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第19章 迷わないためのカレーうどん2

 四人が出てしばらくすると、天音の配信が始まった。


 朝の注文が途切れたところで、俺はカウンターの端へスマホを置く。画面には、細い通路を進む紬、里沙、眞子の背中が映っていた。天音は三人の後ろを歩きながら、足元の茸と前方を交互に撮っている。


「虹茸を最初に見つけた人が、神崎屋のプリンを三個!」


 天音が声を弾ませると、画面へコメントが次々に流れた。


「三個とも、あたしが食う。虹茸も!」


 眞子の声が近くから聞こえる。


「まこは、虹茸を食べる話から離れなさい」

「見つけても、すぐには食わないって」

「あとでも勝手に食べてはいけません」


 里沙に念を押され、眞子はようやく黙った。プリンを争う前に、虹茸を無事に持ち帰れるかが心配になってくる。


 通路が左右へ分かれ、四人は左へ進んだ。白い斑点の付いた小さな茸が、画面の端を通り過ぎる。


 いくつか角を曲がったあと、さっきの白い茸がまた映った。傘の端が同じ形に欠けている。


「待って。この茸、さっきも撮ったよ」


 画面が止まる。紬がしゃがみ、欠けた傘をのぞき込んだ。


「似ているだけじゃない?」

「同じだよ。欠けてる場所も、白い斑点も一緒」

「元の分かれ道へ戻されたみたいね」


 里沙が背後へ杖を向ける。カメラも振り返ったが、通ってきたはずの道は茸の生えた壁になっていた。


「歩いた向きは覚えています。私たちは、一度も引き返していません」

「それなのに同じ場所へ戻ったなら、見えている道のどこかが偽物ってことだね」


 天音の声は明るい。迷っている最中に、迷わされた仕組みを楽しめるのは大したものだ。


 四人は通路脇の浅い窪みへ入った。眞子が入口に立ち、紬と里沙が左右を確かめる。危ないものが近くにいないと分かってから、天音は配信確認の為にスマホを取り出した。


「分かれ道を撮ったところまで戻すね」


 少し前の配信映像には、紫の筋が一本入った茸が映っていた。その茸は、右の通路の入口で左へ傾いている。


 天音が窪みからカメラだけを出し、今いる分かれ道を映した。俺のスマホにも、同じ紫の筋がある茸が右側に映る。


「やっぱり。カメラでは右にある」

「でも、私たちには左に見えているわ」


 紬の声が画面の外から聞こえた。


 天音は撮影用カメラの画面を三人へ見せたらしい。里沙の青いそでと、眞子の銀の手甲が画面の前へ入る。


「肉眼で見える位置と、カメラに映る位置が違っています」

「だったら、カメラに映っているほうが本物だよ。さっきの映像とも同じだから」


 天音は配信確認用のスマホをしまい、撮影用カメラを両手で持ち直した。


「あまね、コメントは安全なところへ出てからよ」

「分かってる。今は道だけ見る」


 画面へコメントが流れ続けているが、天音は読まない。


 四人は分かれ道へ戻った。肉眼では左にあるという紫の茸が、配信画面では右の通路に映っている。


「右へ行こう。紫の茸が、さっきの映像と同じ場所に映ってる」

「私たちが最初に選んだのは左です。右はまだ通っていません」


 里沙が答え、紬が先頭へ出る。


「決まりね。まこ、私より前へ出ないで」

「まだ動いてないぞ」

「今はね」


 四人が右へ進み、角を曲がる。茸に囲まれた細い道が途切れ、広い通路が画面いっぱいに入った。


「抜けた! 迷路を見破ったのは、私だからね」

「まだ虹茸は見つけていません」

「今のでプリン一個くらい、もらえない?」

「もらえません」


 里沙の返事は早かった。甘いものの勝負に、途中は関係ないらしい。


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