第23章 美人社長と厚切りハムカツサンド2
久世が組んだ脚をゆっくり入れ替えると、紬の視線もつられて動き、途中で慌てたように俺へ戻った。
「では、その気が変わるまで話しましょう。水城、資料」
「条件を聞いても同じですと言われたようですが」
「交渉は続けます。何か文句ある?」
「断られてるのに、余計な仕事増やさないで下さい」
水城は嫌がりながらも、資料を開いている。
フランチャイズの仕組みが悪いとは思わない。決まった料理を、どの店でも同じように出す。
変わらない味と値段。それで助かる客もいる。
だが、俺がここでやることではない。
久世は俺の顔を覗き込むように身を乗り出した。
カウンターの縁が大きな胸の下へ触れ、柔らかな膨らみがわずかに形を変える。
ジャケットの合わせは内側から押し開かれ、細い金のネックレスが汗の浮いた深い谷間で光った。
見せているとしか思えない。さすがに目の置き場に困って顔を逸らした。
逸らした先で、紬と目が合った。頬を膨らませ、腕を組んでいる。
「白石さん。あれは交渉上、相手の注意を引くための接近だと思われます」
雪乃が小声で説明した。
「分かってるわよ」
「分かっている方の声量ではありません」
雪乃に指摘され、紬は唇を尖らせた。莉音が肩へ手を置き、椅子へ座り直させる。
「紬ちゃん。ここで前へ出たら、負けたみたいに見えるよ」
莉音は仕事用の笑顔を崩さなかった。
久世は気にした様子もなく、勢いよく店内へ視線を走らせた。空いた皿の数、厨房の広さ、俺の手元。新しい玩具を見つけた子供のように楽しそうだ。
「工場で調理したものを各店へ配送し、店では決められた手順で仕上げます。経験の浅い従業員でも、同じ品質で提供できます」
久世は容器を開け、カツサンドを小皿へ移した。蓋の裏に落ちたパン粉を指先で拾い、紙ナプキンへ置く。
「どうぞ」
ここで食わずに突き返しても、話が長くなるだけだ。俺は手を洗い直し、サンドを持って味見する。
パンは、しっとりとしている。衣も油っぽさがなく、時間が経っているわりに歯触りが残っていた。ソースの酸味と甘みも強すぎず、千切りのキャベツから余計な水も出ていない。
「よく出来てますね」
久世の口元が、ほんの少し緩んだ。
「ありがとうございます。味の問題だけではありません。効率と安定性は、店を長く続けるうえで必要です。神崎さんお一人の技術に頼る形では、いずれ――」
俺は、その言葉をさえぎるように言った。
「腹は減ってますか」
「はい?」
「二人とも、昼飯はまだでしょう。今から作りますから食べてみて下さい」
水城が久世を見た。久世は腕時計へ目を落とし、すぐに外した。
同じ話を繰り返すより、そっちの方が早い。




