
翌日になって、まとめた考えを加藤と林に報告しようと思った。二人が自分よりも早くに署に来ていたため、周りに怪しまれないために何気ない雑談から始める。
「お二人が小さな頃は、蛇はいましたか?」
「蛇ねぇ、今はめっきり見ることも無くなったな。昔はアオダイショウが木にいたり壁にいたりして、うちの姉なんか道の真ん中に蛇がいるって、大回りして家に帰ったんだよ。」
「うちもありましたよ。友達に巳年のやつがいて、道にいたら拝んでましたよ。ご利益がありますようにって。坂田はないのか?」
「ないですが、最近は結構”蛇と仲良く”やってますよ。」
それを聞いて二人が一瞬眉間にしわを寄せたが、腕を組みながら部屋を指差し警戒モードに入った。




