第3章 毎日通う理由1
昼前の神崎屋に、また白石紬が入ってきた。
昨日と同じ白い鎧を着ているのに、今日は少しだけ背筋が伸びている。彼女は扉の前で一度だけ立ち止まった。それから、まるで最初から決めていたみたいに、昨日と同じカウンター席へ座る。
「いらっしゃい」
「……別に、開店を待ってたわけじゃないから」
「まだ何も言ってないぞ」
俺がそう返すと、紬はむっとした顔をした。だが、昨日みたいにぐったりはしていない。疲れはあるのだろうが、顔色は良い。どうやら、少しは元気が戻ったらしい。
「今日は何にする」
「チキンカレー」
「あいよ」
「だって、昨日のはもう食べたし」
「だから、何も言ってないぞ」
何が、もう食べたしなんだか、こっちが聞きたい。続けて同じものを注文しないのは普通だろ。
紬はカウンターに肘をつきかけて、思い出したみたいに手を引っ込めた。
「今日は通り道が同じだっただけよ」
「ここは地下1階だ。出口に行くには、この店の前を通るだろ。出口に行くのに、そんなに色々道あったか?」
「……細かいことを言わないで」
そう言う顔は、もう昨日より少し明るい。腹が減っていないわけじゃないらしい。むしろ、匂いを嗅いだ時点で、のどを鳴らしている。正直、隠すのが下手だと思う。
今日のメニューの仕込みを頭の中で思い出した。カレーは、朝から仕込んでおくと落ち着く。玉ねぎを炒めて、鶏を焼いて、煮込みの時間を取る。急いで作るより、少し置いた方が味がまとまりやすい。
「チキンカレーなら、温めるのに五分待て」
「待つ」
「そこは迷わないんだな」
「お腹は、そんなに空いてないの」
紬はそう言って、俺の手元を見た。どう見ても、滅茶苦茶腹が減っている。しかし、待つ気はあるらしい。けれど、ただ黙っているわけでもない。
「昨日の定食、あれで普通って言うの。明らかに元気が出たんだけど」
「普通だろ。うちは、ただの家庭料理が売りなんだ」
「私の家で出るご飯より、ずっとちゃんとしてたけど、確かに見かけは普通ね。でも……」
「そりゃ、腕前が違うんだよ。」
俺はそう言いながら、鍋を出した。




