これまで、これから
皆様初めまして、伊藤真介でございます。わたくしの名前をお聞きになられたことのある方、まぁいらっしゃらないですよね。それそのはず、地方の田舎でせっせと汗を流して今日までやってまいりました。しかし、田舎というものは地元というものは、住めば都と私は思うのです。50年以上も前に地元松山で生まれ、今日まで松山第一主義でやってまいりました。そして、愛媛第一主義に。それから日本第一主義まで展開させていただきました。この国には力がある。この愛媛には力がある。この松山には力がある。そうやって日本中の地方自治体の皆様と協力して、”地元から世界へ”を掲げて今日まで活動させていただきました。
その結果どうでしょう、日本の観光産業は大いに発展いたしました。我が地元にもたくさんの客足によって年々税収が増えております。今、皆さま方がおられるこの建物もその税金によって建てられました。毎日たくさんの方々に訪れていただいて、憩いの場になっています。しかしながら、この国にはまだまだ課題が残っている。その全てに目を逸らしていては、解決を次の世代に残すことになるのです。子は親の背中を見て育つように、我々が偉大な仕事をやってのけなければ、その素晴らしい仕事も継承されません。
今、私に託された大いなる仕事を、この地元松山で解決したいのです。その解決のために、今日まで生きてきました。この”地元から世界へ”をスローガンに、長年解決不可能と思われた再生を達成したいのです。若者の流出を止め、出産率を向上させ、生産と商業を活発化し、水とエネルギーの確保を最優先として、最も誇らしく偉大な地元を誕生させます。皆さま、どうか、どうかお力をお貸しください。
彼は、そうして行われた国政選挙において落選した。彼の過去の発言の発覚、それに伴う様々なハラスメントの暴露によって、政界から去るのを余儀なくされた。キャンセル・カルチャーと表現する者もいたが、自分たちの意志や社会の健全化のための行動を示すという目的において、それは正確に達成されたのだ。なので、当時SNS上において揶揄の意図で表現されたキャンセル・カルチャーとは違い、本来の意味における達成がそこにはあった。
それ以来、伊藤真介の文字を見る機会は少なくなった。ここ地元松山において、少々のインタビュー記事に記載される程度である。しかしながら、彼が掲げていた”地元から世界へ”というスローガンが折れた気配は無く、彼自身の思惑はどのような手を使っても達成したいという領域まで到達した。
テレビの存在意義が問われた現代で、彼が最初に属した情報編成局の力をぶつけて、最後の花火にしようと。しかしながら自己顕示欲というのは健在であり、ここ最近になってメディア露出をし始めてしまった。彼が、サイレント・キラーであるわけではないが、彼にとっては最悪の選択に違いないだろう。
突如として松山警察署に送られた犯行予告。誰が届けたか、いつ届いたかも不明であり、捜査は難航した。遺跡における男女の死体遺棄事件、長浜駅における爆発、蛇ヶ池での女性の死体遺棄事件。これらに関連はあるのか、そしてサイレント・キラーの目的とは一体。
これまでの登場人物
山田香織 24歳無職
加藤清志 松山警察署刑事
林 松山警察署刑事
坂田 松山警察署警官
署長 松山警察署署長
黒田 警視庁刑事
新田 警視庁刑事
的場 松山警察署巡査
橋本 松山警察署巡査
井上 死体遺棄事件の被害者の母
南方 愛媛大学考古学研究所教授
第一幕 完




