第22章 海鮮チャーハンと反射罠2
五人は揃って神崎屋へ戻ってきた。
怪我はない。追いかけていった彩希も一緒だ。天音も撮影用カメラを抱えている。ただ、レンズのすぐ横に黒い焦げ跡が一本ついていた。
「何を撮ったら、そうなるんだ?」
天音はカメラをカウンターへ置き、配信した映像を最初から再生した。
「順番に見れば分かるよ。今回、すっごく盛り上がったから!」
「あまね。先に危なかったことを説明しなさい」
「それも映ってるよ」
画面には、割れた大鏡の奥にあった道が映った。彩希は、五人が道へ入る前に追いついていた。紬を先頭に、天音、里沙、眞子、彩希の順で入っていく。壁の上から足元まで、小さな鏡が隙間なく並んでいた。
「前より鏡が細かいな」
「しかも、一枚ずつ向きが違うんです」
現在の里沙が答える。
映像の中では、天音のカメラが正面を向いている。レンズに入った明かりが、周りの鏡へ白い点となって映り込んでいた。
「何か光ったよ」
映像内の天音が言う。
「どこ?」
「正面。ううん、右……上にもある」
カメラが鏡を追うたび、白い点も別の鏡へ移る。細道の奥で、鏡の一枚が青白く光った。
「あまね、下げて!」
紬の声と同時に、一本の光が通路を走った。
映像が大きく傾く。鋭い音がして、画面の端に火花が散った。
「熱っ!」
天音はカメラを胸元へ引き寄せる。映像は紬の白い鎧だけで埋まった。
「怪我は?」
「ない。レンズの横が焦げただけ」
「カメラを正面へ向けないでくださいませ。罠が、カメラのレンズを狙ってます」
里沙の声が、狭い通路へ響く。
天音がカメラを横の鏡へ向けると、レンズに映る白い点が横へ移り、次の光も同じ鏡へ走った。少し上へ向ければ、青白い筋も上へ動く。
「本当だ。私じゃなくて、カメラを狙ってる」
「注意しなさい!」
「こんなに撮りたくない罠、初めてだよ!」
五人はいったん細道の外まで下がった。天音がカメラを自分の脇へ向けているため、画面には壁の鏡と紬の鎧の端しか映らない。
「正面が撮れないよ」
「目で見なさい」
「目で見えてても、配信に残らないでしょ」
「今は配信より、通れるかどうかですわ」
里沙の言葉に、天音は返事をしなかった。代わりに画面内で少しずつ下がっていくのが分る。
画面へ、五人の足元が映った。
紬の白い金属靴、天音と彩希の革靴、里沙の青い裾、眞子の銀の金属靴。その先、床近くにも斜めに傾いた細長い鏡が並んでいる。
「下にも鏡がある」
天音の声が弾んだ。
「あまね、何をする気?」
「カメラが狙われるなら、狙わせる。みんな、私の後ろを走って!」
「彩希さんは入口で待っていてください。退路を塞がれないよう、後ろをお願いします」
「はい。後ろは見ています」
紬が入口を空け、天音が先頭へ出た。そのすぐ後ろに紬、里沙、眞子の順で並び直す。
天音はカメラを床すれすれまで下げた。片手で持ったまま、細道へ駆け出す。
「ちょっと、あまね!」
紬も続いた。
天音はレンズを低い位置の鏡へ向けていた。画面の端には自分の足、その後ろには紬、里沙、眞子の足が入り、靴が鏡張りの床を蹴るたびに映像が上下する。
罠の光が、低い位置を追ってきた。
白い筋が床のすぐ上を走り、レンズへ入った光の道を逆にたどってくる。天音は手首を返し、左の低い鏡へ白い点を移した。
罠の光がその鏡へ当たる。光がレンズのいた場所へ届く前に、天音の手はカメラを一枚先へ運んでいた。
行き場を失った光は低い鏡から鋭い角度で前へ跳ね、次の鏡、その次の鏡へ、細道を縫うように走っていく。
「そのまま!」
里沙の声が飛ぶ。
「分かってる!」
天音は床すれすれにカメラを保ったまま走った。細い道の奥で、罠を放っていた鏡が青白く輝く。
里沙の放った魔法の矢が、その真ん中へ突き刺さった。
甲高い音がして、鏡が内側から砕ける。白い破片が床へ散り、同時に通路の奥から重いものが動く音がした。
「止まって!」
紬の声で四人の足が止まる。
天音がようやくカメラを持ち上げた。
「彩希さん、もう大丈夫です」
里沙が呼ぶと、罠区間の入口で後ろを警戒していた彩希が四人のところへ戻った。五人で鏡片を避け、開いた壁へ近づいていく。
割れた罠の鏡の先に何かある。鏡の縁で囲まれた、重そうな宝扉だった。
「見つけた!」
「あまね、今のは無茶です」
「でも成功したよ。カメラも撮れてる!」
「足しか映ってないじゃない」
紬の言うとおり、罠が砕けるまでの見どころは、足と床を走る光だけだった。
「これはこれで迫力が伝わるぞ」
眞子が大剣を背負い直す。映像の端で、里沙が床へ散った鏡片と宝扉を見比べていた。
五人は鏡片を避けて宝扉へ近づいた。里沙が杖の先で床をなぞり、紬が壁と天井を確かめる。彩希は最後尾から後ろを警戒していた。光は走らない。新しい罠もなかった。
扉の向こうは小さな石室だった。中央に、鏡板をはめ込んだ宝箱が一つ置かれている。
「今度こそ宝箱!」
「先に触らないで」
天音が眞子を止め、箱の周囲と蓋を調べた。罠がないと分かると、留め金を外す。
中に入っていたのは、銀貨を詰めた革袋だった。数十万円にはなりそうだ。
「これで手ぶらじゃないぞ」
眞子は革袋を腰へ結びつけた。天音のカメラが、開いた宝箱と持ち帰る革袋を正面から捉えた。
そこで映像が止まった。
現在の眞子が腰から革袋を外し、カウンターへ置いた。映像の宝箱から回収した銀貨が、中で重い音を立てる。
「これは、勝負は天音さんの勝ちです」
彩希が革袋を見て言った。
「私?」
「天音さんが罠を見つけなかったら、宝扉も銀貨も見つかりませんでした」
「そうね。今回はあまねの勝ち」
紬が認めると、里沙と眞子もうなずいた。
「やった! お宝勝負、私が一番!」
五人で始めた宝探しは、これで決着らしい。銀貨は五人で見つけた戦利品だが、勝ったのは罠を見つけた天音ということになった。
現在の天音は、カメラの横へスマホを並べた。安全な場所へ戻ってから確認したらしい配信の数字が表示されている。
「見て。正面を撮れなかったところが、今日いちばん盛り上がってる!」
「足しか映ってないぞ」
「だからいいんだよ。誰の足か当てるコメントでいっぱい!」
天音が画面を指で送る。
「白いのが紬ちゃん、青いのがりさちゃん、銀がまこちゃん。私と彩希ちゃんの革靴は、見分けがつかないって書かれてる!」
「罠より、そこが不満なの?」
紬が呆れる。
「せめて私の靴にも色が欲しかった!」
「また、いい靴探してくださいね」
「まずは、カメラを直さないと」
里沙が言うと、天音は焦げたカメラを抱き直した。
飯粒を箸で取る反応の速さも、床すれすれでカメラを走らせる器用さも大したものだ。さすが有名探索者パーティーの盗賊。ちゃんと戦利品まで持って帰ったのだから。
「私は、このあとギルドへ寄ってから帰ります」
彩希は、四人へ頭を下げた。
「今日は一緒に探索できて、ありがとうございました」
「次は最初から一緒に行きましょう」
紬が言うと、彩希は分け前を持って店を出た。四人は神崎屋に残り、銀貨入りの革袋はカウンターの上に置かれていた。




