第13章 眞子はいつも大食い3
最初の一口だけで、眞子は黙った。
噛んだあと、眞子の全身の筋肉に力が入る。次に、肉と味噌だれを飲み込んだ途端、体が一回り大きくなったように見えた。。本人も分かったのか、箸を持っていないほうの拳を握る。
「うし、バフ飯は噂通りだ!」
紬が、あきれた顔で見る。
「まだ一口ですよ」
「一口でも、パワーとスタミナが上がった気がするぜ。十人前なら十倍?」
「計算が単純すぎるわ」
俺が何か言うより早く、眞子は次を口へ運んでいた。肉、キャベツ、白飯。箸を入れるたびに、皿の上の回鍋肉が目に見えて減っていく。
「はやっ」
天音がカメラ越しに声を上げる。
「まこちゃん、もっと味わって食べて。尺が足りなくなる」
「味わってるよ」
「全然そんなふうに見えないんだけど」
「この早さでも、味わえて……」
返事の途中で、もう次の一口に入っている。
「噛むたびに味噌の甘さが広がって、豆板醤の辛みがあとから来る。豚の脂が白飯にしみて、キャベツの歯ざわりでまた次が欲しくなる」
あの速さで食べて味が分かるのかと思ったが、感想はちゃんと肉と野菜を一緒につかんでいた。
感想を言った後、眞子は皿を自分のほうへ少し引いた。どんどん、回鍋肉と白飯を口にかき込んでいく。
「これ、めちゃくちゃ白飯進む」
「そうか、十人前でも平気そうだな」
「うん。楽勝だな」
気持ちのいい食べっぷりだ。
紬が、わずかにむくれた顔になっている。
「晃一さん、眞子に甘くしないで下さい。調子に乗って食べすぎますから」
「甘くはしてないだろ。自分で十人前って言ったから出しただけだ」
「でも、あの勢いはずるいです。いつもより丁寧に作ったんじゃないですか?」
「考えすぎだ。いつもと同じ」
天音は画面を確認しながら、楽しそうに口を挟む。紬が天音を止める。
「この食べっぷり、動画にしたらコメントが伸びそう」
「調子に乗るから、今回は動画の公開はやめなさい」
「やめません。今の箸さばき、いい絵が撮れたよ」
眞子はその会話を聞きながら、口の端についたたれを親指でぬぐった。
「晃一さん」
「何だ」
「次も、このくらいご飯が進むやつ、いきたいね」
このくらいって、次も十人前食う気だな。
「次は、十人前はやめろ」
「じゃあ九人前」
「たいして減ってない」
「じゃあ、九人前と半分」
「増えてるぞ」
紬がこらえきれずに吹き出した。
「まこ、晃一さんを困らせるのが上手です」
「困らせてないよ。楽しんでるだけ」
「困っちゃいない。心配してやってるんだ。探索者であっても、毎回これは健康に悪いぞ」
俺が言うと、眞子は心配ないという顔で笑った。皿の上の料理は、どんどん少なくなっている。
「少しくらいいいじゃん。まこちゃんの食べ方、見てるだけで元気出るから。視聴者のみんなも元気になるよ」
天音が、笑顔で言う。
「確かにな」
俺は、うなづいた。天音と眞子は得意顔だ。
「勢いよく食べる人って、見ていて楽しいんだよ」
「あたし、動画映えもする?」
「する。かなりする」
紬がじとっとした目を向ける。
「晃一さんが心配してくれてるんだから、少しは反省しなさい」
「え、だって晃一さん、ちゃんと作ってくれるじゃん。大丈夫、大丈夫」
それを本人の前で言うな。
「じゃあ、晃一さん」
「今度は何だ」
「次来た時は、この、でっかい唐揚げ定食。十人前いくから、頼むぜ」
やっぱり十人前いくのか。それも、うちのメニューで一番ボリュームのあるやつ。
俺は本当に大丈夫かと思ったが、口には出さなかった。
眞子は空になりかけた皿を前にして、もう次の大盛りを楽しみにしている。
でも、あの顔でまた来ると言われたら、作ってやろうという気になる。
俺は空いた皿を下げながら、米の仕入れの量を頭の中で計算した。
うちの、でっかい唐揚げ定食は、肉だけ多いんじゃない。白飯、味噌汁、漬物まで全て大盛りだ。こうじゃないと大盛り定食として決まらないんだ。
重労働の探索者向けに考えた、このダンジョンに出店してから出している特別メニューになる。これを十人前も食べた奴はいない。
「晃一さん、もう考えてる」
天音が笑う。
「考えてない」
「米の仕入れを考えてる顔です」
「何で分かるんだ?」
「盗賊のスキル。適当言ったら、当たる事がある」
眞子は空の皿を見て、満足そうに腹を叩いた。




