第14章 テイクアウトの試作3
試食用の弁当を紬達へ出すと、まず天音がカメラを向けたまま、皿へぐっと身を乗り出した。
「じゃあ、いただきます。揚げ音がたまらなかったね!」
「まあ、食べてみな」
そう言っているあいだに、もう最初のひと口が消えていた。
「エビは衣が軽い、白身魚は身がふわっとほどける。メンチは中で肉汁がちゃんと残っていて、三つとも同じ揚げ物なのに、全然味わいが違う」
「え、ちょっと待って、エビの衣が軽いのはなぜ?」
「軽くなるように高温で、さっと揚げたからな」
「白身魚、ふわってして、美味しいのは?」
「火を入れすぎないだけだ」
「メンチは中がちゃんと肉感が残ってる」
「肉の味わいが薄いのが多いけどな、うちのは違う」
天音は、そう言いながらメモを取っている。もう編集内容を考えている顔だった。
「お弁当だと、こういうのがいいですね」
「何がだ」
「外で食べても、店で食べる定食と同じように楽しめます。箱を開けた時に、見た目もちゃんと揚げたてに見えるのがいいです」
里沙は言い方は落ち着いているのに、すごい早さで食べている。
紬はというと、さっきから少しだけむすっとしていた。
「私達の分も、持ち帰りが増えたら嫌ですね」
「弁当が嫌なのか?」
「店で食べないと、晃一さんに会えないじゃないですか」
その言い方は、いつもより少しだけ素直だった。俺は返事の代わりに、揚げ物の皿の横へ味噌汁を置く。これは、店でしか味わえない。
眞子は、そんな気配をまるで気にせず、自分の弁当をどんどん食べ進める。
「これ、持ち帰り用に五人前は欲しい」
「試作で持ち帰り用を要求するな」
「でも、夜にも食べたい」
「こんなに食べたんだ。夜は軽くしろ」
「えー」
天音が撮影をリアルタイム配信に切り替え、そのやり取りを拾いながらスマホの向こうを見て笑う。視聴者数が増え、画面へコメントが次々に流れた。
「コメント、もう『弁当希望』で埋まってる」
「まだ出してないぞ」
「みんなもう食いついてる」
なるほど、こういうものか。
店の外でも食べたいという声が、思ったよりも多いみたいだ。店の皿の上で終わるはずだった神崎屋の料理が、弁当容器に入って別の場所でも食べたいと言われている。
里沙が、空の弁当容器を見直す。
「持ち帰ってもバフ飯ですね、外でも効果が得られるのは大きいです」
紬が食べ終えた弁当容器を見て、少しだけうつむいた。
「晃一さん」
「何だ」
「これ、お店でもできますか」
「できる」
「……じゃあ、明日もここで食べますね」
紬はそう言って、少しだけ小さく笑った。
どうやらこの弁当は、ただの試作で終わらないらしい。弁当容器を下げながら、俺はもう一度だけ揚げ油の鍋を見た。どんな弁当用メニューを出せばいいだろうか。冷めても味が落ちにくい料理を色々考えなければいけない。




