表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
25/67

第10章 親子丼のレシピ動画3

「では紬ちゃん、お願いします。探索前のご飯、最初の一口です」


 天音がカメラを構える。

 紬は丼の端から卵と鶏肉をすくい、だしの染みた飯も一緒に箸へ乗せた。半熟の黄身が米粒へ絡み、持ち上げたところから白い湯気が細く昇る。

 口へ入れた紬の頬が、ゆっくり緩んだ。


「……鶏肉、やわらかい。噛むとだしが旨味が広がる。玉ねぎは甘いし、卵でこくが出てる」

「紬ちゃん、食べる実況も上手!」

「実況じゃないわ。感想よ」


 そう言いながら、もう二口目をすくっている。今度は半熟の多い真ん中だ。卵をまとった飯を食べ、紬は目を細めた。


「撮影で待たされたぶん、いつもよりおいしい」

「撮影してても、料理時間は変らん」


 俺は、他の客の料理をこなしながら言った。


「それもあるけど、私のために一杯に心を込めて作ったでしょ」

「は? 親子丼は一杯ずつ作るもんだ」

「そう言うところもいい」


 紬は丼を見たまま言った。

 鍋を火にかけながら次の注文を聞き、味噌汁の残りも見る。今は客足も途切れず、紬の親子丼だけを考えて料理している余裕はない。気のせいだと思うが。


「温かいうちに食え。それが一番だ」

「うん」


 短い返事のあと、紬はまた箸を動かした。


「鎧の下にあった打ち身が消えたわ。腫れていた左肩が元へ戻った。手の甲の擦り傷も、端から一気に塞がっていく。腕が軽い!怪我、全部消えました。朝の訓練でたまった疲れもなくなってます!」


 天音がカメラ越しに確かめる。本人も朝から訓練を追って撮影し、もう腕が震えているのに、紬の変化を映すことへ夢中になっている。


「凄い! バフ飯凄い効果。リーダーの負傷と疲労が、あっという間に!」


 紬は箸を置き、軽く首を左右へ向けた。次の瞬間、天音が撮る位置を変えようとしたより早く、紬の顔がレンズのほうへ動く。


 紬は自分でも確かめるように、テーブルから落ちかけた箸袋を指先でつかんだ。目で追えないほどの速度で、手が動いている。


「敏捷力と反応速度が大幅に上がってる。それだけじゃない。天音の次の動きまで読める!」

「親と子で親子丼だから、連携まで強くなるんですかね。今日も派手なバフ飯です!」

「親子丼だ」

「親子丼ですが、バフ飯のバリエーションの一つです」

「飯を食って元気になっただけだろ」


 俺が言うと、二人はそろってこちらを見た。

 なぜ毎回、俺だけ分かっていないような顔をされるんだ。おおげさすぎる。元々S級探索者なんだから、それくらい当然だろう。


「晃一さん、傷が治るところも動画に使っていいですか?」

「そこは外せ。視聴者に、誤解される」

「本当に治ったから誤解じゃないわ」

「そういう適当な褒め言葉はいらない」

「本当なのに……」


 紬は、親子丼を食べ続けた。

 そのとき、盾を背負った探索者が、じっと見ているのに気がついた。天音はすぐに録画を止め、カメラを丼へ向けたまま伏せる。


「すみません、撮影は止めました。お顔は映してません」

「分かってる。それより、その親子丼は、まだ頼めるか?」


 客は紬の丼から目を離さない。


「出来る。まだ仕込みは残ってる」

「では、お願いします」

「あいよ」

「晃一さん、もう注文が入りましたね」


 天音が小声で言った。

 動画を公開する前から一人釣れている。紬が食べる撮影は、思ったより客を呼ぶ力があるらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ