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4章 その1

 第四章 引き籠りの末路



 そんなこんなで、コーネリア様が姫様と出会って三日目。

この魔王城に来て約四日が経過いたしました。

 勿論その間、コーネリア様は書庫に入り浸りです。

 年頃の女性ならば身嗜みに気を付けるものですが、趣味に没頭するコーネリア様は一向にそういったものに頓着などしません。

 着替えはしない。汚れも落とさない。食事もしない。

 これで姫様に淑女の手解きをするつまりなのですから、「どの面さげて」と言われても仕方がないことなのかもしれません。

 そんなあるとき、さすがの姫様も一向に書庫から出てこないコーネリア様が心配になってきました。お父上の来客を書庫で野垂れ死にさせたとなれば、姫様の過失として手酷く叱責されることでしょう。

「お~い! 生きておるか~?」

「………………は~い……」

 入口付近で声をかけると、何処か遠くから返事が返ってきました。取り敢えず生きてはいるようです。

 今のコーネリア様は、完全に書庫の住人となっておいででした。

他国の書庫に住み着いてしまうお姫様が他にいるでしょうか。あるいは希少という意味で、珍獣に等しい生物なのかもしれません。

「そろそろ何かを口にしたらどうじゃ! 貴様が死ぬのは勝手じゃが、我が城内で餓死するのだけはやめて欲しいのじゃが!」

「…………はい~……」

「せめて水と塩ぐらいは摂らぬか! 本気で死ぬぞ!」

「……………ご心配………痛み入ります~………」

「心配などしておらんわ! ほれ、食事を持って来てやったぞ! 早よう出てこんか!」

「……書庫内は……飲食……禁止ですぅ……」

「――っ! まったく貴様は!」

 コーネリア様は書物をとても大切にしているため、本が傷む行為が嫌いなのです。書庫内に飲食物の持ち込みなど言語道断なのでしょう。

「いいから出てこい! さもないと配膳をぶちまけるぞ!」

「ああ! それだけはやめてください! 本気で怒りますよ!」

 大声の即答が返ってきました。思ったより元気なようです。

「まったく、どっちがここの主人かわからんな」

「本は万人の物です。大切にするのは全ての人々の為なのですよ」

 そう言いながらふらふらと現れたのが、ゾンビのように無残なコーネリア様なのでした。

 顔色が悪く頬はこけているのですが、眼だけは異様に輝いているという辺境の魔物を彷彿とさせる雰囲気を漂わせています。

「酷い姿じゃな、おい。これは食事の前に風呂じゃな。ついて来い」

「お風呂? お風呂って、あのお湯を溜めて浸かるという、あのお風呂ですか?」

「それ以外の風呂がどこあるというのじゃ。何だ、よもや風呂嫌いだとか子供のようなことは言うまいな」

「いえ、えっと……入ったことがないのですが」

「…………は?」

「地上、というかクラン大陸には入浴の習慣がないんですよ。大概は水浴びか、沐浴ですね。入浴は東国の文化ですから、寧ろこの魔界にそのような習慣があることに驚きなのですが」

 文化によって習慣が違うのは当然のことですが、全く違う場所で似たような習慣があることも、また良くあることなのです。あるいは東国と魔界には何らかの繋がりが――

「別に不思議でもあるまい。ここは炎獄魔界なのじゃ。炎が至る所から噴き出しておるのじゃから、それを利用する習慣があるのは当然じゃろう。焼いたり沸かしたりすることに関しては中々のものじゃぞ」

「ああ、だから名産に蒸し料理があったのですね。少し不思議に思っていたのですよ」

「ん? 何故お前がこの地方の名産物を知っている。誰に聞いた」

「誰って、本で」

「ああ?」

「ですから、ここの本ですよ。一応、全ての書物には目を通しましたから。特産や名産、流通や消費など、近年の経済の流れも大体把握していますよ」

「…………は?」

 さすがの姫様も驚きを隠せませんでした。

 確かに姫様は短期間で全ての書物を読めと仰いましたし、当のコーネリア様は既に特殊技能によってそれが可能であることを証明しています。しかし、実際にそんな異常な才能を見せつけられたら、言葉を失ってしまっても仕方がないことでしょう。

「さすがに習慣までは本に載っていないのでわかりませんでしたけどね。なるほど、東国と魔界の関係性……。これはなかなか興味深いですね」

「興味深い――、ではない! まさか本当に全部目を通したのか!? この所蔵の全てを!?」

「ええまあ。とても興味深く拝見させていただきました。これほど至福の時間は他にありませんでしたよ」

「なんと――――」

「幾つか私が知りたかったこともわかりましたし、メリス様には感謝してもしきれません。このご恩は教育係の使命を果たすことでキッチリとお返しいたしますわ」

「う……、できればそれは返さん方向にはできんのか?」

「できません」

「ちっ……。この笑顔爆弾め」

 何やら妙な形容が思い浮かんでしまった姫様なのでした。

「とにかく風呂へ行くぞ。話はそれからじゃ」

「う~ん、やっぱり行かなければいけませんか? いまいち気が乗らないのですが」

「別に構わんが、その何日も清めていない体で書物に触れることになるのじゃぞ? どれほど書物が汚れることじゃろうなあ?」

「――すぐに行きましょう! 時間が勿体ありません! さあ、さあ!」

 コーネリア様は姫様の背中をぐいぐいと押しました。その変わり身の早さは、ある意味名人級なのかもしれません。自分より本。本は全てなのです。

「ま、待て! まだ準備が整っておらん! いまタガーに支度させるゆえ、貴様はしばらくここで待っておれ!」

「え~~~?」

「駄々を捏ねるでない! 子供か!」

 まさに、どちらが教育係かわからないお二人なのでございました。




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