震える
(前回まで)
教授から話を聞き大学を去る間際、隣の大学にて逃げ惑う学生たちを確認する。爆破予告によって休校中にもかかわらず、学生たちが花火を楽しんでいたようだが。
(登場人物)
加藤清志
林
坂田
松山警察署署長
南方
女学生
隣の大学の男子学生たち
警備員
被害の軽傷さから、大袈裟に驚いてしまったことで砕けた笑いが二人から溢れる。互いに怪我の有無を確認しつつ、お灸をすえるのだった。音を聞いてやって来た警備員が、加藤の警察手帳を見て一瞬顔が暗くなったが、くしゃくしゃになった花火の亡骸と学生を見て、事態を察知したようだった。
「ご迷惑をおかけして。」
誰のために謝っているのかが分からなくなる。しかし大事に至らなかったことで事なきを得た。
「火がついていたのか。」
「すいません、着かないと思ってそのままにしていました。」
「二度とするなよ。」
静かな怒りは、若さに後悔と再起を与える。しかし、本当に対処すべき事案はここからであった。
15分後
「あいつら、やっぱりネットに。」
「Z世代ってやつは、どうもいかんな。」
「加藤さん、それは言いすぎですよ。それに今のご時世誰もがSNSにアップするんです。この流れはもう止められません。」
「お前、どっちの味方なんだよ。」
爆発とは言えないが、この投稿には(#爆発)と書かれている。よりによって加藤と林の顔が映っており、坂田は寝そべっていたのでバレることはなかった。元の投稿は、事態を把握して怖くなったのか消去されている。しかし、元動画をコピー保存されてネット上には大量にばらまかれている状況であった。
「(何か圧力があったんじゃないか)」
「(俺の大学爆破されてて草)」
「(仕事しろは税金泥棒だ)」
「(ここの学生です。よかったらフォローお願いします。)」
などの書き込みが何万件とされている。書き込みの半分は、単なる花火のイタズラであることを見抜いていたが、もう半分は本当の爆発と勘違いして、元の投稿も碌に見ないでチグハグな意見を言っている。
「すまん、ちょっと電話に出てくれないか。」
急にかかってきた相手は、署長である。
「はい、もしもし。」
「「ん、林か。今どこだ。」」
「今、車で所に戻っている途中でして。」
「「お前たちの顔が映ってしまっているだろうが。」」
「申し訳ないです。それより電話はよろしいんで?」
「「現場が混乱していてな、それどころではなさそうなんだ。新しい情報を言うぞ。」」
「ここでですか?はい。」
「「蛇ヶ池で女性の遺体が発見された。身元から行方不明だった人物と推定されている。20年前の神隠し事件の被害者の一人だ。」」
それは恐ろしさを通り越して、掴みようのない巨大な何かと相対しているようだった。例えるのなら、神のような異次元の存在。
「署長、見城の遺品ってまだ残ってますか。」
「「いや、全て処分”された”。それがどうした?」」
「あいつ、何か隠しているような気がするんです。今起きてる事件と神隠し事件は、どこかで繋がっている。それをあいつは知っていたんじゃないか。」
「「・・・」」
署長と加藤の会話に、林と坂田は固唾を呑んで見守るしかなかった。その確信のようなものに酔いしれている様子はなく、もう少しでクリアできるゲームを見守っているような横顔である。
「「そうなると見越して、見城は残したのか。」」
「あいつの貸金庫の中にきっと。それに、あいつは人をおちょくるのが得意でしたから。」
「「・・分かった。署には戻るな。」」
そうしたやり取りの後、しばし無言の時間が続く。彼らがこれから進む道に後戻りの選択は用意されていないのだ。その現実と向き合うのには、これまで準備してきたものは通用しない。
「坂田君、すまないね。こんなことに巻き込んでしまって。」
林は半ば諦めと覚悟の混ざった表情だったが、坂田はドアを開けて飛び出したいという感じである。目が泳ぎ、それまで何度も経験してきた覚悟の時とは違い、明らかに異質な旅の切符を持たされて迷っている。
「ええ、はい。そうなんですが。」
グッとこらえるようにして俯いている。それが恐怖ゆえかパニックゆえかは分からない。しかし
「加藤さん、林さん。自分、いま息が苦しくて張り裂けそうです。」
と振り絞って声を出す。そうだった、彼はオカルトが好きだ。
「この謎を一緒に解く勇気はあるか、坂田。」
「はい、やらせてください。」
二人の異質なコミュニケーションを、林はこれから何度見なければならないのかを想像して、それから目を逸らすように窓の外を見た。




