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第二章 五話

「さて、受け取る物も受け取ったし、そろそろお暇するか」

「え、もう?」

 弓菜さんはその場から立ち去ろうと立ち上がった。

 私はその早急な行動が少し意外に思えた。ここは彼女のご実家なので、もう少しゆっくりするのかと思っていた。

「我々は仕事で来ているのだぞ。用事が済んだら退出するのは当然だろう」

「まあ、そうだよね。もう少しお話したかったけど、仕方ないか」

 そうして私も立ち上がろうとしたんだけど、それを制止するように孝也くんが疑問を投げかけてきた。

「っていうかちょっと待て。この人たちに今回の話を聞けないのか?」

「へ? 今回のことって何?」

「あのなぁ。だから、俺たちがここに許可を貰いに来たのは、探している人物が神域に入っていったという目撃情報があったからだろう。

 だったらそいつも、管理局で許可を貰っている可能性が高いってことになる」

「ああ、そっか! それなら申請した情報が残っているはずだもんね!」

 私は感心した。孝也くんもちゃんと仕事のことを考えていたらしい。

「ああ、それならナデちゃんから承っていますよ。

 ただ個人情報の提示には色々な制限がありますから、少しばかり時間がかかりますの」

「ああ、そうなんだ」

 どうやらまだその情報はもらえないらしい。弓菜さんもそれを想定していたから、最初から言及しなかったんだ。

「情報が整いましたら連絡いたします。アドレスは以前のままですよね?」

「ああ、よろしく頼む」

 弓菜さんは小鳥さんに軽く黙礼した。

 その淡白のようで深い信頼が感じられるような独特な空気が、彼女たちの関係を物語っているような気がした。

「行くのか」

「はい。早めに対処しなければならない仕事がありますので」

 静かに声をかけてきた一刀さんに向かって、今度の弓菜さんは丁寧に頭を下げた。

 当初とは雰囲気が違うが、それが彼女たち本来の関係なのだろう。

「そうか、気を付けろよ」

「はい。ではこれにて」

「本当に行っちゃうのね。折角二年ぶりに会えたのに、おばさん寂しいわ」

 千鶴さんは涙を浮かべながら別れを惜しんでいた。 その表情に、弓菜さんは思わず足を止めてしまう。

 さすがに母親代わりの千鶴さんを無視することはできなかったらしい。

 弓菜さんが戸惑っていると、それを見兼ねた一刀さんが千鶴さんに視線を向けた。

「千鶴。撫子にはこの地の全ての者を調停する使命がある。

 お前がそんな撫子の活躍を喜ばなくしてどうするのか」

「…………」

 神妙な表情で俯いてしまう千鶴さん。

 別に弓菜さんの仕事を認めていないわけではないのだろうけど、それより別れの辛さが大きかったのかもしれない。

「お、お母さま! 大丈夫ですよ! きっとまたすぐにお会いできます!」

 千鶴さんの悲しげな表情が見ていられなかったのか、小鳥さんが懸命に励まそうとしていた。

 彼女の気持ちを考えると、ついそうせずにはいられなかったのだろう。

「ナデちゃんだって、お仕事が終われば時間の都合がつくかもしれません」

「小鳥ちゃん……」

 そんな気持ちが通じたのか、徐々に千鶴さんの悲しみは払拭されていった。

 どうやら本当に良い親子関係のようだ。

 ただ、当の弓菜さんは視線を彷徨わせて話を聞いていないフリをしている。

 きっとどれほど暇になっても会いに来るつもりはないのだろう。

「ねぇ、弓菜さん。何でそんなに彼女たちと距離を取ろうとしているの?」

 私は他の人たちには聞こえないよう、こっそりと弓菜さんの背後から聞いてみた。

 すると弓菜さんは、同じような小声で答えた。

「別に距離を取っているわけではない。ただ、態々会いに来る必要がないと思っているだけだ」

「……どういうこと?」

「キミは家族に顔を合わせるために頻繁に実家に帰っているのか?」

「帰ってないけど。……ああ、そうか」

「つまり、そういうことだ」

 多くの人は一度実家から離れたら、里帰りはたまにしかしない。

 まあ理由は色々あるんだろうけど、家族だからこそ無理に接点を持つ必要がないのである。

 弓菜さんは千鶴さんたちを家族だと認識しているからこそ、そのような態度を取っていたんだ。 私は弓菜さんの表情を盗み見てみると、彼女は眉を寄せた難しい表情をしていた。

「……ん?」

 これが本当に家族の話をしている者の顔なのだろうか。

 やっぱり真意は別にあるのか。私にはよくわからなかった。




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