じゃしん
気になる手帳の中身だが、分かりやすいように結論から書かれていた。
「一連の行方不明事件に関連性はない。」
いわく、それぞれが時代の最終局面にて行われたために、まるで同一犯による連続事件のように見えてしまったと。身代金要求型の誘拐には、現代技術の向上と防犯意識の向上によって限界があった。行き当たりばったりの誘拐によって、泣き叫ぶ子供たちは利用価値を見出せられぬまま、今もどこかに眠っている。
「なるほどな、呪いなどあるわけがない。」
分かりきっていたことなのに、加藤は自分が安堵していることに驚いた。
「ただ・・・神隠しは実在する。問題は、誰を隠すのか。」
読み上げると同時に車内には、不快な霧が立ち込め始める。からかうことが好きな見城が、手帳を覗き見た奴に仕掛けたものだろう。そう思いたいところだが、坂田が前のめりになって続きが気になっている。
「唯一発見された湊君には、首元に縄のような跡がある。しかし、あまりにも力強く締め付けられたのか、首の骨が複雑に骨折している。まるで大蛇に首を絞められたようだ。」
年配刑事は深刻な面持ちでいたが、坂田も別の感情で険しい表情をしている。
確かに聞いた”蛇”という言葉に、鼓動が乱れる。吹く風が動物の鳴き声のように聞こえ始めた頃、息をのんで今日の出来事を振り返っていた。そして一つの答えに辿り着いた。
「南方教授の言っていた神というのは、蛇ではないでしょうか。」
「・・・なぜ?」
「今日一日を通して、蛇という言葉に引っかかるんです。その、妙に心拍数が上がるような感覚があって。」
「たしか、邪神って言ってたな。じゃあ、俺たちは手遅れってことだな。」
それがギャグとして受け止められない日が来るとは、想像できなかっただろう。
「仮に、蛇の神様が神隠しに関わっていたとして、今回の予告状と死体遺棄事件とどう関係があるんだ。」
「それは・・・。」
もちろん、答えが聞けると思って林も質問していないだろう。ただ、この非現実的な問いを言わざるを得ないのだ。自分でもおかしいことを言っている自覚があっても、それを止めることができない。
このままでは捜査もままならず、あげくには周りの連中からも避けられるようになるだろう。この場にいる三人だけの特別なテーマを必要としていた。
「よし、こうしよう。俺たちだけで共有して、俺たちだけの推理にしよう。これを大真面目に言っても聞き入れてはくれんだろうし、大真面目に受け取られても困る。この事件は、邪神である蛇を中心とした神隠し事件の総決算、ということにしよう。」
これには、一同が同意をした。明確な証拠をそろえることも大事ではあるが、現に爆発物による被害が出ている状況では、犯人逮捕が最優先だろう。
「加藤さん、林さん。この手帳を僕に預けてくれませんか。」
「ま、お前の専門だろうな。」
この時、すんなりと手帳を渡してしまったことを後悔している。私は、坂田の覚悟を見誤っていたのだ。




