第18章 焼きそばパンと水筒二本3
昼の混雑が引いたあと、店の戸が勢いよく開く。
「店主さん、宝箱を取れました。それに、魔石も」
彩希が胸を張って入ってきた。見たところ怪我はない。
「靴代くらいは稼げたか?」
「はい。魔石を売って、銀貨も合わせたら、いつもより稼げたので」
「もう売ったのか」
「はい。靴も、もう直してきました」
彩希は片足を上げた。革の靴底には新しい縫い目が並んでいる。朝よりよほど歩きやすそうだ。
「それと、これも買っちゃいました」
鞄から水筒を出す。腰にも一本ある。二本を並べて、彩希は嬉しそうに笑った。
「水筒が増えたな」
「太い岩柱を登ってたら、一本じゃ足りないって分かりました。帰る分は残しましたけど、戦ってるときまで水を我慢したくないです」
「二本持つのはいいが、二本とも空になるまで粘るなよ」
「そこまでは粘りませんよ」
少し考えてから答えたな。
「ゴブリンが三体いたんです。石を投げられたんですけど、店主さんの焼きそばパンを食べたら、飛んでくる石がちゃんと見えました」
「石まで見えなくなるほど腹が減ってたのか」
「お腹が減って見えなかったわけじゃないです」
冗談で言っただけだが、彩希は真面目に否定する。
「でも、飛びすぎて岩壁も蹴っちゃいました」
「それは焼きそばパンのせいにするな」
「はい。次は、飛ぶ前に脚の具合を確かめます」
反省する順番が妙だ。
彩希は直した靴で床を踏み、新しい水筒を腰へ下げた。二本がこつんと触れ合う。
「靴も直ったし、水も増えました。次は、もっと上手に登れそうです」
「宝箱を取りに行ったのに、増えたのは水筒か」
「靴も直ってます」
「そうだったな」
銀貨を眺めるより、よほど嬉しそうだ。役に立つ物が残ったなら、それでいいのだろう。
「店主さん」
「今度は何だ」
「次の焼きそばパン、予約してもいいですか」
「今日食ったばかりだろ」
「次に岩石エリアへ行くときの分です」
彩希の頭の中では、もう次の宝箱が待っているらしい。
「前の日に言え。パンを用意しておく」
「ありがとうございます」
彩希は二本の水筒を腰に下げ、上機嫌で帰っていった。歩くたびに、水筒がこつんと触れ合う。
俺は明日の仕込みを考えながら、フライパンを洗い場へ運んだ。




