第19章 迷わないためのカレーうどん3
広い通路の奥に、虹色の傘が見えた。
「あったぞ!」
眞子の声と一緒に、彼女が画面の奥へ飛び出していく。
「まこ、待ちなさい!」
紬が呼び止めるより早く、虹色の傘が跳ねた。
傘の下から白く丸い胴と短い脚が現れ、通路の奥へ走っていく。
「逃げたぞ!」
「それは虹茸じゃないわ。トリックマッシュよ!」
「食えるなら何でもいい!」
「食べられないからね!」
眞子が角の向こうへ消え、紬と里沙も追う。天音のカメラが激しく揺れ、光る茸の壁が左右へ流れた。
画面の揺れが収まったとき、三人は行き止まりにいた。
虹色の傘が地面から次々に持ち上がる。白い胴と短い脚を持つトリックマッシュが、四人を囲んでいた。
傘が一斉に震え、白い胞子を噴き出す。
「口と鼻を覆ってください!」
里沙が赤い宝珠の杖を突き出す。詠唱が終わると、白い胞子が画面の奥へ押し戻された。風そのものは見えないが、胞子の流れで強さは分かる。
「息はできる。状態異常耐性も効いてるわ」
「効いていても、吸わないでください!」
紬の声に続き、金属のこすれる音がした。眞子が背中の大剣を抜く。
「近くで見ると、ずいぶん肉厚だな」
「戦う前に食べ物として見るのをやめなさい!」
眞子が踏み込み、大剣を横へ振る。分厚い傘が深く裂け、白い胴が壁へぶつかった。
倒れたトリックマッシュの足元から、根のように太いものが飛び出す。眞子の脚へ巻き付く寸前、紬の長剣が上から断ち切った。
「茸なのに根があるぞ」
「根じゃなくて菌糸よ!」
眞子が言い返す間にも、二体目が胞子を吐こうと傘を膨らませる。
「まこちゃん、前です!」
里沙の声で、眞子が大剣を下から振り上げた。虹色の傘が跳ねる。返した刃が白い胴へ食い込み、二体目が倒れた。
右から別の一体が飛びかかる。
「右から来るよ!」
天音の声に、紬が剣を抜く。トリックマッシュが刃へぶつかり、紬の足元へ転がる。
「そこね!」
紬の長剣が傘の付け根を斬った。
最後の一体は壁際へ逃げた。眞子が追いつき、大剣を頭上から振り下ろす。虹色の傘が縦に裂け、白い胴が動かなくなった。
「食べるところが減った」
「最初から食べないのよ」
紬に止められ、眞子は割れた傘へ伸ばしかけた手を引っ込めた。そこだけは、きちんと話を聞いたらしい。
天音のカメラが、行き止まりの壁へ向く。倒れたトリックマッシュの奥で、茸の生えていない部分が一か所だけ残っていた。
「この壁も、肉眼とカメラで違って見える」
天音が近づく。配信画面では壁が消え、その先へ続く細い通路が現れた。
「通路があるよ。みんな、カメラを見て」
紬、里沙、眞子が撮影用カメラの画面を確かめ、一列になって細い通路へ入る。
その先は、小さな空間になっていた。
本物の虹茸が、地面に、まとまって生えている。透明に近い傘へ赤や青の筋が入り、カメラの向きが変わるたび、表へ浮かぶ色も変わった。
「見つけた! 隠し通路を見つけたのは、私だよ!」
天音が真っ先に勝ち名乗りを上げる。
「でも、本物の虹茸を最初に見たのは私よ」
紬も譲らない。
「あたしは、最初に虹色のやつを見つけたぞ」
眞子まで胸を張った。
「まこちゃんが見つけたのは、脚の生えた偽物です」
里沙に言われ、眞子は倒したトリックマッシュと本物の虹茸を見比べる。
「どっちも虹色だぞ?」
「脚が出たところで気づきなさいよ!」
紬の声が響き、画面がコメントで埋まった。天音は笑いながら、カメラを三人へ向ける。
「本物を最初に見つけたのは私よ。プリンは私のものね」
「待って。隠し通路を見つけたのは私だよ。あそこを通らなきゃ、虹茸まで行けなかったでしょ」
「胞子を押し戻したのは私です。あのままでは、通路を探すどころではありませんでした」
「あたしは一番最初に虹色の茸を見つけたぞ」
「偽物を数に入れないで!」
プリン三個の行き先は、しばらく決まりそうにない。
俺はスマホを伏せ、新しく入った注文に取りかかった。誰が勝っても構わないが、喧嘩はよしてもらいたい。




