第2章 一食で回復するS級探索者3
「……やっぱり、変」
「まだ言うか」
「だって、こんなに元気が出るなんて思わなかった。ステータスを確認しても、変化が無いのに、明らかに回復とパワーアップを感じる」
そう言って、紬は自分の胸元を片手で押さえた。
「腹いっぱい食ったからだろ」
「違う」
「気のせいだって。ただの生姜焼き定食だぞ」
「……違わないけど、そういう言い方は腹が立つ」
文句を言いながらも、紬の声は、明るくなっていた。俺は、彼女の前に湯飲みに新しい茶をそそいだ。
「どうだ、まだ足りないか?」
「足りるに決まってるでしょ。……でも」
「でも、何だ」
「お腹がすいたら、また来るわ」
言い切る前に少しだけ間があった。さっきまでの強がりと違って、その一言だけは妙にまっすぐだった。
「明日も来るわ。……たぶん、明後日も」
「たぶん、なのか」
「細かいことはいいの。とにかく、また来る」
「そりゃどうも」
「それと」
「まだあるのか」
「今日のは、たまたまじゃないから」
「何が」
「この店。見つけたのは、たまたまだけど。いっぱい食べたのはその……」
紬はそこまで言って、少しだけ口をつぐんだ。何か続けようとして、やめた顔だった。代わりに、支払いをすませると、席を立つ前にもう一度だけ俺を見た。
「あなたの名前は?」
「晃一だ」
「これからは、ご飯多めで頼むわ」
「最初からそう言えって」
「うるさい」
そう言いながら、紬は肩をすくめた。来た時よりだいぶ元気な顔だ。白い鎧の影も、さっきより軽く見える。
「……また来るから」
扉をくぐる直前、紬はもう一度そう言った。
俺は手を振る代わりに、湯飲みを片付けた。
明日も来る、か。
まあ、気に入ったなら来ればいい。店主としては、それだけだ。そう思いながらも、俺はさっきまで座っていた席を見た。まだ生姜の匂いが少し残っている。次にあの子が来た時は、今日より少し多めに飯を盛ってやることにしよう。
その日、彼女の探索者パーティーは、いつもは苦戦するはずの100匹近いオークの群れを難なく倒したらしい。そんな話は、この時は知らなかった。




