第18章 焼きそばパンと水筒二本1
朝から店は混んでいて、俺は注文の皿を一つ出すと、すぐに焼きそばパン用のキャベツを刻み始めた。
次に作るのは、予約の焼きそばパンだ。頼んだのは彩希で、岩石エリアにある宝箱を取りに行く前に食べたいらしい。
店の戸が開く。
「おはようございます。少し早かったでしょうか」
「いや、ちょうどいい。今から焼くぞ」
入ってきた彩希は、短い髪があちこちへ跳ねていた。手入れの行き届いた革鎧に短剣を差し、腰には水筒を一本下げている。探索へ行く支度はできているのに、寝ぐせだけは直っていない。
「髪、直してこなかったのか」
「直しました」
「それでか」
「家を出たときは、もう少し大人しかったんです」
髪にも都合があるらしい。
俺は空いたコンロにフライパンを置き、油を引いて豚肉を入れた。肉の色が変わったところで、細く切ったキャベツを加える。
「いい匂いです」
「まだソースも入れてないぞ」
「焼けた豚肉の匂いだけでも、ご飯が食べられます」
「今日はパンだ」
彩希は真面目な顔でうなずいた。こいつなら本当に、匂いをおかずに白飯を食いかねない。
キャベツがしんなりする前に麺を載せ、少し水を注いで蓋をする。蒸気が蓋の隙間から上がってきたところで蓋を外し、菜箸を入れた。温まった麺は、力を入れなくても素直にほぐれる。
「最初に水を入れるんですね」
「固まったまま無理にほぐすと、麺が切れるからな。少し蒸してほぐしてから、最後に水気を飛ばす」
菜箸で麺を返しながら、余分な水分を飛ばす。そこへソースを加え、手早く絡めて火を止める。甘辛い香りの麺を切れ目を入れたパンへ挟み、赤いしょうがを少し載せる。白いパンの間から、照りのある茶色い麺と赤いしょうががのぞく。
「待たせたな」
「ありがとうございます」
紙で包んだ焼きそばパンを渡すと、彩希は代金を払った。後ろの客を先に通し、カウンターの端へ寄って、立ったまま大きくかぶりつく。
「美味しいです」
「口の中を空にしてから言え」
彩希は慌てて口元を押さえた。ふかふかのパンの間から、甘辛いソースをまとった麺がのぞいている。噛むたびにキャベツがしゃきっと鳴り、豚肉の脂と焼けたソースの香りが鼻へ抜けるはずだ。
そこへ紬がやってきた。
「彩希ちゃん、今日は焼きそばパン?」
「はい。これから岩石エリアへ行きます」
「食べながら?」
「食べ終わってからです」
当然の返事をして、彩希がもう一口かじる。その拍子に、一本の麺が包み紙から滑り出す。
床へ触れそうになった瞬間、彩希の手が動く。
彩希は麺が床へ触れる前に、差し出した包み紙で受け止めた。
「おお」
「今の見た?」
紬が目を丸くして包み紙をのぞき込み、彩希も麺を受け止めた自分の手を見つめている。
「反応が、ずいぶん速くなっています」
「便利なのは分かったが、次はこぼすなよ」
「こぼしていません」
彩希は、自分が麺をこぼしかけたことを認めない。
「床に触れなかっただけだろ」
「脚力と平衡感覚も大幅に上がっています」
彩希が確かめるようにつま先立ちになった。体がほとんど揺れない。
「今回のバフ飯は、その三つみたいだね」
「はい。岩石エリアには、ぴったりです」
紬と彩希は納得しているが、俺が作ったのは普通の焼きそばパンだ。腹が満ちれば、足取りだって軽くなるだろう。
彩希は最後の一口を食べ、包み紙をきちんと畳んだ。
「宝箱が取れたら、靴を修理します」
片足を上げて見せると、靴底の端が少し浮いていた。
「それで岩を登るのか」
「今日一日は持ちます」
「途中ではがれたら戻ってこいよ」
「はい。無理はしません」
返事だけなら百点だ。
「行ってきます」
彩希は腰の水筒を揺らし、店を出ていく。




