第22章 海鮮チャーハンと反射罠1
四人が店へ入ってくるなり、天音はカウンターの前で両手を合わせた。
「晃一さん、今日は海鮮チャーハンが食べたい!」
「随分と細かい指定だな」
「鏡の新しい道へ行く前に、いちばん食べたいものを食べておこうと思って」
「帰ってこないみたいな言い方をするな」
紬が口をはさむ。
「晃一さんがいるんだから、帰ってくるに決まってるでしょう」
天音に聞いたんだが。
白い鎧の紬が天音の肩を押して、空いている椅子へ座らせた。里沙は赤い宝珠の杖を壁際へ立て、眞子も大剣を背から下ろす。
「四人とも海鮮チャーハンでお願いします」
「あたしは大盛りな」
「はいよ」
眞子が大盛りなのは、今日も確認するまでもなかった。
冷蔵庫から下ごしらえした海老とイカを出す。どちらも水気が残ったまま飯と合わせると、鍋の温度が下がってべたつく。布巾で表面を押さえ、先に中華鍋へ入れた。
強い火へかけると、油がぱっと弾ける。海老の色が透き通った灰色から赤へ変わり、イカの縁がきゅっと丸まった。潮の匂いに、炒めた葱の香りが重なる。
「もうおいしそう!」
椅子へ座らされたはずの天音が、また腰を浮かせている。
「まだ具だけだぞ」
「具だけでも食べられるよ」
「完成まで待ちなさい」
紬が天音の手をつかみ、椅子へ引き戻した。
「紬ちゃん、扱いが子供!」
「子供なのよ」
正しい。
海老とイカへ火が通りきる前に、いったん鍋から上げる。空いた中華鍋を焼き直し、油を足して溶き卵を流した。縁が膨らんだところへ飯を入れ、お玉の背で鍋肌へ薄く広げる。
じゅうっという音が、一段高くなる。
「晃一さん、何で広げるんだ?」
眞子が身を乗り出した。
「素早く、鍋の熱いところへ当てるためだ。飯の水分が飛べば、ぱらっとさせやすい」
鍋を振って飯を返し、塩と胡椒を振る。鍋肌から醤油を少し垂らすと、焦げる寸前の香りが立ち、四人の視線が揃って中華鍋へ向いた。
さっき上げた海老とイカ、葱を戻す。大きく二度あおれば、卵の黄色と海老の赤、烏賊の白、葱の緑が飯の中へ広がった。
皿へ盛ったチャーハンは、飯粒が一粒ずつ油をまとってつやつやしている。海老は丸く張り、烏賊には細かく入れた切り目が開いていた。湯気と一緒に醤油と葱の香りが上がる。
「熱いうちに食え」
「いただきます!」
天音の声を合図に、四本の匙が皿へ入った。
真っ先に大盛りを頬張った眞子が、目を見開く。二度、三度と噛んでから、すぐ次のひと匙をすくった。
「美味い! 飯がぱらぱらなのに、噛むと米の甘味が広がる。海老もぷりっとしてる!」
「口の中が空になってから喋れ」
眞子はうなずき、飲み込んだ。
「美味い!」
「そこは同じなのね」
紬があきれながら、自分も海老と飯を一緒に口へ運ぶ。さくっとした海老の歯触りを確かめるように噛み、頬を押さえた。
「醤油の香りが、しっかりするのに、味は濃すぎない。イカも固くないし……晃一さん、これ、ずっと食べられます」
「皿の分だけにしておけ」
「分かってます」
返事が少し不満そうだ。ずっと食べる気だったのか。
里沙はイカを匙ですくった。イカの細かな切り目に飯粒が絡み、落ちずに口まで運ばれる。
「イカの甘みが残っていますね。先に炒めたのに、火が入りすぎていません」
「飯と一緒に炒め続けたら固くなるからな。先に水気だけ飛ばして、最後に戻した」
「なるほど。海老も縮んでいないのは、そのためですか」
里沙は納得すると、今度は海老をすくった。聞いたことをすぐ自分の舌で確かめるあたり、勉強熱心なのか食い意地なのか。両方かもしれない。
天音は匙でチャーハンの山を崩し、海老、イカと卵を一緒にすくった。
「お米が、ぱらぱらで軽い! でも海老とイカの味はちゃんといる。それに、映える見た目」
「食うときくらい撮影を忘れろ」
四人の皿は、話している間にも順調に空いていった。最後まで残ったのは、眞子の皿の端に張りついた飯粒が一つだけだった。
天音がそれを見つけ、箸を手に取る。
「今の私なら、飛んできた飯粒でも箸で取れそう」
「何を言い出すのよ」
紬が眉を寄せる。里沙も匙を置いた。
「試す必要はありませんわ」
「言ってみただけだよ」
「じゃあ、やってみるか」
眞子が皿へ指を伸ばした。
「おい」
俺が止める前に、眞子は指先で飯粒を弾いた。
白い一粒が、天音の顔へ向かって飛ぶ。
天音の箸が動いた。
かちり、と箸先が合わさる。飯粒はその間に挟まっていた。
「取れた!」
「おお!」
天音と眞子が揃って立ち上がる。
「二人とも座れ」
俺が言うと、二人は同じ速さで椅子へ戻った。
「でも晃一さん、すごくない?」
「すごいかどうかと、食い物を飛ばしていいかは別だ」
「床には落としてないぞ」
眞子が胸を張る。
「落とさなければいいって話じゃない」
「じゃあ、食べれば問題なし!」
天音は挟んだ飯粒を口へ入れた。
「食べ物を粗末にしないためだよ」
都合のいいときだけ立派なことを言う。
紬は額へ手を当て、里沙は小さく息をついた。
「あまね、眞子。晃一さんに謝りなさい」
「ごめんなさい」
「悪かった、晃一さん」
二人とも反省は早い。次に同じことをしないでくれればいいのだが。
食べ終えた四人は、箸を開いたり閉じたりしていた。天音は箸を右から左へ持ち替え、同じように飯粒をつまむ真似をする。
「器用さが、ものすごく上がってる。さっきのも偶然じゃないよ」
里沙は店内を見回した。
「索敵力も大幅に上がっています。視界の端にある物まで、いつもより早く拾えますわ」
「反応も速いぞ。今なら何が飛んできても斬れそうだ」
眞子が大剣へ手を伸ばす。
「店の中では何も飛ばすな、斬るな」
「このバフ飯、試す場所を選ぶわね」
当たり前だ。こんなところで暴れられたら困る。
四人は装備を身につけ直した。天音も鞄から撮影用カメラを出し、レンズを布で拭く。
「今日は新しい道の入り口の先をばっちり撮ってくるね」
紬が天音の背を押し、里沙と眞子が続く。四人は鏡の道へ向かう為、店を出た。
四人が出てすぐ、入れ替わるように彩希が店へ入ってきた。
「遅れちゃいました。紬さんたちは、もう出ましたか?」
「今出たところだ」
彩希は入口の外を振り返った。
「追いかけます。私も、宝を見つける勝負に参加していますから」
「まだ間に合うだろ。気をつけて行ってこい」
「はい。行ってきます!」
彩希は頭を下げると、四人の後を追って店を飛び出した。




