遊び人
(登場人物)
加藤清志
林
坂田
とある〇×銀行に向かった加藤一行だが、案の定行員たちは閉める準備をしていた。白亜の箱とも言うべき建物は、大きな柱に支えられて薄い夕焼けに染まり始めていた。それが濃い橙になる頃には、あらかた退社していくつかの夜の明かりを照らすだけだ。
「すいません、もうお時間のほうが。」
こちらも時間が無かったために、妙に焦って胸ポケットをがさごそと探る。それを若い行員が、柔らかいまつ毛をじたばたさせて見ている。
「松山警察署の加藤です。すみませんが捜査にご協力いただきたいのですが。」
「あ、そうなんですか。令状はお持ちですか。」
加藤の後ろに立っていた林が、気まずそうな顔で汗を拭いている。それを行員は見逃さなかった。
「急いでいるんですが、特別には。」
「申し訳ありませんが無理です。私もご協力いたしたいのですが、規則ですので。」
それが嘘ではないほど綺麗に頭を下げたため、一端帰らざるを得なくなった。
加藤が振り返った時、正直者でいたい坂田の目に、少しだけ後悔を浮かばせていたのを見た。これを利用しない手はなく、手帳に挟んでいた紙を坂田の手に忍ばせる。驚きの表情の後、加藤のがじっと見つめてくるので本気なのだと感じ、行員にばれないように拝見した後で近づく。
「すいません、捜査でなく利用であれば大丈夫ですか?5分で終わります。」
「・・・急いでください。」
「ありがとうございます。すぐ戻りますので。」
二人を置いて、颯爽と貸金庫へと向かって行く。
それからちょうど5分後、怪しまれないように駐車場に戻った二人のもとへ、坂田が手帳を引っ提げて帰ってきた。
「本当にあっただろう。」
「はい、これですよね。」
見城の貸金庫については、彼が他界した時にも捜査が行われた。大方の予想通り中身は空っぽで、あるはずのものが見つからなかったのだ。彼が”人をおちょくるのが得意”だったことを考えると、中に仕掛けがあったのだ。それをなぜだか加藤に教え、今日やっと生かされたわけだ。ぴったりと吸い付くように密着した板が、裏側にある小さな穴を押すことで外れる。無理に剥がそうとしてもだめだったことは、その板についた傷跡を見れば一目瞭然である。
「ちょうどクリップがあってよかったです。」
紙に書かれた番号と方法によって、今のところ怪しまれずに事なきを得た。
その手帳は皮の部分が剥がれ、紙の端が変色してパリパリになっており、ずいぶんと古いもののように見える。しかし、中身については辛うじて読み取れる。
「ここに・・・二人とも裏切者じゃないよな?」
重要個所の共有前に、一息つくように確かめ合う。
「じゃあ逮捕するか。」
「自分は、決して犯人ではありません。絶対です。」
「ごめん、ありがとう。」
想定される答えをしっかり言ってくれた二人に、捜査中でありながらずっとこのまま続けば良いのにと、久しぶりに安堵に包まれた。そこに、悪意の姿はない。




