第30章 ダンジョン祭り4
翌朝、販売用のハンバーグ串をクーラーボックスに移し、俺と天音、里沙、眞子は台車を押して地上へ出た。
東京の埋め立て地にあるダンジョンの入口。その周りの芝生広場には、もう色とりどりのテントが並んでいる。焼きそばを焼く鉄板から湯気が上がり、向こうでは綿あめを棒に巻きつけていた。
紬と莉音は、先にライブへ向かった。俺たちは神崎屋の横幕が掛かったテントへ串を運び、借りた冷蔵庫に入れた。
「わあ、ほんとのお祭りだ」
天音がエプロンを結びながら、隣の屋台を覗いている。
「遊ぶのは、あとだぞ」
「まだ見てるだけです」
「あたしも、匂いを嗅いでるだけ」
眞子まで鼻を上に向ける。
俺は眞子と焼き台の前に立ち、昨日作った串を並べた。温まり具合を確かめてたれを塗ると、眞子がトングで裏返す。じゅうっと音がして、醤油の焦げる匂いが広がった。
天音が紙皿を用意し、里沙が釣り銭を確かめる。俺たちの前には、「ハンバーグ串」と書いた札を立てた。
「一本ください」
最初の客は、小さな男の子を連れた父親だった。里沙が代金を受け取り、天音が紙皿にのせた串を渡す。
「焼きたてなので、気をつけてくださいね」
父親は串の先についたハンバーグに息を吹きかけ、ひと口かじった。
「お、軟らかい。これ、普通の牛肉?」
「ダンジョンガウルです。地上の牛脂を混ぜてます」
「へえ。肉の味が濃いな」
父親がもうひと口食べると、男の子がその腕を引っ張った。
「ぼくのは?」
「ああ、ちょっと味を見てたんだ」
「いっぱい食べてる」
父親は苦笑し、食べかけの串を自分の紙皿に戻した。
「すみません、もう一本。今度は、この子の分」
父親が代金を払う間に、天音がもう一本、紙皿にのせる。新しいハンバーグ串を受け取った男の子は、父親から半歩離れた。
俺の後ろで眞子が吹き出す。天音は笑うのをこらえながら、次の客の注文を聞いていた。
食べながら歩く人が増えるにつれ、匂いにつられて来る客も増えた。二本、三本と注文が入る。眞子が並べた串に俺がたれを塗り、焼けたものから天音に渡していく。
「晃一さん、私も何か手伝えますか」
彩希が屋台の横から顔を出した。
「祭りを見に来たんじゃないのか」
「そのつもりだったんですけど。皆さん、忙しそうだったので」
「じゃあ、紙皿を出してもらおうか。下の箱に入ってる」
「はい!」
彩希は鞄をテントの奥に置き、紙皿のダンボールを開けた。天音が客にハンバーグ串を渡すたびに、減った分の皿を補充してくれる。
昼前にはギルド職員の雪乃も来た。代金を払って串を買うと、テントの横でひと口食べる。
「……これが、あのお肉ですか」
「ああ、ダンジョンガウル。硬かったんで、挽き肉にしたんだ」
「そうだったんですか。美味しいです。あの、もう一本いただけますか。次の休憩まで長いので」
里沙が代金を受け取り、天音が二本目を渡した。雪乃は礼を言うと、食べ終えた一本目の串と紙皿をゴミ箱に入れた。
「今夜、店でみんなと食いながら一杯やるんだ。仕事が済んだら来なよ」
「ぜひ、伺います」
即答だった。
雪乃を見送ると、入れ違いに山本が来た。山本もハンバーグ串を買い、焼き目を見てにやりと笑う。
「今日はずいぶんにぎやかだな」
「売り子がいいからね」
「ハンバーグ串もだろ」
山本はハンバーグ串をかじって頷いた。夜の打ち上げにも誘うと、「仕事が終わったら寄る」と答え、祭りの人混みへ戻っていった。




