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第12章 甘いもの好きの賢者2

 冷蔵庫から卵を出し、牛乳を量り、砂糖を小鍋に入れ、先にカラメルを作る。

 火をつけると、鍋の底で砂糖がじわじわ溶けていく。最初はただ白かった砂糖が、やがて茶色に変わり、ふっと香りが立つ。焦がしすぎると苦くなるし、早すぎると味がぼやける。こういうのは、勢いよりも様子を見るほうが大事だ。


「店主、プリンって家でも作れるんですか」


 天音がカウンターの向こうから身を乗り出してくる。カメラはすでに回っていた。


「作れる。卵と牛乳と砂糖があれば、ちゃんとできる」

「へえ。もっと難しいのかと思ってました」

「難しくはない簡単さ。変なことをしなきゃ大丈夫だ」


 卵を割って、白身と黄身をほぐす。勢いよく混ぜると気泡が入るから、箸はゆっくり動かし、泡立てないように静かに混ぜる。そこへ人肌に温めた牛乳を少しずつ入れる。温度を間違えると卵が固まる。


「ゆっくりやるんですね」


 里沙の声が、カウンターから飛んでくる。椅子に座ったまま、上半身をこちらに乗り出している。


「急ぐと、こういうのはすぐ失敗する」


 こし器でこすと、液がなめらかになった。余計な泡やカラザがなくなる。これを耐熱のカップに流して、湯を張ったフライパンに置く。ふたをして、弱火でじっくり火を入れる。


 しばらくすると、湯気に卵と牛乳の匂いが混じり始めた。甘い香りが、周囲にただよう。


「うわ、いい匂い」


 天音の声が一段高くなる。


「まだ固まってないがな」

「途中なのに、もう美味しそう」


 紬が横から口を挟む。さっきまで里沙をにらんでいたのに、甘い匂いをかぐと目つきが変わる。こういうところは、分かりやすい。


「あ、そうだ。上に乗せるトッピング、今日のは何ですか」


 天音がスマホを少し上げる。


「バナナ、オレンジ、キウイ、あと缶詰の桃も少し。生クリームを泡立てて、アイスも乗せる」

「盛りすぎじゃないですか」

「うちのプリンアラモードは、大盛りだ」


 焼き上がったプリンを容器ごと氷水にひたす。冷えたら皿にプリンを出し、そこへカラメルを少し垂らして、果物を並べる。生クリームを絞り袋でふわっと乗せて、最後にアイスをひとつ。


「色よく並べるのが大事だ。甘いものは、見た目で楽しませる」

「そういうの、ちゃんと考えてるんですね」


 里沙が、厨房の中をのぞき込む。


「当たり前だろ。スイーツは、綺麗に見えないと駄目だ」

「さすが晃一さん」


 その言い方が、やけに真面目だ。

 紬がすかさず、じとっとした目を向ける。


「里沙、さっきからすごく嬉しそうだけど、晃一さんに興味でも?」

「そう見えますか」

「見えます」

「……見えてしまうなら、しかたありません」


 里沙はそう言って、俺から少しだけ視線をそらした。

 口では落ち着いているふうなのに、手はもうスプーンを待っている。甘い物を前に、そわそわしていた。


 俺はプリンアラモードを彼女の前に置いた。

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