第30章 ダンジョン祭り3
試作から数日がたち、祭りの前日を迎えた。昼の営業を終えた神崎屋に、四人がエプロン姿で集まった。
使う分の肉を冷蔵庫から出す。俺はそれを牛脂と一緒に挽き、冷やしながらたねを練っていく。
紬は銀色の髪を結び、俺が作った見本をじっと見ている。その横では里沙が秤に皿をのせ、天音が竹串の袋を開けていた。
眞子は冷えたたねを見て、早くもにやにやしている。
「今日は食う前に作るんだぞ」
「分かってるって。働いたあとの飯は美味いからな」
食べるところまで含めての手伝いらしい。
天音はカメラで調理台を少し撮ると、撮影を切り上げてカメラを鞄にしまった。
「今日は私も作るから、撮るのはここまで」
手を洗い、天音も里沙の隣に並ぶ。
俺がたねを練り、里沙が量る。それを天音が分けて置き、紬と眞子が串に沿わせて延ばしていく。
「晃一さん、見本と同じ厚さ?」
紬が一本持ち上げた。片方の端だけ少し厚い。
「こっちを少し押してくれ。そこだけ火が通りにくくなる」
「ここね」
紬は見本を横に置いて形を直し、バットに並べた。次の一本も、横から見て厚さを確かめている。
一方、眞子が作っている串は、やたらと太い。
「まこ、それは二つ分じゃありませんか」
「太かったか?」
「里沙が量ったのを、なんで二つくっつけたんだ」
「大きいほうが嬉しいかなって」
里沙が皿を差し出すと、眞子はたねを半分戻し、今度は見本通りに延ばした。
並んだ串を鉄板に移し、焼き目をつける。俺が火加減を見ながら裏返す頃合いを教えると、眞子はトングで順番に返していった。
焼き上がった分は、清潔な容器に詰めて冷蔵庫に入れる。冷やしたたねを成形する係と焼く係を交替するたびに、四人は手を洗い、道具も持ち替えた。沢山あった串が、少しずつ冷蔵庫に収まっていく。
そこへ紬の所属するアイドルグループのメンバーである莉音が顔を出した。ミルクティー色の短い髪に、今日は薄手の帽子をかぶっている。
「こんにちは。いい匂いですね」
「莉音ちゃん、見て。こんなに作ったのよ」
紬が、冷やしている串を指さした。
莉音は近くに寄って眺めてから、紬にスマホの画面を見せた。
「明日の集合時間は、これで合っていますよね。リハーサルが終わってから、そのまま待機になるそうです」
紬がスマホを覗き、口を尖らせた。
「やっぱり、途中では抜けられないのね」
「衣装合わせもありますから」
「ほんの少しでも、屋台に立ちたかったのに」
そうだった。紬は明日、ダンジョン祭りで行われるミルキーラビットのライブに出るのだ。
天音が容器の蓋を閉めながら言った。
「私たちで焼いて売るから、紬ちゃんは安心して歌ってきて」
「それが悔しいのよ」
紬は新しいたねを取り、串に丁寧に押しつけた。
「今日は、その分も働くわ」
「助かるよ。夜に、みんなで一緒に打ち上げやるからな」
俺が言うと、紬はすぐに顔を上げた。
「晃一さんも一緒に?」
「ああ、祭りに自分だけ食えないんじゃつまらん」
「では、私も伺っていいですか」
莉音に聞かれて頷くと、紬が彼女の腕に手を添えた。
「公演が終わったら、一緒に来ましょ」
莉音が帰ったあとも仕込みを続け、二千本近くのハンバーグ串を仕上げた。
最後のバットを洗い終えると、四人はエプロンを外す。紬は冷蔵庫を見ると、少しうらめしそうに明日の仕事に備えてみんなと帰っていった。




