大オカルト時代の遺産
(これまで)
井上さん宅にて、宗太が行方知らずになったあの日のことを聞いた。
(登場人物)
加藤清志
林
坂田
世紀末というけれど、実際には空虚な言説である。たかが数字が切り替わるだけの現象を、一大イベントのように消化して喚きまわるという愚かさ。世の中の不安や面倒草さを全て背負わせるための言いがかりであり、その当時に流行ったノストラダムス本などというインチキに引っかかるとは、馬鹿である。
しかしながら、誰かのせいにしなければ生きていけない事情は、回避しようのない事実として存在する。そこに明確な科学的考証や論理があるはずがなく、だからこそ責任の所在を空中にぶら下げながら、負担なくのめり込めるのだ。
「21年前となると、1999年のわけだが。」
坂田が揺れる水風船のように落ち着きのない様子であったので、それとなくパスを渡す。
「はい、ノストラダムスの大予言ですよね。お二人はどうでしたか、読みました?」
「いんや、俺はああゆう類のものは、肌に合わなかったよ。」
いつものように嫌い、ゴミと言い出しにくい眼差しであったから、林も理解を示したように
「面白いとは思うけど、あの頃は忙しかったからね。」
と着地点の定まっていない不時着になった。
「オカルトブームは、ある種若者のブームですから。高校生の井上さんがはまっていてもおかしくはないですね。」
「宗太君の部屋は見せてくれなかったな。」
「見せたくない物があったのか、気になりますね。」
この事件が霊的なものと関わっているとは、思えない。それを隠れ蓑にしている可能性も十分にあり、世の中に不安が蔓延する度にこうした事件なり現象は発生する。陰謀論やオカルトの基本は、他人と交流することで満たされる傾向がある。噂話や悪口で盛り上がるように、この世の摩訶不思議を通して交流することによって、不安の解消を図っているわけだ。それが流行するということは、それに準じた事件の発生があって、それを警察が対処して研究するわけである。
「ノストラダムス以外にも流行ったものがあるんですよ。」
「ほう。」
「あまり世間では取り上げられなかったですけれど、パラケルススと言う人物でして。錬金術の偉大な人物で。」
「ニュートンとかの?」
「ああそうですね。それで”死者を蘇らせる術”というのが一時期流行ったんです。誰しもが愛する者を失っている、もう一度会えるとしたら、ていう触れ込みだったような気が。」
死者という言葉に、林が思いついたように顔を上げる。車内の角をまっすぐに見つめたままで、聞こえないほどの小さな声でぶつぶつと呪文を唱えている。
「なるほど。加藤さん、あの埋葬された死体は”儀式的”なものかもしれませんよ。」
「それを使って、死者を呼び戻すと?なら場所は・・・。」
井上さんと椎名さんが埋まっていたのは、発掘途中で忘れ去られた遺構である。もしも、その遺跡がどういった機能を持ち、どういった場所であったのかが分かれば、犯人よりも先に行ける。霜を掴むように困難を極めた現在の状況を打破し、この捜査に大きな道筋を作ることができるかもしれないと、胸の真ん中がしきりに動いて仕方がない。
「よし、専門家に聞き取りをしよう。」
「それなら、愛媛大学に考古学研究所があります。そこにおられる先生が、発掘にも関わっていたはずです。」
「坂田、よく・・。」
「新人ですから、任せてください。」
長年燻っていた刑事心に、今頃火がついたようであった。その火を絶やさずに息を大きく吸い、失敗の許されない道へと進んでいく。
これからは、一話1000~1500文字程度で書こうと思います。夏目漱石が朝日新聞に『こころ』を連載した時にそれぐらいだったようなので。その代わりに毎日連載していきます。




