第30章 ダンジョン祭り2
翌日、営業が終わったころに、紬たちが戻ってきた。
店の扉を開けた天音に呼ばれ、俺は通路へ出る。台車の上には、蓋の閉じたクーラーボックスが積んであった。眞子が押してきた台車の後ろに、里沙と紬もいる。
「おかえり。ずいぶんあるな」
「まだギルドにあるわ。あそこの冷蔵庫に入れてきたの」
紬がクーラーボックスをポンポンと叩いた。白い鎧には前からの浅い傷が残っているが、四人とも怪我はしていない。忙しくて配信は見れなかったが、今回の狩りは楽だったようだ。
朝、雪乃から連絡があり、祭り用の機材を押さえてもらった。後は、こいつが、美味いかだ。
「小さい牛じゃなかったのか?」
「アビスバイソンよりは小さいわよ。でも1tはあるのよ」
紬が当たり前のように答え、天音がスマホの画面をこちらへ向けた。
「これです。見ます?」
再生が始まると、草原の向こうから茶色い牛が走ってくる。
でかいが、ホルスタインと同じくらいか。横にいる眞子と比べると、よく分かる。
映像の中で里沙が杖を振り、牛の顔に風魔法が命中する。牛が頭を横に向けたところで眞子が踏み込み、大剣で前脚を斬る。がくりと体勢を崩した牛へ、紬が長剣を首に突き入れた。
「とりあえず取ってきたお肉は三百キロくらい」
「そんなに取れたのか」
「一頭で済んだぞ!」
眞子は胸を張った。さすがに、これ以上は困る。
クーラーボックスを厨房へ運び、四人に肉を冷蔵庫へ入れてもらった。
四人がカウンターに並ぶと、試す分を切り出した。肉は赤く、脂身が少ない。包丁を入れても、繊維がしっかりしている。
薄く切って塩を振り、熱したフライパンへ並べる。じゅっと音がして、赤かった表面が茶色く焼けた。脂はあまり出てこない。
「香りはいいな」
眞子が箸を持つ。俺は焼けた肉を小皿へ分け、自分でもひと切れ食べた。
肉の味は悪くない。だが、硬い。何度か噛んでも繊維が口に残る。
アビスバイソンとはずいぶん違う。
「……まこちゃん、ずっと噛んでるね」
天音も自分の肉を噛みながら言う。
眞子はようやく飲み込んで、水を飲んだ。
「これを串にしたら食いにくいな」
「祭りの出店なら、こんなもん?」
紬は皿を見てから、俺を見る。
「使えそう?」
「料理次第だな。普通に串焼きにしたら駄目だ」
俺は、挽き肉用のミンサーを調理台へ出した。
紬がその前へ来る。
「ハンバーグにするの?」
「ああ。ちょうど合わせたい物もある」
四人が食べ終えた皿を洗い、俺は冷蔵庫からガウルの肉と牛脂を出した。
牛脂は、いつもの肉屋から買っている普通の牛のだ。ダンジョンガウルの肉を、牛脂とともにミンサーへ入る大きさに切っていく。
眞子がカウンターから覗いた。
「炒め物用に仕入れてる牛脂だ。ガウルは脂が少ないから、少し足してやる」
「なるほど、牛脂を足してミンチにすれば、硬さは気にならないですね」
里沙の問いに、筋を取った肉を見せる。
「筋を取って、あとは細かく挽けば問題無い。牛脂を足すと、焼いた時のぱさつきも無くなる」
「確かに、ぱさついた感じがしたわね」
紬が肉と牛脂を交互に見る。
ミンサーから赤と白の混じった挽き肉が出てくる。受けるボウルの下には氷を当てた。今、牛脂が溶けたら台無しだ。
塩を加えて粘りを出し、炒めて冷ました玉ねぎ、卵、牛乳を含ませたパン粉を混ぜる。まず少し焼いてみる。
表面が色づき、縁に透明な脂がにじんでくる。味見すると、さっきよりは食べやすいが、もう少ししっとりさせたい。牛脂を少し増やして練り、次を焼く。焼けたものをひと切れ食べると、今度は口の中に肉汁が広がって美味い。
「どう?」
紬に聞かれ、俺は頷いた。
「いい感じだ。食べてみるか」
残りを切り分けて皿へ取ると、四人が一斉に箸を伸ばす。紬は口に入れてすぐ、俺のほうを見た。
「すぐ、ほろっとなるの。さっきは、ずっと口にいたのに」
言いたいことは分かる。
里沙は切り口を見ながら、ゆっくり食べている。
「肉の味がちゃんと残っていますね。牛脂の量も、丁度いいです」
「玉ねぎも甘い。晃一さん、次はでっかく焼こうぜ」
眞子が両手で大きさを示した。それは皿よりでかいぞ。
「祭りで持って歩けるようにするんだよ」
俺は新しいたねを延ばし、幅のある竹串を中心へ入れた。厚いままだと中まで温めにくいので、五平餅のように少し平たくする。四本とも同じ形にして、焼き台に並べた。
焼いて返すと、表にきつね色の焼き目がついている。醤油と砂糖、みりんを煮詰めたたれを薄く塗る。たれがじゅうっと泡立ち、さっきとは違う甘い匂いが広がった。
「これ、出店で焼いてたら絶対買う」
天音が身を乗り出して、鼻をくんくんさせる。今にも厨房へ入ってきそうだ。
中まで火を通した串を皿にのせ、四人へ渡す。
「たれが熱いからな」
紬は息を吹きかけてから、先を小さくかじった。唇についたたれを舐め、今度はもう少し大きく食べる。
「このたれ、好き。お肉だけの時より、もっと食べたくなる」
「あたし、ご飯も欲しくなった」
眞子は、祭りで食べても、いつもの食事になりそうだ。
食べ終えた里沙は、串を皿へ置いてから手を握り、開いた。
「腕力と持久力が大幅に上がりますね。串になっても、ちゃんとバフ飯です」
「あたし、今なら一日中走れそうだぞ」
「腹いっぱいで走るなよ」
肉を食うと、こいつらは本当に元気になる。
そのあと、追加で焼いた串を冷やし、時間を置いてから温め直してみた。切って確かめると、肉汁もちゃんと残っている。
これなら、出店でも使える。生焼けを出す心配もない。




