第13章 眞子はいつも大食い2
中華鍋を火にかけると、底がすぐ赤くなる。
油を流し入れる。ぱちっと音がして、豚バラを入れた瞬間に脂の匂いが立った。油通ししたキャベツと長ねぎを合わせる。鶏ガラスープ、豆板醤、甜麺醤、しょうゆ、酒、砂糖、味噌を合わせた、たれを回し入れる。甘い味噌の香りに、豆板醤の辛い匂いが混じる。
鍋をあおると具材が一度浮いて、すぐに底へ戻る。キャベツの青いところに肉と、たれの照りが乗ったら、炒めすぎる前に火を消す。回鍋肉は、手を止めると一気にぼやけた味になってしまう。
「うわ、きたー!」
天音が厨房の前でスマホを持ち直した。
「この音、たまらないですね」
「この匂いだけで白飯いけるね」
「実際こいつを食べれば、もっといけるぞ」
眞子は箸を握ったまま、カウンターの上へ少し身を乗り出している。
「さっきから見てるだけで腹が鳴る」
「見ているだけで?」
「匂いが反則なんだよ」
「眞子、匂いだけで白飯を食べ始めそう」
紬がそう言って、口元を少しゆるめた。眞子の食欲に引っ張られたのか、さっきまであった眉間のしわも消えている。
料理人としては褒め言葉にとっていいのか、少し迷う。
皿に盛るときは、豚肉を上へ、キャベツを下へ敷く。量は多いが、ただ積めばいいわけじゃない。ひと口ごとに肉と野菜を一緒につまめるようにしておく。
最後に、鍋の底に残ったたれを回しかけて照りを出す。
「晃一さん、そういうところ、毎回注意してるんですか?」
「毎回だ。そこをサボると、ひと口目だけ美味くて、あとが単調になる」
「ふうん」
眞子はうなずいたが、視線はもう皿から離れない。生返事だけして、箸先を皿にのばす。
「はい、お待ち」
皿を置いた瞬間、眞子の箸が動いた。
紬が、口をはさむ。
「まだ熱いですよ」
「熱いのは今だけだし」
「こんな量、簡単には冷めないよ?」
眞子は気にしない。回鍋肉をひと口分には多く取ると、そのまま白飯も口に放り込んだ。




