花火
(前回)
愛媛大学考古学研究所に加藤たちは伺い、遺跡のことについて聞く。坂田は、女学生の二人に世間話として文様について聞いたのだが、そこで不思議な催眠にかかってしまった。
(登場人物)
加藤清志
林
坂田
南方
学生たち
ふと口にした探せという言葉は、自分では記憶に残っている。この喉を誰かに借りられて、言うつもりもないことを言わされた感覚はある。
「ありがとう。参考になったよ。」
女学生は顔を見合って、坂田の噂話を始めるだろう。そのタイミングで加藤たちの論争も終えたようだった。結果として、邪神を治めるための祭祀的なことをやっていた可能性と、その祭祀のための祭壇が遺体遺棄の場所と重なる。そして、その目的とは
「弥生時代後期にこの地に住んでいた人々は、死者を蘇らせる目的もあったようだ。」
それが本当ならば、と言っても本当に人が甦るという非現実的な話は置いて、犯人は誰を甦らせたかったのか。
教授に見送られながら門までたどり着く。平日でありながら、少し寂しさを感じさせるセピア色の風景が広がる。というのも、いつもがどうかは知りえないが、学生の数が少ないように思われる。
「ありがとうございました。お聞きできてよかったです。」
「いえいえ、こちらこそ。」
「つかぬことをお伺いしますが、今日は休みか何かですか?」
「ああ、うちじゃないんですけどね。隣の松山大学に爆破予告がありまして。」
加藤の返事を待たずして、林が背中を叩く。何かが起きた合図だ。
「あれ、何かあったんですよ。」
急ぐ姿と形容するなら減点されるであろう突飛な走り、誰が見ても逃げていると答えるだろう。それが、何から逃げているかが見えていないので、一層の不安を煽る。
「僕見てきますね。」
「いや、みんなで行こう。すいませんお邪魔しました。」
嫌な予感がしたというよりも、我々に向いていた牙のはずだったのに、と強く浮かび上がる。
この段階では早とちりしているだけだが、正体不明な犯人の行動が、警察に対する復讐めいたものを中心として行われているなら、すぐ近くで犯行が行われてもおかしくない。それまでの気の緩みは事実であり、その現状を打破するような悪意が向こうからやって来たのだ。速まる鼓動、疲れていても動かなければならない足、そんなはずはないと思いながら松山大学の敷地内へと入る。
「君たち、何があった。」
「ガスが・・・・。」
血色の悪さはガスのせいではなさそうだが、逃げてくる彼らの後ろには白い煙が上がっている。
「ガス?あ、ちょっと。」
学生の集団が、我々の顔を見てさらに足早に逃げているようである。何となく事の全容が見えてきて、駆ける足がいつも通りに戻った。
少し焦げ臭く、鼻の奥を刺激するのはガスというよりは、火薬系のものである。白い煙はさらさらと薄く、ふっと息を吐けば消えてしまうような滑らかさ。そこに横たわる若い青年がいて、足元には花火の類が落ちている。かやした後の水バケツが一つ、遊び終わった花火のカスが地面に色彩良く並ぶ。
「爆破予告をしたのは君か。」
その言葉にぴくっと体が反応して、脇腹に力が入っているようだ。そのまま反応がなく、死んだふりをし続ける彼は知らないだろうが、続々と逃げたはずの仲間たちが戻ってくる。
「おい、もうやめようぜ。恥ずかしいよ。」
「・・・すいません。」
爆破予告で休学となったところ、敷地内に侵入して花火を楽しんでいたようだ。学生証を見ればそこの学生たちだったので、大学側に報告するだけで大目に見た。
「爆破予告があったのは知ってるだろう。あまり無茶してはいかんぞ。」
林が顔に指差しながら叱るさまは、さながら教師のようでもある。昔、教師を志したことがあるとか、無いとか。学生たちが去る間際、キャップを逆向きに被った学生の一人が撮影した者の確認をしていたようで
「それは、ネットに上げないように。」
そう釘を刺すと聞き分けの良い犬のように、笑いながら消去する姿を見せてアピールする。
偶然とはいえ、自分たちの近くで爆破予告があったというのは聞き逃していた。これも思い立って行動しなければ、事前に忠告を受けていたに違いない。
「あれ、忘れ物してますよあいつら。」
坂田が、残された最後の一発のような花火に駆け寄る。遊びの最後を飾るに相応しいような打ち上げ型であると見受けられる。押収物として処分しておくかと思えば、学生たちの一人が小刻みに頭を下げながら近寄ってくる。はぁとため息をつきながら彼に花火を渡そうとした時、燻っていた火種が力を持ってしまった。
「火が!」
驚くほどに冷たい筒から火薬による渾身の一発が放たれ、このままだと身が危険であることを、まるで長年連れ添ったパートナーのように坂田と学生が目を合わせて意思疎通する。互いが背を向けて走り、そのまま頭を抱えて地面に寝そべる。それを見ていた学生たちはその場に立ち尽くしたままで、それは加藤と林も同じだった。後は、この花火の威力に賭けるしかない。
「ブバァ―――――ッン・・・・・。」
見た目はさほど華やかではないが、反り立つ建物の間であれば大袈裟な音が鳴り響く。聞けば、それこそが爆破予告通りの代物のようであり、本当に爆発したと錯覚してしまうだろう。加藤たちは見ていたが、遠くで佇む学生たちはどうであろう。忘れ物を取りに行くことを告げた者以外に、そのことを十分に知りえている者は。その爆発を治めようとスマホで撮影している者がいたとしたら。
「うわ。」
キャップを被った彼はその様子を偶然に撮影し、その見た目の期待通りSNSにアップロードしてしまった。




