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第二章 潜入編 一話

 私たちが織物屋に到着したとき、やっぱりその店のシャッターは閉まっていた。

 そこは中央地区の北東。国道に隣接する氷川町という場所の東側に、その真新しい店舗は存在していた。

 新築の東洋建築。店舗と工房が一体になっているようなその建物は、外観は綺麗なんだけど、どこか胡散臭い雰囲気を漂わせていた。

 まるで形だけを取り繕っただけのバラックのような、そんな安っぽさが感じられたんだ。

「で、どうするんだ? まさか不法侵入する訳にもいかねぇだろ」

「働きに来たフリをして潜入する。相手は恐らく若い女性を使っているから、私と日吉くんなら怪しまれないだろう」

「ええ? そんな上手くいくかなぁ?」

 若い女性というのは、今まで行方不明になっている人たちのことだろう。その人たちに話を聞くことができたら、確かに色々とわかるかもしれないけれど……。

「俺はどうするんだよ」

「キミは周囲を警戒していてくれたまえ。誰か出て来たら尾行だ」

「ほう、尾行か」

 孝也くんは楽しそうに親指を立てた。どうやら喜んでいるらしい。

「では行くか。その裏に玄関がある」

「ああ、うん」

 結局、大した作戦もなく突入することになった。

 弓菜さんったら、全く周囲の警戒もせずに玄関に向かっていく。もっと警戒する必要があると思うんだけど、そんなことはお構いなしらしい。

 もし扉を開けた瞬間にあの異形が出てきたらどうするつもりなのだろう。

 せめて警察の応援が到着するまで待った方が良いと思うのだが。

「ごめんつかーさーい。誰かー、いーまーせーんーかー」

 到着した弓菜さんはガンガンと玄関の扉を叩いた。

 扉の脇にはインターフォンがあるんだけど、それは使わないらしい。

 そんな呼びかけに反応して、店の中から女性の返事が聞こえた。

 その声に緊張する様子はなく、普通の来客に対応するようなものだった。

「はいはーい、少々お待ち下さぁい」

 やがて扉が開くと、若い人間の女性が顔を覗かせたのであった。

「どちらさまですか?」

「どうも、アルバイトの募集を見てきたんだが」「アルバイト?」

 女性は値踏みするような視線を私たちに向けきた。

 そもそも従業員を募集していなかったら怪しさ爆発である。

 この店の現状の立場は、営業停止中。そこに雇ってくれという人間が現れるなんて、普通ならどう考えても不審に思うことだろう。

 しかし。

「ようこそいらっしゃいました。今は責任者が不在なので、中に入ってお待ちください」

「それはどうも」

 随分と簡単に通してくれるようだった。

 一歩中に入ると、店頭へと続く直進の通路と、右側に続く通路が見えた。右側の通路からは何やら騒がしい声が聞こえてくることからも、そこに複数の人間がいるのだろう。

「既に誰かいるのかね?」

「貴女たちと同じアルバイトの娘たちですよ。

 もっとも、貴女たちみたいに自分で応募してきた人は初めてですけど」

「……応募が初めて?

 ではキミたちは、この店の人間に勧誘されて集まったということか?」

「はい。変な仕事ですけどね。商品の宣伝とかいって、着物を着せた人を各地に送り届けるんです。

 案内係り、とか言っていました」

「ほう」

 どうやら、私たちの考えは正しかったらしい。

 この町に潜入させた異形を各地に配置する。そうして一斉蜂起させることで、町に甚大な被害を与えるつもりなのだろう。

 問題はその最終目的だ。

 ただ破壊を目的としているのか、それとも混乱に乗じて何かをするつもりなのか。 彼女たちは何も知らなさそうだけど、あるいは何かしらの事情を聞いている可能性はある。ここはもう少し会話をしてみるべきだろう。

「みなさん、バイト希望の新人さんが来ましたよ。担当者さんが来るまで、しばらくここで待ってもらいましょう」

「あら、新人さん?」

「へえ? バイト希望って募集していたんだ」

「入って入って、一緒にお茶でもいかが」

 何やら様々な声が掛けられた。

 その全てが若い女性で、この店がそういう人選をしていたのだと理解できた。

 部屋自体を確認すると、そこは木造の粗末な部屋だった。大きさは六畳ほどで、板をはめ込んだだけの壁や床は、機能性より経費を削減したような造りだ。

 申し訳程度の飾り窓や内装彫刻があるけど、どこかで買ってきた物を適当につけたような感じが否めなかった。

 部屋を区切っている壁の向こうに見えるのは台所。

 この部屋の中央には長方形のテーブルがあって、そこにお茶とお菓子が所狭しと並んでいた。

「何これ……」

「皆、ノルマが終わって待機中なんです。契約期間中は外出禁止になっていますから、こうしてお話しているぐらいしかやることがないんですよ」

「外出禁止って……」

 何だか怪しすぎないか。誰も疑問に思わなかったのだろうか。

 まあ、雇い主に仕事だと言われたなら多少の異常も気づかないのかもしれないけど。

 部屋に足を踏み入れた私は、女性たちの中に見覚えのある顔を発見した。知人ではなかったような気がするんだけど、どこで会ったのかは思い出せない。

「あれ? えっと、どこかで……」

「(柳華蓮くんだよ。依頼されていた捜索対象だ)」

 そう弓菜さんに小声で言われ、漸くそれが依頼者である柳権三郎さんの妹さんであることに気が付いた。

「ああ! 華蓮さん! 華蓮さんだ!」

 私は思わず大声を出してしまった。

 探していた写真の人物と出会えたことで、少し興奮してしまったんだ。

 当然、そんな私に注目が集まる。

 当の華蓮さんは、きょとんとしながら私を見つめていた。

「……まったく、この娘は」

 弓菜さんが頭を抱えながら呟く。

「あ…………」

 私はその姿を見て、漸く自分が失態を演じたことに気が付いた。

 私たちはここに調査をしに来たのだから、警戒されてはいけなかったんだ。

 まだ目的が華蓮さんの捜索だけなら構わなかったんだけど、変に勘繰られたら情報収集に支障をきたしてしまうかもしれない。

「たはー」

 私は手のひらで額を打った。




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