祭祀の後で
(前回まで)
蛇ヶ池に訪れた香織。そこで元々存在した社とご神体を、別の場所に移したことを聞く。心霊スポットと噂されていた場所は、ただの言いがかりであった。
(登場人物)
加藤清志
林
坂田
南方 愛媛大学 考古学研究所 教授
急な用事であったのに、教授に会うアポを取ることに成功した。今回の事件の話をすると、何やら息巻いた様子なのは電話越しに聞き取れた。本庁の二名は、そのまま署に戻って別の捜査をすると言い、別ルートで帰宅していった。彼らに同行してもらってはいたものの、流石に来た意味や目的を考えるといたしかたない。
「あとで何か差し入れでも買っていくか。」
愛媛大学の校門の反対に立体駐車場があり、その近くには市民病院と私大が建っている。そのすぐ側を路面電車が通っており、快適な生活環境らしさが垣間見える。訪れるのは愛媛大学考古学研究所で、そこの責任者である南方教授である。学生たちがちらほらと勉強している姿を見ることができ、かつてとは違った趣深いものを感じている。
「おーーい、こちらです。」
彼こそが教授であろうと言わんばかり、例え言葉が分からなくとも教授であると分かるそのままの人が、手を振っている。少しどころか、満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくるので
「こんにちわ、そちらに向かいますので。」
駆け足で教授のもとに。
短い白髭を蓄えて、その先端がタバコの火で黒ずんでいる。いつも笑っているのだろうか、表情筋がよく煮込まれたスジのように柔らかい。
「松山警察署捜査一課の加藤と申します。こっちが林と、坂田です。」
「遺跡のことですよね。こちらにどうぞ。」
「ああ、はい。ありがとうございます。」
ずいぶんな話の速さだったので、口角がびびっと反応してしまった。そのまま連れ去られるままに、研究所へと迎えられる。実習中の学生たちがいて、筆や特殊な鉤爪のようなもので発掘練習をしている。その際に、スプレーのようなもので掻いた砂を飛ばしている。
「ああやってスプレーでやるんです。口でやってはいけませんよ。」
「彼らも城山付近の発掘調査に?」
「いや、あそこは何年も調査を中断しておりまして、今は上島町にある宮ノ浦遺跡というところで調査をしているんですよ。」
研究室には様々な土器が並んでいたり、バラバラの破片を組み立てている途中であったり、自分たちが足を踏み入れてはいけない雰囲気というのが明確にあった。
「ささ、こっちに。」
教授の部屋まで案内され、そこに地図や当時の生活状況を再現した絵が並んでいる。軽やかな足取りを拝見するに、これらを説明したくて仕方がないといった様子。我々は互いに顔を見やって、余計な茶々を入れまいと肝に銘じた。
「長くなりますが、よろしいですか。」
「もちろんです。」
「ここにあります絵、当時の祭祀の様子を再現したものです。この祭壇が、私が考えるに遺体の発見現場だと。それで、警察の方からもらった資料をさっき拝見しましてね、当たっていましたわ。」
「なんのためでしょうか。」
「ここに土器が、見えずらいですが文様があるのがわかりますか。」
この歳になるとただの凹凸にしか見えなかった。それは林も同じだったので、坂田に道を譲る。
「たしかに。これは、人ではないですね。」
「そう、神です。もっとも邪神ではないかと。」
「具体的には。」
「荒ぶる神と呼んでいます。現在まで伝承が続いていないこと、文字史料が存在しないこと、様々ありますが、この神を鎮めるための祭祀を行っていたのは史料からわかったんです。」
荒ぶるという言葉を聞いて、地元のだんじりを思い出す。当時の大人たちが盛んに荒ぶる何とかと叫んでいた。
「神輿と同じ感じですよね。」
「そうです。荒々しい神様を荒々しいお祭りで楽しませる。それによって鎮めて、ご利益まで頂こうと。神が描かれた土器がこれしかなくてですね、もっと発掘調査をしたいところなんですが・・・。」
「何か、あったんですね。」
「ええ、蛇が出て。その蛇に噛まれた学生が重症を負ってしまい、それからなんだかんだで中止状態です。」
教授の顔は、悔しさとその悔しさを押し殺す感情で拮抗しており、滲ませる独特の感情には親近感が湧いた。




