表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
30/72

第12章 甘いもの好きの賢者3

 「お待たせ」

 皿を置いた瞬間、三人の目が一斉にプリンアラモードへ向いた。

 丸いプリンの上に、艶のあるカラメルが流れている。そのまわりに果物が色を散らし、白いクリームとアイスが、皿の上で美しく調和している。


「うわ……」


 最初に声を出したのは天音だった。


「映えるって、こういうことなんですね」

「食べ物は映えだけで決まらないぞ」


「でも、これは間違いなく美味しそうです」


 紬も、いつもよりは素直だった。言いながらも、もう目は皿から離れていない。


 里沙はというと、いちばん静かだった。

 静かなまま、スプーンを手に取って、プリンの縁をすくう。最初のひと口は小さかった。ところが、その一口が口に入った瞬間、表情が変わる。


「……美味しいです」


 声が、さっきまでより少しだけ高い。


「そこはもうちょっと言葉を足せ」

「じゃあ、すごく、美味しいです」


 今度は、少しだけ早口だった。


「卵のやわらかさが舌に当たって甘さが広がります。次にカラメルの苦みが来る。そのあとに果物の酸味とクリームの甘さが続き、ひと口ごとに、味が変化していくわ」


 里沙はもう二口目をすくっていた。


「甘いだけじゃないんですね」

「ずっと甘いだけだと、途中で飽きるからな」

「分かります」


 分かると言いながら、スプーンの動きが止まらない。全然止まらない。目の色が変わっている。

 これで常識人を名乗るのか。いや、名乗っているのは彼女じゃないか。


 紬が横から小さくむくれて、「ハマるのは料理だけにしてね」と言うと、里沙は首をかしげた。



「他に何にハマるんですか」

「さっきから、すごく幸せそうだし」

「幸せです!」


 即答だった。

 天音が吹き出す。


「普段は清楚な人が一番はしゃいでる! この動画をアップにしたら、視聴回数が伸びそう!」

「ご自由に」


 里沙は関心を示さず、食べ続ける。次のひと口を急いでいる。甘い物の前では、さっきまでの落ち着きがまるごとどこかへ行っている。

 プリンを半分ほど食べたところで、里沙がスプーンを置いた。


「晃一さん」

「何だ」

「次は、季節の果物をもっと使った甘いのをお願いします」


 さらっと言う。

 そのくせ、目だけは完全に本気だった。


「まだ食べ終わってないだろ」

「でも、次もお願いしておきたいです」

「予約制じゃないぞ」

「じゃあ、予約でなくていいので、また来ます」


 その言い方があまりにきっぱりしていて、俺はもう返す言葉に困った。

 紬が、里沙の皿を見て、それから俺を見る。


「晃一さん、他の女の子には手を抜いていいんですからね」

「どんな客でも手を抜くつもりはない」


「今日は、いい動画が撮れました」


 天音がカメラを下ろしながら、満足そうに言う。


「今回はタイトルは『常識人、甘味で壊れる』で」

「壊れてません」

「それで済む顔じゃないです」


 里沙は少しだけ頬を赤くしたまま、またプリンをすくう。

 その顔を見て、俺はやっと分かった。

 この子は、甘い物の前だと素直になるんだ。


「甘味でもバフ飯の効果は同じですね」


 里沙はスプーンを置き、杖を握り、何かを唱える


「魔力と集中力が大幅に跳ね上がってます。詠唱速度まで増していますね」

「糖質は、頭の回転に必要だからな」


 俺がそう言った後、里沙がふと顔を上げた。


「晃一さん」

「今度は何だ」

「次のスイーツも、楽しみにしています」


 そう言ってから、またスプーンを動かす。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ