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第二章 神域編 二話

「さて、まずはその辺の精霊にでも話を聞くか」

 早速、弓菜さんは依頼された人探しを始めることにしたようだ。

「精霊さん?」

「名もなき自然霊のことだな。ここではアルバイトで天津神の世話係などをやっている」

「あ、アルバイトなんだ」

 などと話しているとき、不意に近くの神社から何だかよくわからない岩のような物が転がってきた。

 その表面に顔のようなものがついていて、何だか爆発しそうな雰囲気だ。

「やあ、石。少し良いかね?」

「おおお? 撫子さま! 

 こんな所でお会いするなんて珍しいですな!」

 それは、妙に元気な子供みたいな声だった。大きさは30センチほど。

 結構な大きさな石だけど、軽やかにポヨンポヨンと飛び跳ねている。

「仕事で用事があってね。キミは元気でやっているか?」

「はい、お蔭さまで。今日も商売繁盛です」

「キミは確か飴を売っているんだったか」

「はい。お一つどうですか?」

「結構だ。それより聞きたいことがあるんだが――」

「あ、はいは〜い! 私欲しい! 精霊さんの飴って興味がある!」

 私は思いっきり手を挙げて主張した。

 だって、こんな石みたいなのが商売しているっていうんだから、是非ともその商売やら商品やらを確認したいじゃないか。

「これは毎度ぉ。って、初めて拝見するお顔ですね」

「あ、私は調停屋の職員で日吉っていうの。こっちは藤岡くん」

「おお、調停屋の。では勉強しなくてはいけませんな!」

 そう言うと、石の精霊さんは頭(?)をパカリと開いた。

「うわ!」

 私は悲鳴を上げた。いきなり自決したのかと思って、グロい展開を覚悟してしまった。

 しかし当然ながら石さんから血が噴き出すことはなく、苦しんでいる様子もなかった。

 石さんはまるで見せつけるようににじり寄って来る。

 恐る恐る上から覗き込むと、その形は空洞になっていて、包み紙で梱包された飴玉がぎっしりと詰まっていた。

「一つ十円です」

「そうねぇ? じゃあ十個くださいな」

「毎度ありぃ。あ、僕には手がないので持って行ってください」 手……ないんだ。

「六、七、八……。はい、十個。ありがとう」

 早速一つ包み紙を開けてみると、その飴玉は透明感のある不思議な紫色をしていた。

 形は普通の球体だけど、私はその異形な存在感に見覚えがあった。

「……これって……十三里式。――魔力を凝縮させた物じゃない!」

 それは、異形退治で私たちが使用している結晶と同じものだったんだ。

 この町に充満している魔素、つまり魔力を特殊な方法で抽出したもので、町の外では法外な金額で取引されているものなんだけど。

「うん、魔力。甘味料や香料を混ぜると美味しくなるんです」

「美味しくって、食べて大丈夫なの!? じゃなくて、凄く高価なんだよ、これ!」

「高価? 別にただの飴ですよ? 素材も特別でもないし」

「それはこの町が――」

 精霊さんの純粋な態度に、私は上手く説明ができなかった。

 魔力は驚くほど高価で、この町以外では貴金属以上の値段で取引されているぐらいなんだ。

 そんな常識の違いに唸っていると、孝也くんが私の肩に手を置いた。

「もういいだろ、日吉。ここでは外の常識は通じねぇ。何を言おうが無駄だ無駄」

「でもでも! これ一つで大勢の人が助かるんだよ!? この大きさの純正品なら十万円ぐらいするし!」 私は主張せずにはいられなかった。

 武神塾の塾生たちが最重要の戦力として使用している十三里式魔力。

 術式に組み込むことで魔法が発動できるというそれは、一般には殆ど出回ることのない珍しい結晶だ。

 昔はかなり多く生産されていたんだけど、あまりに採取し過ぎて生産に制限が設けられるようになったそうだけど――。

「この町では割と定番のお菓子だな。魔力の濃度によって触感も変わる面白い一品だ」

「子供たちには喜んでもらっています。幼稚園のオヤツによく搬入していますし」

「ああ、確かに。遠足のオヤツには必ずこれがあったなぁ」

 何か、ローカルな話になりつつある。

「オヤツ……」

 私は崩れ落ちそうになった。膝がガクガクだ。

 世界では唯一の万能物質として貴重に扱われているというのに、ここでは一個十銭の子供のオヤツ扱いである。

 何それ、魔力の格差社会か。

「ショック受けてねぇで食ってみりゃ良いじゃねぇか。ほらよ」

「むぐ」

 無理やり口に突っ込まれた飴玉は仄かな甘みがした。

「……ほいひい」

 キラリと光る涙の理由は私にもわからない。

 などと人生の苦味を味わっている隙に、孝也くんが私の飴を一つ奪っていった。

 何の悪びれもなく口に入れると、徐々に怪訝な顔になっていった。

「何だこれは? どこかで食ったような味だが」

「あ、やっぱり? 私も記憶がある味だと思ったんだ」

 どうやら孝也くんも、私と同じ疑問を覚えたようだ。

 よくわからない野菜のような匂い。

 味は砂糖でつけているのかもしれないが、この不思議な匂いがよくわからない。

「ああ、それか。この町の名物、甘藷だな」

「甘藷……サツマイモ?

 ああ、そう言えば」

 外での主食は馬鈴薯、つまりジャガイモだった。環境に左右されにくい芋類は多く栽培されていたけど、甘味の強いサツマイモは用途が多いため、あまり私たちは単品で口にしたことがなかったんだ。

 それですぐに気づけなかったんだけど、それを差し引いてもお芋はあまり匂いが強くない。

「不思議な飴だね。素朴で、優しい感じ」

「普段は菓子屋横丁で商売していますんで、今後ともよろしくおねがいします」

 石さんは頭の蓋を閉めると、ちゃっかり商売の宣伝してきた。商魂たくましい精霊さんだったようだ。

「はぁ」

 私は飴を舐めたまま、少し疲れて溜息を吐いた。

 まったくもって意外なことが目まぐるしい。

 果たして私はこの町に適応することができるのか、はっきり言って微塵も自信はなかった。




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