第15章 アイドル仲間、遅めの昼ごはん1
昼の行列が短くなってきたころ、紬が若い女の子と一緒に入ってくる。
「晃一さん、二人お願いします」
「空いてるところに座ってくれ」
紬と一緒に来た女の子は、帽子を目深にかぶっていた。ミルクティー色の短い髪をした、切れ長の女の子だ。地味な上着とスカート姿なのに華やかさがある。
「はじめまして」
女の子が軽く頭を下げる。
「仕事仲間の花宮莉音ちゃんです。私と同じアイドルグループ、ミルキーラビットで活動しています」
「神崎晃一だ。紬がいつも世話になってるな」
「こちらこそ、白石さんにはいつもお世話になっています」
二人はカウンターに並んで座った。
店にはまだ何人か客がいる。俺は先に頼まれていた客に焼き魚定食を出し、空いた皿を下げてから二人のところへ戻った。
「私たち、このあとライブがあるんです」
莉音が帽子のつばを少し上げる。
「ライブ会場に向かう前に、晃一さんにどうしても会いたかったんです」
紬が俺を見て言う。
「俺に会うために、莉音まで連れてきたのか」
「莉音ちゃんにも、晃一さんのごはんを食べてほしかったので」
「私も興味がありました。白石さんが、何を食べてもおいしいって何度も話すんです」
「本当においしいから仕方ありません」
紬が胸を張る。うちの店のことなのに、なぜこいつが得意そうなんだ。
「期待されても、うちはちょっと混んでるだけの定食屋だぞ」
「それも聞いています。今日は、他のお客さんと同じように並びました」
「なら問題ないよ。何を食べる?」
「オムライスをお願いします。大盛りで」
莉音が答えた直後、腹の鳴る音がする。
「……今の、聞こえました?」
「聞こえた」
「そこは聞こえなかったことにしてください」
「飯屋で腹が鳴るのは普通だろ」
莉音は赤くなり、帽子をさらに深くかぶる。
「大盛りでお願いします」
「分かった。紬は?」
紬は少し考えてから答えた。
「普通盛りでお願いします」
「今、大盛りにしようか迷っただろ」
「迷ってません」
鶏もも肉と玉ねぎを細かく切る。
油を引いたフライパンに鶏肉を入れると、ぱちぱちと音が鳴った。肉の色が変わったところで玉ねぎを加える。炒めているうちに、玉ねぎの甘い匂いがしてきた。
「もう、おいしそうです」
紬が厨房に身を乗り出し、フライパンをのぞき込む。
「まだ鶏肉と玉ねぎしか入ってないぞ」
「それでも、おいしそうな匂いはします」
鶏肉と玉ねぎを端に寄せ、空いたところへケチャップとトマトペーストを入れる。じゅっと音がして、酸っぱい匂いが広がった。
「ケチャップも炒めるんですね」
「先に火を通すと、酸っぱさがやわらぐ。水気も飛ぶから、飯がべたべたしにくいんだ」
「どのくらい炒めるんですか?」
「酸っぱい匂いが弱くなるまでだな。玉ねぎの水分でも変わるから、毎回同じ時間にはならないよ」
「時計じゃなくて、匂いと水分で見るんですね」
「そのほうが失敗しない」
温かい飯と粉末のコンソメとコショウを加え、木べらで切るように混ぜていく。白い飯がケチャップの赤に変わり、鶏肉と玉ねぎが全体に混ざった。
出来上がったケチャップライスを二つに分けておく。莉音の分は、紬の分よりひと回り大きい。
「晃一さん」
「何だ」
「莉音ちゃんのほうが、ずいぶん大きく見えます」
「大盛りだからな」
「分かってますけど」
「紬さん、私の少し食べます?」
「いらない。見ただけだから」
「私の分を先に見てましたよね」
「たまたまです」
紬は、あきらかに見比べていた。
卵を割り、塩と牛乳を少し加える。菜箸で白身を切るように混ぜ、熱したフライパンへ流し入れた。
卵は端から固まっていく。真ん中を軽く混ぜ、表面が乾く前に火を止める。
「卵で包むんですね」
「卵が固くなる前に飯を乗せると、破れずに包みやすいんだ」
卵の真ん中にケチャップライスを乗せ、両端を寄せる。皿をかぶせてフライパンを返すと、黄色い卵が赤い飯をきれいに包んだ。
布巾を使って形を整え、上からケチャップをかける。
「はい、オムライスお待ち」
皿から湯気が上がり、卵とケチャップの匂いが広がった。黄色い卵の上で、赤いケチャップがつやつや光っている。
「わあ……」
莉音が帽子を脱いで、目を見開く。
「いただきます」
莉音がスプーンを入れる。薄い卵がすっと切れ、中からケチャップライスが出てきた。
卵と飯を一緒にすくい、ふーふー冷ましてから口へ入れる。
「おいしい」
莉音が笑うと、左頬にえくぼができる。
「卵が、ふわふわで柔らかいです。ケチャップライスも甘くて、鶏肉は香ばしい。白石さんが何度も話すのも分かります」
「いい腕前でしょう?」
「何で紬が答えるんだ」
「私が連れてきたからです」
「作ったのは俺だぞ」
紬もオムライスを大きくすくって食べた。
「んんっ。のせるのもいいですが、包むオムライスも好きです」
二人とも話しながら、食べる手は止まらない。




