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第23章 美人社長と厚切りハムカツサンド4

 最初に立ち上がったのは紬だった。


「晃一さん。あの人たち、前にも来たことがあるの?」

「いや。会ったのは今日が初めてだよ」


 天音が膝の上のカメラを抱えたまま聞く。


 彩希も追加の小鉢へ伸ばしていた箸を止めている。雪乃は仕事の顔に戻っていたが、質問を挟まず俺の返事を待っていた。


「地上で店をやってた時、近くにあの系列の店が出来たんだ」


 俺は空いた皿を洗い場へ運んだ。


「母親から継いだ店だった。古くて小さかったが、近所の人が飯を食いに来るには、それで足りてた。だが、大きな店が出来て、客が減った。仕入れと家賃を払って続けるのが難しくなって、閉めた。それだけだ」


「それだけじゃないでしょう」


 紬の声が低くなる。


「母親から継いだ店を閉めたんでしょう?」

「閉めたよ。でも、今はここがある」


 皿へ水を流す。ソースの筋はすぐに落ちた。


「あの人たちは、そのことを知っていて来たんですか?」


 彩希が聞いた。


「同じ系列だから、昔の店のことも調べたのかもしれないな。そこまでは分からない」

「未確認の部分は分けて考えるべきです」


 雪乃がきっぱりと言ったあと、少しだけ眉を寄せる。


「ただし、現在の営業状況を調査したうえで、店を閉めてフランチャイズ化を提案したことは、本人たちが明言しています」

「繁盛してる店に来て、看板を替えろって話だろ。ずいぶん勝手だな」


 山本さんが腕を組む。


「晃一さん、すぐ断ってましたね」


 莉音は帽子のつばを上げ、俺を見た。


「迷う話じゃないからな」

「あたしなら、もっと先に追い出してたぞ」


 眞子が拳を握る。


「食べさせる前に追い出したら、あんな顔は見られなかったでしょう」


 里沙が静かに言った。


「二人とも、食べたあと何も言えなくなってたね」


 天音がやっと口に出せたとばかりに身を乗り出す。


「あれ、絶対にバフ飯の効果も――」

「昼を食ってなかったんだ。腹がいっぱいになって元気が出ただけだろ」

「鞄を持っただけで、本人が驚いてたよ?」

「朝から疲れてたって言ってたじゃないか」


 全員が同じ顔で俺を見る。

 何だ。その分かっていないのは俺だけだと言いたそうな顔は。


「晃一さん」


 紬がカウンターまで来た。


「私は、神崎屋が神崎屋のままでよかったと思ってる」

「そうか」

「それだけ?」

「他に何を言えばいいんだ」


 紬は何か言い返しかけ、やめた。代わりに、俺が重ねた皿へ手を伸ばす。


「運ぶわ」

「客にやらせる仕事じゃない」

「今だけよ」


 紬は二枚だけ持ち、洗い場まで運んだ。天音たちも席を立ちかけたので、そちらは手で止める。皆に店を手伝わせるつもりはない。


 店を替えるつもりはない。ここで食いたいと言う客がいて、俺が作れるうちは、いつも通り飯を出せばいい。


 まずは、残っている皿を片付けて、次の客を迎える支度からだ。


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