第10章 親子丼のレシピ動画1
休業の騒ぎの次の日、神崎屋はいつも通り営業していた。
仕込みを終え、のれんを出した途端、戸が勢いよく開く。
「晃一さん、おはようございまーす!」
最初に飛び込んできたのは天音だった。茶色い髪を揺らし、撮影用の鞄を脇へ抱えている。その後ろから、白い鎧を着た紬が入ってきた。銀色の長い髪は背中へ流れ、腰には両刃の長剣がある。二人とも、これから潜る支度だ。
「おはよう。今日も一番乗りだな」
「もちろん。晃一さんのご飯を食べないで潜るなんて、もう考えられないもの」
紬は言い切り、いつものカウンター席へ座った。
「昨日は店が休みだと分かった途端、探索をやめたんだったな。すまん」
「あれは、パーティーの残りの二人の都合が悪くなったからよ。晃一さんには何の責任も無いわ」
「紬ちゃん、休業札を確認して、二人に行かないことになったと連絡を……」
「あまね」
「はい、黙ります」
天音は口を閉じたが、三秒も持たなかった。
「それで晃一さん、お願いがあります。親子丼を作ってください!」
「注文は、いつも受けてるが」
「作るところから撮らせてください!」
「そうなら、最初から言え。別に構わないが、他の客の相手もしながらだからな」
「了解!」
天音は鞄からカメラを出した。今日は探索中に使う機材とは別らしく、卓上用の三脚、予備の電池、白い板、布巾まで続いて出てくる。
「前の動画を見た人から、神崎屋の料理を家でも作ってみたいって声が来てるんです。潜る前のご飯なら、食べたあとの変化もそのまま撮れます」
「先に言っておくが、営業中だぞ。ほかの客は映すなよ」
「もちろんです。カメラは厨房と私達だけしか映しません」
「食べる人も用意しました」
天音が紬へ手を向ける。
「私は用意されたんじゃないわ」
「じゃあ、紬は何をしに来た?」
「食べに来たの」
「なら、同じ事よ」
迷いのない返事だった。
「いつも通りじゃねえか」
「そう。これから探索なんだから、先にちゃんとバフ飯を食べてパワーアップするだけよ」
紬は長剣を壁へ立てかけ、もう箸を割っている。朝一番にギルドの訓練場で体を動かしてきたらしく、肩に模擬戦の打ち身が残っているそうだ。
「怪我してるなら先に手当てしてこい」
「訓練用の木剣でついたものだから、たいしたことないわ。それより、潜る前にバフ飯よ」
「そっちが先でいいのかよ」
「バフ飯食べれば、全回復だから同じこと」
即答されると、叱る気もなくなる。
満腹になったくらいで痛みを忘れるなら、たいしたことはないのだろう。
「厨房には入らず、ほかの客は撮るな。それでいいなら紬が親子丼を食い終わるまでは撮っていい」
「私達二人が食べ終わるまでね」
天音が元気よく訂正した。
「おまえも食うのか」
「撮影係も体力は使うので。親子丼の料金は、経費にするので領収書お願いします」
「はいはい」
定食屋で経費の話とは、しっかりしているな。




