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4章 その1

 第四章 半端な魔王



 また二年経った。

 十六歳ですよ、十六歳。

 もう結婚していてもおかしくない年齢だし、お酒だってバリバリ飲める。

 まあ飲酒はコーネリアに禁止されているけど、立派に成人しているのだからもっと権利というものを認めてくれても良いと思う。

 ちなみに魔族の成人は十五歳。それを過ぎたら一人前として魔族社会に認められるんだけど、コーネリアがお酒だけは身体の発展の都合でダメだと頑なだった。

 やはり魔族の不幸は、その成長の遅さにある。

 十歳までは人間と同じなのに、そこから先が人間の十分の一ぐらいの成長速度になるんだそうだ。

 今の私は普通の大人として社交界にも進出できるのに、体に影響を与えるようなお酒や煙草は厳禁なんだってさ。

 それはどんな健康主義者なのよ。

 魔族なんだから人間の法律なんてクソ喰らえなんじゃないの?

 とか言ったら、小一時間ほどコーネリアに説教をくらった。

 魔族でも自分の体を大切にできない人は親不孝なんだってさ。

 そういうことはうるさいんだよ。このコーネリアは。

 そんな彼女なんだけど、ずっと一緒にいた私には一つだけ納得できないことがあった。

 私は魔族なのだから成長が遅いのは仕方がない。

 しかしこのコーネリアは、人間であるはずなのに全く変化していないのである。

 それは明らかにおかしくないか?

 人間というのは寿命が短く、成長も老化も極端に早い種族だ。

 出会ってから六年。当時で二十歳前後ぐらいの外見をしていたから、少なくても二十五以上のはず。

 こんな外見のまま変わらないって、もう反則みたいなものじゃないか。

 人間の域を超えているので、案外本当に人間じゃないのかもしれない。

 以前一度、彼女に年齢を聞いたことがある。

 そうしたら――

「あら、レディーに年齢を聞くのは失礼ですよ?」

 と言われた。

 奇遇だね、私もレディーだよ。

 まあ、そんなこんなで迷宮生活を続けてきた私たちだけど、実は既にこの迷宮は手を加える余地がないほど、完璧という状態にあったんだ。

 私が管理しなくても全てが独自に成り立つよう調整され、恐らく何年経っても環境や、存在する物質の割合が変化することはないだろう。

 勿論それは最下層も同様だ。それ一つで町が滅ぼせるほどの武器や魔物が数多く用意され、冒険者たちを今か今かと待ち受けているのだ。

 多分ここまで立派な迷宮は、世界にも数えるほどしかないだろう。

 だというのに――。

 私の母親は、一向に姿を現さなかった。

 確かに迷宮が完成したら帰ってくるなんて保証はどこにもない。

 しかしそれにしても、もう六年だぞ?

 あまりにも放置し過ぎじゃないか。

ここまでくると、もはや育児放棄だ。

 そんな訳で、最近の私にはすっかりやることがなくなっていた。

 元々迷宮を完成させることが全ての目的だった。

 その目的が達成してしまったのだから、暇になってしまうのは当然だ。

 では最近の私が何をしているのかと言えば、冒険者を迎え撃つための戦闘訓練ばかりしているのだ。

 私は迷宮の主なのだから、ラスボスとして冒険者を迎え撃つのは当然のことである。

 折角苦労して来てくれたのに、最後の障害もないのではがっかりじゃないか。

 やはり最下層には最強の主が待ち構えていなければならない。

 ということで、私は戦闘と魔法の修業を始めたのであった。

 まず魔法だけど、これは以前からコーネリアに教わっていたので基礎的なものは使える。

 そこからより実践的な魔法を覚えるだけで、十分戦闘に役立つとのことだ。

 しかし問題は近接戦闘である。

 私の基礎体力や腕力は人間の少女とそれほど変わらない。

 それを実践で使えるまでにするには、単純な体力づくりから武器の使い方までやるべきことがたくさんあった。

 ここで役に立ったのが、(意外というか何というか……)またもやコーネリアだった。

 体力づくりの知識があるのは想定できたけど、まさか近接戦闘が得意だったとは思いもよらなかった。

 なんでも彼女は、自分の国で『剣聖』という称号を持っているらしい。

 彼女の国には剣の強さで六つの位があるそうで、『剣人』『剣士』『剣豪』『剣王』『剣聖』『剣神』、というものに分けられているそうだ。

 コーネリアはその中で二番目の強さである『剣聖』を持っているというのだ。

 けれど、当初の私は当然ながら信じられなかった。

 いつも、にこにこふわふわしたコーネリアだよ?  どう見ても箱入りのお姫様なのだから、とても戦えるように思えなかったのは仕方がない。

 しかし、コーネリアは強かった。化け物のように強かった。

 どれくらい強いのかというと、模擬戦で迷宮最強のオリハルコンの剣を使っている私が、

野菜の人参一本を持っているだけのコーネリアに圧勝されるぐらいの強さなのである。

 まったく不可解だ。コーネリアが持っているというだけで、何でただの野菜すら切れないのよ。

 この剣は普通の子供が、地下五階にいる巨人族を両断できるぐらいの攻撃力があるんだぞ。

 それが野菜一つ切れないとなれば、私が作る包丁はプリンだって切れないということになる。

 ……例えが意味不明になってきた。

 そんな不可解な原因が考えられるとしたら、魔法しかない。

 硬質化とか反作用、重力制御などを使用していなければあり得ない現象じゃないか。

 しかし後で調べてみたんだけど、コーネリアは魔法の類を全く使っていなかった。

 そもそもコーネリアは魔力を使わないし、人参に魔法の術式が刻まれている形跡はなかった。

 つまり彼女は、自らの体捌きだけで私の剣を受け流していたというのだ。

 実際に目撃しておいてなんだけど、そんなことが現実に可能なのだろうか。

 もう彼女には常識とか物理法則とか関係ないんだな、と思い始めた今日この頃だ。

 ……外見も変わっていないしね。



 まあ、そんな感じで充実していた日々を送っていた私は、今日もコーネリアと剣の訓練を行っていた。

 最近はだいぶ体力も付いてきて、長時間でもコーネリアと打ち合うことができるようになっていたんだ。

 剣を振るっていても会話ができるんだから、我ながらその成長が実感できた。

「ところでコーネリア。最近、変じゃない?」

「はい、変ですね」

「もうどれくらいになるっけ」

「一か月。最後の一人が来たのはその頃です」

「減り始めたのはどれぐらいだっけ?」

「半年前ですね。初めは迷宮に原因があるのかと思いましたが、あるいは外にあるのかもしれません」

「何があったのかな?」

「さすがに、こればかりは実際に見てみないことにはわかりませんね。ただ――」

「ただ?」

「妙な魔力の乱れを感じます。異常事態が起きている可能性は否定できません」

「異常事態かぁ……」

 ただ外にいかなくても、何か妙なことが起きているのは私にも理解できた。

 今も話していた通り、この一ヵ月間は誰も来ていない。

 最盛期は一日に何十人も来ていたというのに、ここまで人がいないのは、まだ人を招き入れていない頃を思い出させた。

「よし、コーネリア! 原因究明に行こう!」

 私は早々に訓練を切り上げると、剣を肩に担いで言い放った。

 迷宮のためにも調査は絶対に必要だし、何より異変というものに興味がある。

 ここは思い立ったら吉日と行こうじゃないか。

「わかりました。

 ただし不測の事態に備えるためにも、十分に準備をしてからにしてください」

「準備って、どんな?」

「武装は勿論、食糧や着替え、換金できる小さな貴金属類」

「そ、そこまでは必要ないんじゃない?」

「ルーナ様。私は異常事態と申し上げましたけど、それはルーナ様が考えるよりも、余程に悪い状況だと考えてください。現在外で起きているのは、そんな類の異変なのです」

「にゃんと!」

 驚いた、まさかそんなことになっていようとは。

 コーネリアにそこまで言わせるのだから、世界の終りが来るぐらいの異常事態が起きているのかもしれない。

 まったく。そんなことになっているのなら、もっと早く行ってくれれば良かったのに。

 このコーネリアはどんな最悪な問題が起きてもまず自分からは言い出さない。

 何か気付いたら自分で行動しないといけないんだ。

 早速私は出かける準備をしてシロちゃんを懐に入れると、緊急脱出通路という名のテレポーターを使って外へと飛び出した。

 急な明るさから瞳を守るために瞼をきつく閉じたんだけど、何故か私の瞳はその必要性を否定しているようだった。

「……?」

 次に私は妙な轟きを耳にした。

 まるで世界全体が唸り声を上げているかのように、延々と妙な音を響かせ続けているのである。

「――これは!?」

 恐る恐る瞼を開いてみると、そこには驚くべき状況が広がっていた。

 嘗て澄み渡っていた青空は、見る影もないものに変化している。

 曇っているとか、夜であったとか、そんなことなんかじゃない。

 空全体が濁った紫みたいな色をしていて、絶え間ない稲光が走り回っていたんだ。

「いったい何が――」

 視線を空から下ろすと、そこにも異常な状態が広がっていた。

 周囲にあった木々は悉く枯れ、迷宮の周囲に咲いていた草花も全て茶色く変貌している。

 何だか地形も少し変化しているようで、至る所が隆起したり陥没したりと、嵐や地震以上の災害を想像せずにはいられなかった。

「コ、コーネリア! 何が起きたの!? 何が起きているの!?」

「私も初めて見るので確証はありませんが、これは世界が終りかけているのかもしれません。

 状況的に考えてそれ以外の可能性は低いと思います」

「ホントに世界の終りだったの!?」

 さっき冗談でそんなことを考えていたら、どうやら冗談になっていなかったらしい。

 迷宮の外で異常事態が起きているというコーネリアの見立ては間違いではなかったようだ。

「どうしてこんなことに!? 何で世界が!?」

「……恐らくですけど、勇者が亡くなったのかもしれません」

「勇者!? 勇者って、あの勇者!?」

 コーネリアに何度か聞かせてもらったことがある。

 世界を救うために旅をし、闇を払って平和を取り戻す英雄の物語。

 その冒険譚には私も感動し、素敵な勇者がいつか私に会いに来てくれないかな、と夢見たものである。

「はい、その勇者です。勇者の使命は破滅から世界を救うということですから、その使命が果たせなくなったときに世界は滅びます」

「ん? ちょっと待って。それじゃあ勇者が死んだから世界が滅びるみたいじゃない。魔王の世界征服とか、原因ありきの滅亡でしょう?」

「いえ、このように世界が崩壊する原因は一つしかありません。

 それは即ち、この星に定期的に訪れる世界の寿命です。

 それを防ぐには一定の条件を達成する必要があり、その使命を背負ったのが勇者なのです」

「……この世界ってもう駄目なのね。

 でもさ、使命が果たせない理由なんて幾らでもあるんだから、勇者が生きている可能性はあるんじゃないの?」

「確かにそうですが、選ばれし存在である勇者は、余程の重傷でも宿屋に一晩寝るだけで完全に回復してしまうんですよ」

「ええ!? 何その化け物!?」

「あ、すみません、今のは誇張し過ぎました。

 そこまで異常ではありませんが、とにかく凄まじい回復力で怪我や病気が治ってしまうんですよ。

 それこそ、死にでもしない限り勇者が止まることはありません」

「ほ、ほぅ……?」

 どちらにしても化け物じゃないか。

 それでは他の理由ならどうだろう。

 たとえば冒険が嫌になってストライキをしてしまうとか、悪い人に捕まって監禁されているとか。

 まあ世界が救えないという意味では監禁も死ぬのも似たようなものか。

 とにかく、実際に勇者に問題が生じているのなら、この異変の間接的な原因と考えていいのかもしれない。

 けど逆に、この異変だけで勇者に何かがあったと考えるのは、私には早計のような気がした。

「取り敢えず情報が欲しいけど……どうしよう?」

「レイダー村に行ってみましょう。状況の経過を見ている分、私たちよりも多くのことを理解していることでしょう」

「う〜ん、それはどうかなぁ?」

 例え私が自分で体験していたとしても、このコーネリア以上に何かを理解することはできないと思う。

 対して相手は一般人なのだ。こんな化け物と一緒にしてはいけない。

 とはいえ、彼らが異変を目の当たりにしているのは事実なので、単純な状況説明ぐらいなら可能だろう。



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