第12章 甘いもの好きの賢者3
「お待たせ」
皿を置いた瞬間、三人の目が一斉にプリンアラモードへ向いた。
丸いプリンの上に、艶のあるカラメルが流れている。そのまわりに果物が色を散らし、白いクリームとアイスが、皿の上で美しく調和している。
「うわ……」
最初に声を出したのは天音だった。
「映えるって、こういうことなんですね」
「食べ物は映えだけで決まらないぞ」
「でも、これは間違いなく美味しそうです」
紬も、いつもよりは素直だった。言いながらも、もう目は皿から離れていない。
里沙はというと、いちばん静かだった。
静かなまま、スプーンを手に取って、プリンの縁をすくう。最初のひと口は小さかった。ところが、その一口が口に入った瞬間、表情が変わる。
「……美味しいです」
声が、さっきまでより少しだけ高い。
「そこはもうちょっと言葉を足せ」
「じゃあ、すごく、美味しいです」
今度は、少しだけ早口だった。
「卵のやわらかさが舌に当たって甘さが広がります。次にカラメルの苦みが来る。そのあとに果物の酸味とクリームの甘さが続き、ひと口ごとに、味が変化していくわ」
里沙はもう二口目をすくっていた。
「甘いだけじゃないんですね」
「ずっと甘いだけだと、途中で飽きるからな」
「分かります」
分かると言いながら、スプーンの動きが止まらない。全然止まらない。目の色が変わっている。
これで常識人を名乗るのか。いや、名乗っているのは彼女じゃないか。
紬が横から小さくむくれて、「ハマるのは料理だけにしてね」と言うと、里沙は首をかしげた。
「他に何にハマるんですか」
「さっきから、すごく幸せそうだし」
「幸せです!」
即答だった。
天音が吹き出す。
「普段は清楚な人が一番はしゃいでる! この動画をアップにしたら、視聴回数が伸びそう!」
「ご自由に」
里沙は関心を示さず、食べ続ける。次のひと口を急いでいる。甘い物の前では、さっきまでの落ち着きがまるごとどこかへ行っている。
プリンを半分ほど食べたところで、里沙がスプーンを置いた。
「晃一さん」
「何だ」
「次は、季節の果物をもっと使った甘いのをお願いします」
さらっと言う。
そのくせ、目だけは完全に本気だった。
「まだ食べ終わってないだろ」
「でも、次もお願いしておきたいです」
「予約制じゃないぞ」
「じゃあ、予約でなくていいので、また来ます」
その言い方があまりにきっぱりしていて、俺はもう返す言葉に困った。
紬が、里沙の皿を見て、それから俺を見る。
「晃一さん、他の女の子には手を抜いていいんですからね」
「どんな客でも手を抜くつもりはない」
「今日は、いい動画が撮れました」
天音がカメラを下ろしながら、満足そうに言う。
「今回はタイトルは『常識人、甘味で壊れる』で」
「壊れてません」
「それで済む顔じゃないです」
里沙は少しだけ頬を赤くしたまま、またプリンをすくう。
その顔を見て、俺はやっと分かった。
この子は、甘い物の前だと素直になるんだ。
「甘味でもバフ飯の効果は同じですね」
里沙はスプーンを置き、杖を握り、何かを唱える
「魔力と集中力が大幅に跳ね上がってます。詠唱速度まで増していますね」
「糖質は、頭の回転に必要だからな」
俺がそう言った後、里沙がふと顔を上げた。
「晃一さん」
「今度は何だ」
「次のスイーツも、楽しみにしています」
そう言ってから、またスプーンを動かす。




