第18章 焼きそばパンと水筒二本2
岩石エリアでは、何本もの岩が地面から突き出していた。太い岩柱には細い岩棚が段々に張り出し、上へ行くほど足場が狭くなる。
彩希は一人で、岩棚を足場にして太い岩柱を登っていた。焼きそばパンを食べてから、足が軽い。手をかける位置を決めるより先に体が動き、次の足場へ届く。
「これなら、頂上まであっという間ですね」
低い岩棚から向かい側へ飛ぶ。狙った足場は目の前だったのに、勢いが止まらない。
「えっ」
彩希は足場の上を飛び越え、岩壁へ向かった。靴底を壁へ当て、膝を曲げる。壁を蹴って勢いを殺し、今度こそ狭い岩棚へ着地した。
腕を広げたまま、しばらく動かない。
「……飛びすぎちゃいました」
彩希は腕を下ろし、今度は足元を確かめてから、腰の水筒を取った。
二口だけ飲む。先はまだある。蓋を閉め、さらに上へ登っていく。
頂上に近づいたところで、甲高い声が聞こえてくる。
三体のゴブリンが、小さな宝箱を取り合っていた。一体が箱を抱え、残る二体が左右から引っ張っている。蓋が開かないうちから、取り分でもめているらしい。
彩希が岩棚へ顔を出すと、三体がいっせいに振り向く。
「ギャッ!」
近くの一体が石を拾い、投げつけてくる。
石の回転まで見えた気がした。彩希は短剣を抜き、刃の腹で石を払う。進む向きを変えた石が、宝箱を抱えたゴブリンの肩へ当たる。
「ギャウッ」
箱が地面へ転がる。二体が箱へ飛びつき、石を投げた一体だけが彩希へ向かってきた。
棍棒が振り下ろされる。彩希は半歩横へずれ、空振りした腕の下へ入った。短剣の柄で顎を打ち、よろめいた足を払う。ゴブリンは岩棚へ転がった。
二体目が宝箱を諦め、背後から棍棒を振る。風を切る音が彩希の耳へ届く。
彩希は振り返らずに身を沈めた。頭の上を棍棒が通り過ぎる。倒れた一体を飛び越え、狭い足場で向きを変える。踏み込んだ脚が予想より強く伸びたが、今度は体を傾けて勢いを逃がした。
短剣が二体目の脇を打つ。ゴブリンは息を詰まらせ、棍棒を取り落とす。
その間に、最後の一体が宝箱を抱えて下の岩棚へ飛び降りた。
岩の陰に姿が消える。だが、下の岩棚を横切る影が走る。
彩希は横の岩棚へ飛び、壁を一度蹴った。逃げるゴブリンより先に下段へ着き、進路へ立つ。
「それ、置いてってください」
「ギャッ!」
ゴブリンは箱を抱えたまま突っ込んできた。彩希は横へかわし、短剣の平らな部分を足首へ当てる。脚を払われたゴブリンは前のめりに転び、宝箱を手放した。
追いついた二体も立ち上がる。彩希は三体の間を走り抜けた。追って振られた棍棒が、別のゴブリンの背中を打つ。
「ギャギャッ!」
殴られた一体が仲間へ向き直った。彩希はその隙に踏み込み、胸へ短剣を突き入れる。振り向きざまに刃を抜き、棍棒を振り上げた二体目の腕を斬った。棍棒が岩棚へ転がる。膝をついた胸へ、彩希はもう一度短剣を突き入れた。
残った一体が宝箱へ手を伸ばす。彩希は箱を足で後ろへ滑らせ、伸びきった腕の下から脇腹へ短剣を突き刺す。
三体が続けて倒れる。
倒れた三体のそばに、親指ほどの石と銀貨が一つずつ転がっている。
魔石だ。魔物が体の中へためた魔力が固まったもので、ギルドへ持ち込めば換金してもらえる。珍しい品ではないが、三つあれば靴の修理代の足しになる。
宝箱を開けると、中に銀貨も入っている。
「これなら、靴を直せます」
彩希は銀貨と魔石を布袋へしまう。水筒を傾けると、残った水が少しだけ口へ流れる。
歩いて戻るだけなら困らない。だが、もう一口飲みたい。
「水筒も、もう一本いりますね」
ほとんど空の水筒を腰へ戻し、彩希は太い岩柱を下り始める。




