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4章 その2

 そんな訳で情報収集をすることにした私たちは、起きている異変を確認しながらレイダー村にやってきたのであった。

 余談だけど、陽光がないのでシロちゃんは懐から出して私の肩に乗せいている。この異変という環境は、不死生物には優しい世界だったみたいだ。

 そんな異常な状況を進んでたどり着いた村は、どこか辛気臭い雰囲気に包まれていた。

 かなり発展して建物が増えているようだけど、異変によって植物は枯れ、地形の変化も著しい。

 ただそれより注目するべきなのは、村から窺える感情みたいなものだ。

 どこか悲壮で、辛気臭い気配が一定の方角から漂ってくる。

 その元は村の奥。教会とかいう宗教的建物に大勢の人たちが集まっており、そこで何が行われていた。

「あれは何かな? お祭り? 儀式?」


「お葬式ですね。飾り立てられた御棺が見えますでしょう」

「ああ、うん」

「ああやって故人が生前好きだったものを御棺に彫ったりすることで、旅立つ人が寂しくないようにしているんです」

「…………………」

 どこか、私の心の奥で引っ掛かるものがあった。

 世界がこんな状態なんだ。お葬式なんて珍しくないのかもしれない。

 でも、私はその葬儀が妙に気になってしまった。

 この感情は……多分、不安だ。

 私の足は自然と葬儀の集団に向かう。

 葬儀の外から見た限り、どうやら棺の蓋は閉められているようで、中は確認できそうにない。

 取り敢えず近くの人間に聞いてみることにした。

「あの、これは誰の?」

「あん? アンタは……」

 不意の闖入者に、村人たちは不審な視線を向けてくる。しかし、誰も私のことは言及せずに質問に答えてくれた。

「これは勇者様の葬式だよ。

 旅の途中で命を落としたらしくてな。それで先日、この故郷に亡骸が届けられたんだ」

「旅……故郷……」

 奇遇なことに、私はそれらの言葉に当て嵌まる人物を一人だけ知っている。

 勿論、全くの別人である可能性もある。でも、何故か私の中に不思議と確信のようなものあった。

「――――」

 名前を聞くことができない。もし聞いてしまえば、悪いことが現実になってしまいそうだから。

 もしこのまま確認しなかったら、量子力学的な意味で事実が確定しないのかもしれない。

 でも実際は、私一人が耳を閉ざしたところで現実が変わることなんてないんだ。

 硬直して動けない私に、コーネリアが背後から声をかけて来た。

 どうやら独自に聞き込みをしていたようだ。

「ルーナ様、状況はわかりました。少しこの場を離れましょうか」

「……うん」

 私たちは参列者の集まりから抜け出すと、そこから若干だけ距離を取った。

「状況から察するに、勇者が亡くなったのは確実でしょう。破滅を食い止める存在を失い、現在のようになってしまったのです」

「うん。それは私も聞いた」

「ではもう勇者がどなたかだったのかも?」

「そこまでは聞いてない。けど、そんな質問するってことは知っている人なんでしょう?」

 赤の他人だったら聞く必要なんてない。

「はい、残念ですが」

「そう……」

 半ば予想していただけに、あまり驚きはしなかった。

 ただ心の片隅に妙な感情が渦巻いている。

 彼のことはあまり知らないので、それほどの悲しみはない。そういった感情ではなく、こう何か心に穴が開いたような――。

 そうか。喪失感、というのだろか。

 この村の少年、グラード。 彼は私にとって、どういう存在だったのだろう。

 関係で言うと、幼い頃からの友人だったらしい。

 だけど今の私的には、少しだけ交流があった同年代の人間。特出したことは何もない、ただの少年なのである。

 ……なのに何で、ここまで気持ちが揺らぐのだろう。

「ルーナ様、大丈夫ですか? お話はここまでにしますか?」

「……いえ、続けて」

「そうですか。ではまず現在の状況を整理しますね。

 勇者の死によって人間たちは世界を救う術を失いました。彼らはこのまま世界が寿命を迎えるのを待つしかないのでしょう。

 神が次の勇者を選ぶには時間がかかりますし、異世界から召喚するにも準備をしているだけの時間はありません。

 要するに完全な手詰まりですね」

「あ、勇者って召喚もできるんだ……」

 世界を救うというのも面倒臭いんだな。

「人間が手詰まりということで、以降は別の存在に権限が委ねられます。

 その存在の行動によって、世界の行く末が決まるわけですね」

「勇者以外にそういう存在がいるの?

 勇者の死と世界の終りは同義だとか言っていなかったっけ?」

「勿論同義です。勇者は神が用意した本来の対応策ですから。

 ただそれが叶わなかったときのため、代わりとなる制度が存在しているんですよ」

「制度? それは……?」

 私が反射的に質問すると、コーネリアは少し考えを巡らせてから、一転して楽しそうに話し始めた。

「そのお話をする前に一つ。これから先のお話は、世界の仕組みに係わる事柄です。

 本来は資格がない者に伝えることは禁忌とされ、その当事者には相応の責任が生じることになります。それでもお聴きになられますか?」

「え……え? そこまでの話なの?」

「所謂、最重要機密事項、というヤツですね。

 いま私がお話ししなくても、ルーナ様なら魔王継承のときに伝えられるはずです。それまで待つという選択もありますが」

「そこまで言われたら逆に気になるじゃない。っていうか、何でその機密事項をアンタが知っているのよ」

 幾ら魔王の家庭教師でも普通の人間でしょうが、アンタは。

 それともそこまで魔王に信頼されていたのか?

 コーネリアは私の疑問をあっさり無視して、話の本題に入ってしまった。

「まず言っておくのは、魔王は世界を滅ぼす存在ではない、ということです。

 魔王という存在も、世界が作り出した仕組みの一つなんですよ」

「ええ!? 世界征服とかしないの!?」

「することもあるかもしれませんが、それ自体が目的ではありません。

 魔王――魔界に存在する三柱の王は、地上の魂を浄化し、神がいる天上界に帰すという役割を持つ存在なのです」

「魂!? 神!?」

 何その善良そうな役割。

「それらを総じて魂の循環と言い、地上の霊的秩序を維持管理しているのです。

 確かに人間とは敵対していますが、それは与えられた役割を果たしているだけだからです。

 別に世界の敵というわけではないのですよ」

「お、おお!?」

 何だか意外な存在だぞ?

 お前は魔王だ、とか言われても正直やる気は出なかったけど、コーネリアが言うような存在なら平和主義の私的にも問題ない気がする。

「次に勇者ですが、その役割は先程も申した通り、寿命に瀕する世界を救うことです。

 魔王を倒すことで天上界に昇る資格を得て、そこで生命の宝珠を賜ると言われています」

「あ、やっぱり魔王って倒されちゃうんだ……」

「そういう仕組みですからね。

 そうして手に入れた宝珠を世界の中心に納めることで、破滅を阻止することができるそうです」

「そっか……。それがアイツの使命だったんだね」

 勇者の話を聞いて、あの少年の顔が思い浮かんだ。

 使命を果たせず、志半ばで倒れてしまったグラード。果たして彼はどこまで結果を残せたのだろう。

 魔王の下までたどり着けたのだろうか。だとしたら……って、あれ? 

 もしかしてアイツを倒したのは私の親かもしれないってこと? 

 もしそうなら、私はどうすればいいのよ。

 アイツの死を悲しむべきか、親の健在を喜ぶべきか。

 もう訳がわからない。

「どうかしましたか? なにか複雑な顔をしていますよ?」

「ううん、何でもない!」

 実際にアイツと親が対峙したとは限らないし、ここで口を挿んでも答えは出ない話だ。

「そうですか。では本題に入りましょう。

 勇者が倒されたことで世界が崩壊しかけている訳ですが、その勇者に代わり崩壊を止める制度がある。

 そこまではお話しましたね」

「うん」

「実はこの制度。魔王にのみ適応されるもので、魔王が勇者と同様の行動をしなければならないんですよ」

「ん……? 魔王が、勇者?」

 どういうことだ? 

 つまり冒険の旅に出て? 神様に会って? 世界を救うってこと?

 それ、魔王にしたら罰ゲームみたいじゃないか。

 伝説の罰ゲーム。タイトルは魔王の大冒険か。

 ――って、それもう魔王じゃないし!

「あり得ないって!

 じゃあ魔王退治はどうするの。魔王が魔王退治って、矛盾しているじゃない」

「あら、そうでもありませんよ? 魔王は複数いますからね。他の魔王と戦うか交渉することによって、その条件は満たすことができます。

 まあ条件に多少の違いはありますが、それほど難しいことでは――」

 と言いかけたところで、コーネリアは不意に言葉を止めた。

 そのまま視線を山に向け、一点を凝視しながら小さく呟いた。

「……これは」

「どうかしたの?」

 問いかけると、縁起が悪いことにコーネリアは凄く楽しそうに微笑んだ。

「どうやら面白いことが起きているようですね。戻りましょう、ルーナ様」

「面白いこと?」

 彼女が面白いなどと言うものには、私が面白かった例が一度もない。

 どうせまた妙なことが起きているに違いない。

「迷宮の真上に魔力の出現を感じました」

「魔力? 何の?」

「あれは恐らく、〈本物〉です」

「本物?」

 何の本物だというのだ。

 このような異常な状況なので、更なる超常現象でも発生したのだろうか。

 そう思って問い質してみるも、彼女は微笑んでいるだけで何も教えてはくれなかった。



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