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第二章 潜入編 二話

「あの、華蓮さんをご存じなんですか?」

 私が打開策を考えていると、一人の女性が質問を投げかけてきた。

「えっと……」

「ああ。実は彼女の兄(?)とは知人でな。その妹さんが最近行方不明になっているのだという話を聞いていたんだ」

「あら、お兄さんの」

 一同は疑うことなく納得して、私たちに親しげな表情を向けてきていた。

 その程度の説明で納得してくれるとは、彼女たちには随分と警戒心がないようだ。

 仕方なく、私たちは華蓮さんの正面に座って話を聞くことにした。

「やあ、柳くん。少々話を伺ってもいいかね?」

「どうも、えっと……?」

「私は成田柚子。こっちは月吉海くん」

 弓菜さんは平然と偽名を名乗った。確かに弓菜さんは有名人なので、本名を名乗るのは得策ではないだろう。

 でも何でその偽名なんだろう?

「キミのお兄さんとは行きつけの小料理屋が同じでな。最近元気がなかったんだが、聞くとキミが行方不明になったというじゃないか」

「そうなんだ。兄さんには心配をかけちゃったなぁ。

 まだ三日しか経っていないから、平気だと思ったんだけど」

「ここは外出禁止と聞いたが、連絡ぐらいはできたのではないか?」

「ううん。連絡も禁止。情報管理を徹底しているんだって。

 何でも町全体を使った大々的な催し物を行うとか。

 今日はその準備の報告会で、お店の責任者を待っているところなんだ」

「ほほう」

 何やら弓菜さんの眼光が怪しく輝いた。

 貴重な情報に興味を持ったみたいだけど、同時にどこか怒っているような気がした。

「ところでキミたちは、今現在この店が営業停止中だということは知っているのかね?」

「はい……?」

 和気あいあいとした雰囲気の中に、異質な言葉が投下される。

 室内は沈黙に包まれるけど、それもほんの一瞬だけだった。

「あははは、まさか〜」

 あまりに唐突だったためか、それは冗談だと認識されたようだ。

「はは、何をいっているのよ。

だったら貴女はどうして募集に応募しているの? 仕事がないと知っていて店に働きに来る人なんていないでしょ」

「もう、来た早々何を言っているんですか」

 一人一人の表情を窺ったけど、弓菜さんの言葉を本気にしている人はいないようだった。

 みんな本気で知らないんだ。

 多分、この人たちは悪事に荷担しているという認識はないんだろう。

 そんな普通の女性たちを、これから罪に問わなければならないのだから複雑な気分である。

 私たちはもう少し情報を得るため会話を進めることにした。

 彼女たちがどこに異形を案内したのかがわかれば、討伐が容易になって町の被害を減らすことができるのかもしれない。

 そうして歓談を交えながら情報を収集していると、何やら玄関の方から男性の声が聞こえた。

 何事かと様子を窺っていると、すぐに部屋の入口から妙な男性が現れたのであった。

「皆さん、ただいま帰りましたよ。全員そろっていますか?」

 それは燕尾服を着た胡散臭い人物だった。シルクハットにステッキ、変な形の眼鏡、奇妙に整えられた口髭という風変わりな姿の人間だ。

「あ、豊田さん。おかえりなさい」

「皆さんお疲れさまです。今日も暑いですねぇ」

 どうやらこの店の人間であるらしい。

 一つ一つの品は良いけど全体的だと胡散臭いその人物は、軽薄な微笑みを浮かべながらツカツカと音を立てて部屋に入ってきた。

「さて、まずは報告をしてもらいましょうか」

「その前に豊田さん。アルバイトを希望する人が来ていますよ?」

「アルバイト? はて、どうやって聞きつけて来たのですか? 募集はしていなかったのですが」

「え?」

 男性の言葉に全員が怪訝な表情を見せる。

 募集をしていないということは、本来現れるはずのない人間だったということになる。

 不穏な空気になるのも当然である。

「やあ、織物屋。随分と面白そうなことをしているじゃないか」

「はあ? 何ですかキミは―――」

 弓菜さんは勿体つけながら振り向いた。

 その顔を見た男性は、驚きで表情を引き攣らせたのだった。

「――あ、貴女は生活相談課の!?」

「三日ぶりだな、織物屋。

 営業停止中に商売とは、余程に営業許可を剥奪されたいらしい」

 以前に顔を合わせていたようで、弓菜さんの言葉には遠慮がなかった。

「い、いやだなぁ。何の話ですか。商売なんてしていませんよ」

「なるほど、確かに巨人に商品を着せて各地に送り込むのは営業活動ではないのかもしれないな。あれは宣伝になどならんものなぁ」

「――なっ!? 何を仰っているのですかなぁ!?」

「いいかね? 良く考えて答えたまえ。

 キミが行っていたのは宣伝活動か、それとも別の活動だったのか。

 それによって我々も対応を変えなくてはならないからな」

「あわわわ」

 どうやら彼も、弓菜さんが情報を掴んでいることを確信したみたいだ。

「あ、あのぅ……もしその活動が……せ、宣伝目的ではなかったのだ……としたら?」

 男性は恐る恐る質問した。

 すると弓菜さんは、凄い笑顔で答えた。

「最悪極刑だなぁ」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

 弓菜さんの脅迫染みた言葉に、男性は目に見えて取り乱していた。

 もし、この男性が全ての黒幕だったのなら、それはこの都市に対する重大な反逆行為となる。

 ここで検挙されたら極刑は免れないのだから、弓菜さんは敢えて様子を見る機会を持ったんだ。

「も、勿論宣伝です! 営業停止中に商品の宣伝活動を行ってしまいました!

 誠に申し訳ありませんでした!」

「ええ〜〜〜っ!?」

 従業員の女性たちから驚きの声が上がる。

 自分の雇い主がこうもハッキリ不正を認めてしまったのだ。戸惑うのも仕方がない。

「あ、あの、貴女たちはいったい……」

「では全て話せ。

 キミの目的。関与している者。ここまで至った経緯。商品の情報。

 今すぐ話さねば、キミは憲兵の出張費と裁判の費用を全て支払うことになるだろう」

「…………はい」

 そうして私たちは、男性の長い弁明を聞くことになった。

 何にしても彼が悪いのは確かなので、取り敢えず正座はだけは強要しておいた。


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